281 螺旋開始

「どうしたのさね。私の言ったことが信じられないのかい? 自分たちで何かを作り出すことを苦手としていた魔人族が、あんなに楽しそうに動いているのを見れば私の言ったことが本当だと分かるはずさね」

 俺が無言だったからか、何を勘違いしたのか鍛冶士のミルファクがそんなことを言っている。


「あ、えーっと、いや、大丈夫です。分かってますから」

 お金や欲で縛る必要がないってことは分かったさ。にしても、魔人族は何かを作り出すことが苦手な種族だったのか。そりゃあ、それだと原始人みたいな生活になるよな。ホント、今まで良く生活が出来ていたよな。ミルファクが居なかったらヤバかったんじゃあないだろうか。


「我々はこんなものを取ってきたぞ。調理してみてくれ」

「何遍も言いますが、私は甘味専門なのですが……」

 俺がそんなことを考えている間にやって来た天人族の一団が猫人の料理人さんに食材を渡している。ちょっと困り顔の猫人の料理人さんとガッツポーズでやる気十分な魔人族の女性が対照的だ。魔人族の女性はなんでも挑戦して料理したい時期なのだろう。


 本当に楽しそうだ。


 その日の夜、俺は自室でタブレットを確認していた。


 ゴーレムが起動出来るようになってから鑑定にくらいしか使っていないタブレットだ。


 表示されているのは……。



 レベル52

 称号:笑顔の伝道師・農家・神帝・エレメント火・ボアキラー・ノービス・ごっこ勇者

 クラス:猫耳

 サブクラス:神帝

 BP0

 スキル:共通語3

     共通語書読1

     魔人語3

     辺境語0

     獣人語0

     音感0

     察知1

     料理1

     農耕1

     剣技0

     槍技2

     ・二段突き2

     ・旋風槍0

     斧技0

     盾技0

     火耐性3

     魔力操作5

     魔力変換5

 魔法:草4

    ・サモンヴァイン4

     ・エルサモンヴァイン1

    ・グロウ4

     ・エルグロウ1

    ・シード4

     ・エルグロウシード1

    ・ロゼット2

    時4

    ・タイム2

    ・ストップ1

    ・ヴィジョン2

    ・リターン3

    火燐1

    ・スパーク1


 色々とツッコミどころが満載だ。称号が増えているのもそうだが、今までクラスに表示されていた神帝がサブクラスになり、良く分からない『猫耳』というクラスに変わっている。


 うーん、おかしいな。ちょっと前までは、そんな称号やクラス、表示されていなかったはずなんだけどなぁ。


 農家はずっと小麦を育てていたから獲得したのかもしれない。笑顔の伝道師は機人の女王に笑顔の作り方の話をしたからかなぁ。

 クラスが猫耳になったのは、アレか。ゴーレムに猫耳を生やしたからか? 冗談抜きであり得そうだな。んで、神帝のクラスは削除出来ないから、サブクラス枠に移動したみたいな感じだろうか。多分、きっと、うん、まぁ、そうなんだろう。


 んで、だ。


 レベルが大きく上昇している。


 まぁ、これは当然だろうな。レベルが何を示しているか――それは魔力の総量だろう。保有している魔力が増えれば増えるだけレベルが上がる。そういうことなのだろう。今まで突然、レベルが上がった理由もこれで説明が出来る。そして、途中でレベルが上がらなくなっていた理由も魔力が増えなくなっていたから、だろうな。


 ハーフは勝手に魔力が体を循環しているから怪力にはなっているが、そのせいで余分な魔力がなく魔法が扱えない。魔力が足りない状況だ。そして、そんな状況だからレベルも上がらない。成長しない。もしくは非常に成長が遅い。まぁ、そこは何故か俺は特殊で魔力が多かったからなんとかなっていたワケだけどさ。多分だけど、ハーフが大陸で忌み嫌われる理由の一つになっているんじゃあないだろうか。


 この体になった時、俺はレベル4だった。多分だけど、ハーフではあり得ないレベルの魔力だったからレベルが4だったんじゃあないだろうか。まぁ、今は、さらにその頃とは比べられないくらい魔力が増えているワケだけどさ。それこそ何十、何百倍以上だろう。それがレベルに現れているのだろうな。


 機人の女王が俺の中で滞っていた魔力の流れを直してくれた。だから、レベルが上がるようになった。今までたまっていたものが一気にあふれるようにレベルが上がった。


 そして、だ。


 BPだな。これは体内にためた魔力を変換してスキルや魔法にする力なんだろうな。だから、魔力がたまるとBPも増える。自分の中の魔力を使ってスキルや魔法を構築したら、その分、魔力が減ってレベルが下がりそうなものだが、そこはまぁ、上手いこと調整しているのだろう。魔石を食べたら、レベルではなくBPに振り分けられたように、な。

 実際、今表示されているレベルとスキルや魔法の数値の合計があっていないからな。もうこれで確定だろう。


 分かってみれば何と言うことは無いな。


 と、そういえば、いつの間にかタブレットに時刻が表示されなくなっているな。タイムの魔法の効果時間が切れたか。


 まぁまぁ便利だから、表示させるだけ表示させておくか。


――[タイム]――


 魔法が発動し、今の時刻が表示される。


 『18:12 24』


 もう18時か。そりゃあ、外が暗くなるワケだ。そろそろ晩ご飯の時間だな。レベルが2になって秒数が表示されるようになったけどさ、ホント、無意味な機能だよなぁ。秒が必要になるようなことなんて殆どないってぇの。


 と、そこでタブレットを持っていた指が滑り、時刻表示に触れてしまう。


 あ。


 表示されていた時間が動く。


『08:12 59』


 あ。


 時刻の調整機能もあるのかよ!


 って、でもなぁ。他に時計があるワケでもなく、今の時間なんて、このタブレットでしか分からないのにさ。必要か、これ?


 というか、だ。時間を調整しないと駄目なような、ずれることがあるのか? 俺はこの時刻が正確だと信じて見ているのにさ。


 ……。


 あ、あれ……?


 と、そこで俺の中で何かが、大きくごっそりと減った。


 何か?


 違う、これは魔力だ。


 俺の中の魔力がごっそりと減った。


 な、何が起こった?


 改めてタブレットを見る。


 表示されているレベルが52から42に減っていた。まさか、魔力が減ったからレベルが下がったのか?


 いや、でも、何故、魔力が減ったんだ?


 何が起こった?


 と、そこに機人の女王がやって来た。

「母様、直ったのじゃ」

 機人の女王が突然、そんなことを言いだした。


 ん?


 直ったって何が直ったんだ?

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