546 これで解決です
「帝よ、よろしいかと」
魔人族のプロキオンが元芋虫の少女を見ている。その目は鋭い。そりゃまぁ、魔人族のプロキオンは戦場で芋虫と戦っていたはずだからな。色々と思うところもあるだろう。でもさ、その分、芋虫の実力は良く分かっているはずだ。それが味方になるというなら、魔素を渡しても良いと思ったんだろうな。
「ひっひっひ、我もそれでいいと思うよ」
蟲人のウェイは賛成のようだ。ウェイは芋虫の実力を正確に把握しているワケじゃあないだろうが、それでも芋虫に味方することに決めたようだ。まぁ、ウェイは魔素に詳しいからさ、自身の知識から魔素を渡しても問題無いって思ったのかもしれないなぁ。
「ふむ。好きにすれば良いのではないか」
天人族のアヴィオールはどうでも良いという感じだな。もしかすると今までの会話を理解してないんじゃあないだろうか。その可能性はあるなぁ。アヴィオールは偉そうなだけで何も考えていないからなぁ。
「姉さま、魔素に関しては何も言いません! ですが、こいつと協力するのは反対です!」
赤髪のアダーラは元芋虫の少女の方を見ず、腕を組み、ふてくされたような顔をしている。赤髪のアダーラは元芋虫の少女に魔素を渡すのは黙認って感じかな。だけど協力はしたくない、と。そりゃまぁ、ずっと戦争で戦っていたワケだしなぁ。しかも勝てなかった相手だ。アダーラからすれば協力するのは面白くないだろうなぁ。
ふむ。
一応、みんな賛成って感じか。
「分かりました。魔素の件はノアさんの好きなようにしてください」
「良かった。これで解決ですね」
元芋虫の少女はのんきにそんなことを言っている。
いや、何も解決していないだろ。
というか、よく考えたら、いや、よく考えなくても、別にこの元芋虫は俺たちに断る必要って無いんだよな。無断で好きなだけ魔素を持っていくことも出来たはずだ。でも、それをしなかったのは、きっと、この世界の人たちと仲良くなりたかったから、なんだろうな。この元芋虫が律儀だったというのもあるだろう。
……。
そう考えたら、この元芋虫は信用も信頼も出来るかもしれないな。
「えーっと、それで、自分たちは猫人の料理人さんを助け出すために大陸の種族の王国に戦争を仕掛けるつもりですけど、どうしますか?」
俺は元芋虫の少女に確認する。戦争と言っているが、まぁ、戦いにならないだろうけどな。人種の遺産が無ければ、大陸の種族は四種族に勝つことなんて出来ないだろうからな。
なんというか、ただの蹂躙になるだろうな。
まぁ、俺だって戦争がしたくて行うワケじゃあない。それは四種族も同じだ。四種族もさ、本当は、ただ静かに暮らしたかっただけなんだからな。
「そりゃあ、うん、どうしようか?」
元芋虫の少女は腕を組み、そして首を傾げる。
……。
それを俺に聞くのか。
「えーっと、一緒に来て、助けてくれるなら、こちらは随分と助かりますけど、その、人型にはいつでもなれるんですか? 会話が出来ないと、ちょっと……」
俺の言葉を聞いた元芋虫の少女が腕を組んだまま顎に手をあて、悩んでいる。
元芋虫の少女の目的はこの世界の魔素を自分の世界に持ち帰ること。それはまぁ、本当は許可を取る必要なんて無かっただろうし、いつでも解決が出来ただろうな。だから、この世界で遊んでいたんだろうしな。そうなると、後は猫人の料理人さんの救出だけだ。
そこは協力出来ると思うけど、それだけなら、この元芋虫の少女一人で出来るだろうしなぁ。それだけこの元芋虫の少女は異常な強さを持っている。
強さの前には全てが無駄になるのだ。
「うーん、そうだなぁ。一緒に行って……あ、時間」
そう言うと元芋虫の少女がピカピカと輝きだした。そして、ポンという感じで元の芋虫の姿に戻った。
……。
えー。
ここで戻るのかよ。
……。
これさ、返答が面倒になったから元に戻ったんじゃあ無いよな?
この芋虫だとさ、その可能性があるからなぁ。
ホント、信じられない芋虫だよ。
俺は皆を見る。魔人族のプロキオン、蟲人のウェイ、天人族のアヴィオール、獣人族のアダーラ、皆が困惑した顔で芋虫を見ている。
そりゃまぁ、困惑するよな。
「あ、えーっと、ということで、大陸の種族の王都に攻め込みます」
とりあえず、俺は話をまとめる。
皆は困惑した顔のまま頷く。
王都の場所は分かっている。天人族の隠れ里を目指していた時に通ったからな。結界が張られていたけど、それもまぁ、何とかなるだろう。
天人族の皆さんに竜になってもられば、現地まではすぐだろうし、まぁ、ちゃちゃっと解決してしまおう。
んで、だ。
問題はどれだけの人数で行くか、なんだよな。
まだ人種の遺産は残っているし、他にも何か隠し球が残っているかもしれない。
全員で行くべきなのか、それとも少数精鋭で行くべきのか。
さあ、どうしよう。
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