ニートドラゴンは惰眠を貪りたい
@banana333
第1話
目が覚めた頃から俺は一人だった。
暗い暗い闇の中。俺以外は何も存在しない暗黒の底。そこが俺の住居だ。
寂しいなんて思わない。悲しみなんて一切ない。むしろこの孤独感こそ幸福だった。
ここは俺の楽園。俺以外のものは何もいらない。俺さえいればいい。俺だけいればこの楽園は完成するんだ。
他は要らない。この楽園に余分なものなんて存在する意味すらない。この地一体全てが俺のみだ。
今日も俺の平穏は続く。無限に、永劫に続く凪。
波など要らない。激流なんて以ての外だ。たとえそれが喜びの波であろうとも。
「………グルルゥ」
静寂の中、今日もまた惰眠を貪る。
静寂は子守歌、暗闇はカーテン、そしてグツグツと煮えるマグマは温かいベッドだ。
目を閉じる。……ああ、幸せだ。このままずっとこの穏やかな平穏が続けばいいのに……。
俺は前世の記憶を持っている。いわゆる転生者というものだ。
よくネット小説とかで見かけるような内容だが現実だ。ある日気が付くと、俺はこの世界に生まれ変わっていたのだ。
種族はドラゴン。卵からのスタートで、自力で殻を割ってこの世界に生まれた。
最初はそりゃ驚いたさ。なにせ目が覚めたら狭いトコに閉じ込められ、出たと思ったら種族自体が変わってたんだからな。
けどすぐに受け入れた。前世の知識はあるのだが、記憶がなかったのだ。
自分が前世ではどんな人間か知らない状態で未練なんて沸いてくるはずがない。それどころか親の顔すら覚えてなかったんだからな。どんだけ薄情なんだよ、前世の俺は。
だから俺はすぐに竜生を受け入れることが出来た。これからはドラゴンとして生きるってな。
それで次の問題はどうやってドラゴンとして生きるかだ。
どうやらドラゴンは子育てをしない種族らしく、俺は孵化してから自分の親を見たことがない。いや、親だけではなく兄弟も存在しないのだ。
一個ずつ産卵するのか、それとも別々に産むのか。それは俺にも分からない、というかどうでもいい。
大事なの竜として生きていけるかどうかだ。このまま飢え死ぬなんて洒落にならない。たとえ兄弟がいても食ってやると覚悟を決めた瞬間、俺の頭にイメージが流れ込んだのだ。
『魔素(マナ)を溶岩から取り込め』と。
それは言葉では表せない。まるで自分が最初から知ってるかのように知識として湧き出たのだ。
知識に従って溶岩に浸かる。尻尾からゆっくりと。すると尻尾を伝って何かが流れ、胃の中心あたりで自身の力へと変換され、全身を駆け巡っていった。
俺は理解した。竜とはこうして食事をするのかと。
食は確保した。衣は竜なので元からいらない。住はマグマの中で事足りるため揃っている状態。そして知識はこの謎能力のおかげでサポートされている。
そう、生まれてたった数分ほどで俺は生きるための全てを確保したのだ。
そこからはパラダイスだ。好きな時にエネルギーを補給し、好きな時に寝て、好きな時に遊べる。……これを天国と言わずして何と呼べる!?
ここには俺しかいない。邪魔をするものは何もないのだ。親の煩わしい小言にも、兄弟のうるさい鳴き声にも悩まされることがない。
「……」
今日もまた俺は眠る。明日も穏やかな日常が続くよう願いながら……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます