271 稼働実験
プロキオンと機人の女王を待っている間、ゴーレムを使って遊ぶことにする。いや、遊びじゃあないな。稼働実験だ。
尻尾を動かし、そこら辺の木に巻き付けてみよう。木の太さは俺自身の両手で抱え込むことが出来ないくらいか。そこまでの巨木ではない。
尻尾を動かす。
すかっ。
ゴーレムの尻尾が見当違いの場所に動いていた。ゴーレムの尻尾は確かに自分が思ったとおりに動いている。だが、距離感を見誤っていた。
う、うーん。自分の思い通りに、自分の体の延長のようにゴーレムを動かすことは出来るけど、自分の体の大きさとの違いから来る距離感の違いが酷いな。見えていても、見ていても……うーん、目測を誤ってしまう。初めて車を運転した時みたいな感覚だなぁ。自動車教習所の車庫入れで、バックで入れようとして、上手く入れたつもりがポールに当たってしまった時のような感じというか……。
これは本当に慣れが必要なようだ。
目の前の木に手を伸ばし、触れる。その距離感を意識しながら、尻尾をゆっくりと木の方へと伸ばしていく。全方位に広がった視界で尻尾を見ながら動かす。よし、木に触れるような位置に尻尾が伸びたぞ。で、ここから木に巻き付けて、と。
よしよし、上手く巻き付けることが出来た。距離の感覚はこんなものか。次はもう少し上手く出来そうだ。
うんではッ!
そのまま尻尾に力を入れる。
バキリッ。巨木というには物足りない太さだったが、それでもそれなりの太さのある木が簡単に砕け、潰れる。倒れてきた木をゴーレムの手で受け止め、優しく降ろす。
分かっていたことだがゴーレムはなかなか怪力なようだ。これ、俺でも本気で魔力を纏わないと対抗出来ないかもしれないなぁ。いやぁ、このゴーレムが異世界人の手に渡らなくて良かったよ。敵対するつもりはないけど、相手の出方次第では分からないからなぁ。そんな相手に、こんな力があったら……考えただけで恐ろしいな。
そんなことをやっている間にプロキオンと機人の女王がやって来る。早いな。プロキオンは複数の矢を空間に納めていて、かなり重たいだろうに、やっぱり魔人族ってさ、身体能力が凄く高いよなぁ。
「矢をお願いします」
「帝よ、どうぞ」
プロキオンの言葉にあわせるように何も無い空間から矢が現れ、ぽろぽろと落ちてくる。それを落とさないようにゴーレムで受け止める。空間魔法で保存したものって、取り出す時に、こうやって落ちてくるのが難点だよな。空間から取り出す、その座標指定が難しいのだろうか。まぁ、俺は扱えない魔法だからよく分からないな。
さて、と。
矢も手に入ったし、早速、一発撃ってみますか。
うろ覚えの知識だけど、一般的なライフル銃で数百メートルくらいの射程距離だったはずだ。スナイパーライフルで1キロメートルとかだよな。
魔法のある世界で、巨大な弓と矢を使うんだ。ライフル銃くらいの射程距離は欲しいな。となると、まずはそれくらいを目安にしてやってみるか。
「えーっと、そこの木を的にしたいので、その木から、この矢が百本分くらいの距離を測って貰えますか?」
「うむ。任せるのじゃ」
俺は距離の測定を機人の女王に任せる。こういうのは得意だろうからな。
機人の女王が計った場所までゴーレムを動かす。ここでだいたい、2,300メートルくらいか。
では、やりますか。
弓の矢を番え、引き絞っていく。狙いをあわせ、放つ。
弓の性能が良いのか、矢は真っ直ぐに飛び、狙っていた木を貫き、砕いた。矢はさらに飛び、次の木に当たって跳ね返る。勢いに耐えられなかったのか矢は折れ、くるくると宙を舞っていた。その当たった木は削れ、今にも倒れそうな状態だ。
一本目を貫通して、それでもまだ、これか。これなら射程距離は1キロメートルくらいはあるかもしれない。スナイパーライフル並みの弓か。凄いな。
でも、なぁ。
うーん。思ったほどでもないというか、こんなものか、って感じなんだよな。
超兵器と呼ぶには物足りない威力だ。これならさ、ハンマーを持った鍛冶士のミルファクの方が凄くなかったか?
確かに凄いけど、凄いんだけどさ。火薬を使っているワケじゃあない物理的な力だけで1キロメートルは飛んで、木を貫き、砕くほどの威力だ。普通に考えれば凄いよ。
凄いんだけど、魔法のある世界だと物足りないというか、これくらいなら魔力を使うとか、魔法の方が凄いというか……。
って、ん?
魔力?
あ。
ま、まさか。
俺は、このゴーレムが、ゴーレム自体が力だと思っていた。
だけど、違うんじゃあないだろうか。
武器に魔力を流すことは出来る。いや、武器に魔力を流し込むのは基本だ。となれば……。
俺はゴーレムに魔力を流し込む。
そうだ。そうだよな。
弓の基本は、弓の魔力を流し込み、その魔力を番えた矢から対象まで伸ばしていく……だったな。
さあ、ここからがゴーレムの本当の力だ。
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