265 ユニット

「えーっと、弓の鍛錬ですが、今回は……ついにゴーレムを使おうと思います」

「おお! 帝よ、それは素晴らしいです、ね」

 俺の言葉を聞いた魔人族のプロキオンが嬉しそうな表情を作る。あー、プロキオンもこういう表情を作れるんだな。


 んで、だ。


 そこまでは良い。良いさ。


 考えてそのまま放置していた案件がある!


 ゴーレムをどうするか、なんだよなぁ。


 ゴーレム用の矢は機人の女王が作った物があるから問題無いだろう。ゴーレムの元まで運ぶのは大変だが、そこは空間属性を扱えるプロキオンに頼めば問題ないはずだ。まぁ、重さはそのままらしいから、プロキオンは大変だろうけど、魔人族の身体能力ならこれくらい余裕で運んでくれるだろう。


 んじゃ、まぁ、とりあえず普通に神域に行ってみよう。うん、それは決定だ。


 で、だ。着いたらどうするかだよなぁ。先ほどの話に戻るが、結局、どうするか、なんだよ。神域でゴーレムを使った矢の練習をしても良いけど、玉座の間は他のゴーレムが並んでいて邪魔になるし、かといって通路で練習するのも壁を傷つけそうで危ないし、どうするか、なんだよなぁ。うーん、練習するなら、機人の女王を発見した、あの地下で行うか。広さ的にもちょうど良さそうだ。よし、そうするか。


「プロキオン、ゴーレム用の矢を運んで貰っても良いですか?」

「帝よ、お任せを」

 プロキオンは何処か嬉しそうな雰囲気を纏っている。そりゃまぁ、プロキオンの目的って異世界人に対抗する力を手に入れることだったワケだし、その力だと見込んだ女神の秘宝――ゴーレムに関することだからな。待ってましたって感じなんだろうな。


「ふむ。ゴーレムには興味がある。わらわも一緒に行くのじゃ」

 機人の女王も一緒に来るようだ。まぁ、機人の女王の場合は俺と魔力で繋がっているから、一緒に居ることが多いし、いつものことだな。


「えーっと、では行きましょう」


 城内に改めて作り直したリターンの輪っかから三人で神域に向かう。


 さて、と。


 さすがに巨大な――十数メートルはある大きさのゴーレムを持ち運ぶことは出来ない。あの地下まで運ぶとしたら、俺が中に入って動かすしかないだろう。


 ゴーレムの起動は久しぶりだな。


 本当はもっとガチガチ動かして色々と試してみたいんだけどな。いや、だってさ、このゴーレムって要はパワードスーツじゃあないか。もっと言えば搭乗式のロボットだ。


 浪漫だろう。


 こんなものがあるのに動かすのを我慢しないと駄目ってのは、俺も辛かったさ。


 でも、仕方ないだろう。


 ゴーレムを動かすために動力となる巨大な魔石をプロキオンが手に入れてきた。その魔石が消耗品だとは思わないじゃあないか。そう、魔石は消耗品だった。つまり、ゴーレムは動かせば動かすだけ、魔石を消費する。そして、無くなってしまえば動かなくなってしまう。確か、このゴーレムの動力にする魔石を手に入れるのは凄い大変だったんだよな? その入手のためにかなり長い期間、プロキオンは魔人族の里に戻ってこなかったからな。


 そうなると、何も無い時に動かせないよなぁ。


 せめて弓が扱えるように矢が揃ってからだ。矢の製造も色々あってからだったよな。いやだってさ、そればかりを優先するワケにもいかないしさ。


 んで、まぁ、矢も機人の女王に作って貰ったし、数も揃った。俺自身の鍛錬や畑、建物の建築、色々なことが一段落ついた状態だ。ここらで少しくらいは練習しても許されるだろう。


 そう、やっとゴーレムが動かせる!


「ふむ。これなのじゃな」

 俺がそんなことを考えている間に機人の女王がゴーレムに乗り込んだ。


 って、へ?


 な、な、な、何をしてくれちゃってるの!?


 俺がゴーレムに乗るのを我慢していたのに、やっと乗り込めると思ったのに、何してるの!


「えーっと、聞こえますか? ゴーレムは動かすだけで動力に使われている魔石を消費します。魔石は貴重なので遊びに使っている余裕はないんです!」

 俺は真銀で作られたゴーレムの足をガンガンと叩く。これ、聞こえているかなぁ。いや、でも、ゴーレムが周囲の音を拾っているはずだし、全方位に視界が広がっているはずだから、機人の女王も気付いているはずだ。


 ゴーレムが立ち上がり、動き出す。手に持っていた弓を引き絞るなど、動作チェックのような動きを繰り返している。


 いやいや、マジか。聞こえていないのか? いや、聞こえているはずだ。聞こえているよな?


「えーっと、聞こえていますよね! 一旦降りてください」

 もう一度、ゴーレムの足をガンガンと叩く。


 ……。


 真銀製でも俺が魔力を込めて本気で叩けば破壊出来るんじゃあないだろうか。なんとなく出来そうな気がする。


 ……。


『聞こえているのじゃ』

 と、そこで拡声器で無理矢理声を大きくしたような声色で機人の女王の声が聞こえた。

「聞こえているんですね。では、えーっと、一旦降りて……」

 良かった。危うく無理矢理破壊してしまうところだった。出来そうだったから、思わずでやってしまうところだった。危ない、危ない。


『その心配は無用なのじゃ。このユニットと繋がり情報を参照して分かったのじゃ。わらわを介して、動力に魔力を充填することが出来るのじゃ。おぬしが心配するようなことは起きぬのじゃ』

 へ?


 えーっと、つまり、機人の女王がいれば魔石の充電が出来るってことか。


 マジか。


 もっと早く知りたかった。


 知っていればゴーレムを使って遊びまくれたのに!


 いや、それなら、今すぐでも遠慮無く使えるじゃあないか!


 早く降りてくれ!

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