272 真の威力
目標とした木まで魔力を伸ばす。距離的には先ほどと変わらないくらいだろう。だいたい、300メートルくらいだろうか。
魔力をガイドラインとしているから外れることはないな。
では、行きますか。
矢を放つ。
放たれた矢は一瞬にして目標の木へと到達し、そして爆発した。
爆発?
そう、爆発にしか思えない。目標とした木を中心として光が、魔力の渦が、波が広がる。ヤバい。これ、不味い奴だ。
――[ストップ]――
一瞬にして世界が灰色に染まる。時を止める。魔力の波の中心には渦巻く球体が生まれているのが見える。あれは不味い。本当に何と反応してあんなものが生まれたのか分からないが、アレに飲まれたら終わる。
俺は全方位に広がった視界の中でプロキオンと機人の女王を確認する。反応出来ていない。俺だってストップの魔法を使って時を止めていなければ、こんな風にゆっくりと考えている暇もなかったはずだ。
どうする、どうする?
このまま時を止め続けるのは……無理だ。そろそろ効果時間が切れる。息が続かない。
……。
くそ、どうすれば良いか思い浮かばない。
……。
……。
そして、世界が動き出す。
俺はゴーレムを反転させ、未だ反応出来ていないプロキオンと機人の女王に覆い被さるように動かす。ゴーレムの体に魔力を流し続け、強化する。
み、身を守れ!
……。
波は、魔力の爆発は発生も早かった分、一瞬で終わった。だが、その一瞬が、俺には何倍にも、何千倍にも長い時間に感じられた。
ゆっくりと周囲を見回す。半径1キロメートルほどだろうか、周囲には何も無くなっていた。
は、ははは、マジかよ。
城から離れて練習して良かったよ。これ、城の中庭でやっていたら、危なかった。何人か死人を出していたんじゃあないだろうか。プロキオンやウェイ、アダーラ、アヴィオールなどの上位陣は生き残るだろうけど、下っ端は絶対に助からないぞ。猫人の料理人さんを、皆を殺していたかもしれない。
ホント、危なかった。
そして、試してみて良かった。これを実戦でいきなり使っていたら、ヤバかったな。
ゴーレム、ヤバい!
にしても、こんなのが後十一体もあるだって? おいおい、神域に住んでいた連中は何と戦うつもりだったんだよ。これだけの戦力が必要な相手って想像が出来ないぞ。
……。
さすがに、これほどの力はないだろうけど、異世界人連中の手に、同じような人種の遺産が渡っているんだよな? いや、ホント、このクラスの威力を持ったものは向こうに存在していないと信じたい。
やべぇな。
語彙力がなくなるくらいにヤバい。
と、そこで、ゴーレムの力がなくなったように暗闇に包まれた。周囲の景色が消えた?
そして、俺の体がゴーレムから排出される。
へ? え?
なんでだ?
「こ、これほどの威力とは……」
ゴーレムで庇った魔人族のプロキオンは、信じられないものを見たという感じでわなわなと震えながら、そんなことを呟いている。無事だったか。無事で良かった。
うんうん、そうだよな。驚きの威力だよな。
にしても、なんで、ゴーレムから強制的に排出されたんだ?
俺は、そのゴーレムを見る。
……。
ゴーレムは体を歪ませ、凹んでいた。
あ、あ、これは駄目なヤツだ。
大気圏突入にも耐えられる真銀で作られた装甲が凹む? 歪む? しかも俺の魔力を流し続けて強化していたのに?
よく見れば、プロキオンが見ているのは周囲の景色じゃあなかった。ゴーレム自体だ。あー、うん、周囲の景色を作るくらいの破壊魔法はあるのかもしれないなぁー。でも、頑丈な装甲のゴーレムを駄目にするのは、ビックリするような威力だよなぁ。
って、駄目じゃん!
もしかして、ゴーレムが大破した?
魔力の爆発の余波だけで?
これ、中心地だったらどうなっていたんだ?
こんなもん、普通に扱えないだろ。威力がありすぎだろ。
散々、口を酸っぱくして機人の女王を怒ったのに、俺自身がゴーレムを壊してどうする!
……。
俺は機人の女王を見る。
「母様の魔力は凄いのじゃ」
表情が変わらないので分からないが驚いているようだ。
「あ、えーっと、これ直るかな?」
俺の言葉を聞いて今分かったという感じでプロキオンが俺を見る。ショックでそこまで頭が回っていなかったか。
「み、帝よ。か、あの者なら直せるかも、しれません、ね」
プロキオンはまだ混乱しているようだ。あの者? もしかして鍛冶士のミルファクか? うーん、まぁ、魔石をゴーレムの動力に加工したくらいだから、直せないこともないのか、なぁ。
と、混乱したプロキオンとともにそんなことを考えていると機人の女王が動いた。ゴーレムに触れて目を閉じている。
「えーっと、何を?」
「破損部分を確認しているのじゃ。うむ。この程度なら直せると思うのじゃ」
お?
おお?
「母様、どうするのじゃ?」
機人の女王が聞いてくる。ちゃんと確認してくれるようになって偉いぞ。
答えはもちろん。
「直してください。お願いします」
いやぁ、マジでヤバいかと思ったよ。
ホント、こんな簡単に壊れるとは思わなかった。
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