282 時間操作

「えーっと、何が直ったんですか?」

 機人の女王は表情のない顔のまま首を傾げる。


 俺は改めて機人の女王の顔を見る。朝、俺のところにやって来た時と同じ無表情だ。表情を作る練習は止めにしたのだろうか。まぁ、正直、端から見ると少し怖いような表情になっていたから……これで良いのかもしれない。


「母様、何を言っているのじゃ。ゴーレムが直ったのじゃ」

 ん?


 ゴーレムが直った?


「あれ? えーっと、またゴーレムが壊れたんですか?」

 俺の言葉を聞いた機人の女王がもう一度首を傾げる。無表情のまま、ねじ切れそうな勢いで首を傾げている。

「また? 母様は何を言っているのじゃ? とにかく見て貰った方が早いのじゃ」


 俺は機人の女王に連れられるまま中庭へと向かう。うーん、レベルが下がった原因を探ろうと思ったんだけどなぁ。


 俺は機人の女王の後ろを歩きながら考える。魔力がごっそりと減った感覚があった。あれは、多分、レベルが下がったからごっそりと減ったのだろう。


 原因は……タイムの魔法を使ったからか?


 タブレットの時刻を調整するだけでごっそりと魔力が減るってことなのだろうか。うーん、迂闊に触れないようにするべきか。いや、でもさ、今までこんなこと無かったからなぁ。時刻の表示に触っても何も起こらなかったはずだ。


 それが、何故、今になって動くようになったんだろうな。


 中庭で待っていたのは鍛冶士のミルファクと黒いマントに覆われたゴーレムだった。

「どうさね」

 鍛冶士のミルファクは人の背丈ほどあるハンマーを支えに、偉そうに胸を張っている。


 どうさね、って、ゴーレムだよな。マントの性能試験は終わったし、また、あれから何か手を加えたんだろうか。


 って、あれ?


 そういえば、陽が落ちていたはずなのに、いつの間にか陽が昇っているな。


 ん?


 起きていたつもりが、いつの間にか眠っていた?


 うーん。


 最近疲れていたからなぁ。と、もしかすると魔力をごっそり失った影響で気を失っていたのかもしれない。魔獣に囲まれた状況じゃあなくて良かったぜ。


 んで、だ。


「えーっと、なんだか得意気ですが、何か新機能を搭載したんですか?」

 俺の言葉を聞いてミルファクがよくぞ聞いてくれたと言わんばかりにニヤリと笑う。

「これはマントさね」

「マント?」

 知ってる。俺は今更何を言い出すのだろうという感じで問い返すと、ミルファクが良い笑顔のまま頷いた。

「そこの女王様から壊れた時の状況は聞いたからね。このマントが衝撃から身を守ってくれるはずさね」

 そして、ミルファクはそんなことを言った。


 ん?


 今更、マントの説明なんて聞かなくても、実験したからその性能は分かっている。


 んんー?


 いや、待てよ。


 ミルファクの……、この、言葉……、俺は、聞いたことがある……よな?


 俺は酷く間抜けな顔をしていたのかもしれない。


「あのー、えーっと、マントの性能実験は昨日やりませんでしたか?」

 俺は恐る恐る聞いてみる。

「何を言っているのさね。まだ寝ぼけているとは思わなかったよ」

 ミルファクが大きくため息を吐き出し、呆れたような顔で俺を見ている。

「そうですよね。やりましたよね」

「これの性能実験はこれからやってもらうのさね」


 マジか。


 マジだ。


 いやいや、あり得ないぞ。いや、あり得るのか。


 何だ、何が起こっている。


 俺はタブレットを取り出す。


 レベルは42に下がっている。


――[タイム]――


 タイムの魔法を発動させ、現在の時刻を表示させる。


「どうしたのさね。早く試して欲しいんだがね」

 ミルファクが俺を急かすが、今はそれどころじゃあない。


『08:25 42』

 朝だ。


 過去に……。


 見たことのある出来事。


 体験した出来事。


 まさか本当に……過去に戻ったのか。


 俺はタブレットに触れ、時刻を動かすように指を滑らせる。


 ……だが、動かない。


 表示は変わらない。


 何故だ?


 俺は秒数の方に指を置き、滑らせてみる。


 動いた。


 次の瞬間、俺の中でぽんと魔力が消える。


「……試して欲しいんだがね」

 ミルファクの声。さっき聞いた声と同じだ。一字一句、声の質から何から変わらない。


 俺はタブレットを見る。


 レベルが41に下がっている。


 これは……確定か。


 秒数はタイムの魔法がレベル2になったことで表示されるようになった。


 ……意味が、あったのか。


 タイムの魔法は現在の時刻を表示させるのではなく、時間を操る魔法だった。まだ検証段階だが、これは過去方向への移動しか出来なさそうだけどな。


 んで、だ。


 レベル1で時と分、レベル2で秒を操る、と。


 で、これも多分だが、時の変更は魔力を10レベル分、秒の変更は1レベル分を消費するのではないだろうか。


 ……ちょっと代償が大きすぎるな。それだけ時を操るのは恐ろしい力だということなのだろう。


 んで、だ。


 時間の方が動かせなくなったのはもしかすると魔力不足だから、だろうか。動かすのに10レベルを消費するワケだけど、もしかすると50レベル以上じゃないと使えないとか、そういう制限があるのではないだろうか。


 そう考えれば今まで動かせなかったのも納得が出来るしな。レベルが50を越えて52になっていたからタイムの魔法の時間が動かせるようになった。使用して42レベルになったから使えなくなった。


 正しい気がする。


 でも、10レベル分の消費かぁ。それだけの魔力を集めようと思ったら一月くらいはかかるんじゃあないだろうか。


 うーん、便利というか、奥の手にはなるけど、代償が大きいなぁ。

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