255 衣食住だ
衣食住。人が人らしく生きていくために必要な三つの要素だ。大昔の言葉には『衣食足りて礼節を知る』なんて言葉があるくらいに大切だと思われているものだ。
「姉さま! 弓の鍛錬の必要はなくなったのですから、槍の鍛錬の時間を増やすべきです!」
「何を言い出すかと思えば……帝、この者の言葉に耳を貸しては駄目です、よ」
今、俺たちは例の城の中に居る。城の外装工事は順調に進んでいる。若干、コミカルというか何処か歪んでいるような建物に変わろうとしているが、これくらいの方がやって来た人を威圧しなくてちょうど良い気がする。んで、だ。俺たちが、この城の中で何をしているかというと――食事中だ。
「ひひひ、それなら我が帝に魔力の扱いを教え込むとするかね」
「うむ。我は帝に空を飛ぶ鍛錬をしようぞ」
「帝が弓を扱えるといって鍛錬の時間が不要になった訳では無いということが分からないのですか、ね」
城に住めるようになったことで食事の場が工房前から城に移っている。鍛冶士のミルファクも鍛冶道具の一式をこちらに移して引っ越してくる予定だ。
「帝は鍛冶で煮詰まっているようさね。戦いの鍛錬は一度全て切り上げて鍛冶に集中するのが一番さね」
「いえ、それはあり得ないでしょう、ね」
今日の昼ご飯はそうめんだ。暑い時期には最高だな。こう、めんつゆにつけてずるずるっと。小麦があるんだから、そうめんが作れてもおかしくないよなぁ。いや、麺の太さ的には冷や麦になるのか? まぁ、どちらでも似たようなものか。いやぁ、麺は良いんだよ、麺は。めんつゆだよ、めんつゆ! 魚介だしの効いためんつゆを作ってしまうんだから、うちの料理人さんは天才だよなぁ。ホント、知り合えて良かったよ。
ずるずるっと食べられて最高だ。
「ひひひ、今、帝に必要なのはイケニエに負けぬ戦う力だね」
「まーう」
んで、だ。話は戻るが衣食住だ。
とりあえず城という住は手に入った。いや、本当は神域を拠点にするつもりだったんだけどさ、まぁ、流れというか、そういう感じで皆で城に住むことになった。ベッドや布団や枕……まだまだ改善して欲しいところは山積みだが、とりあえず住は人として最低限のレベルになったと思う。
食も……ずるずる、猫人の料理人さんのおかげで、ずるずる、ホント、いつも少ない食材で工夫して、ずるずる、美味しいものを、ずるずる、この世界でそうめんが食べられるとは思わなかったし、ずるずる、助かってる、マジ助かってる、ずるずる、最低限のレベルになったと思う。
んで、だ。
衣だよ、衣!
着るものだよ!
俺が今身につけているのは、ただ体に布を巻き付けただけという原始人な服装だよ! プロキオン、ウェイ、アヴィオール、アダーラ、ミルファク、さっきから色々と言っているようだが、お前らが崇めている帝の格好がこれってどうなんだよ!
一応、今の俺の外見って、尖った獣耳にふわふわ尻尾がくっついているけど、お年頃な女の子なんだぜ。中身は、まぁ、俺なんだけどさ。その女の子が何処の原始人だっていうような格好をしているのに、何も思わないのかよ。この格好じゃあ、威厳ゼロだよ、ゼロ。
ミルファクは鎧しか作れないって言うしさ……。
今まで優先することが多くて、衣を後回しにしてきたけどさ、そろそろ何とかしたい。するべきなんじゃあないだろうか。
「皆のもの、良く聞け。えーっと、そろそろまともな服が欲しいです。特に下着。何とかなりませんでしょうか」
だから、俺はそう提案した。
「帝よ、好きでそのような格好をされていたのではなかったのでしょうか」
魔人族のプロキオンが優雅に頭を下げ、そんなことを言いだした。するかよ。好きで原始人みたいな格好をするかよ!
「そうさね。私は鎧専門だから、服は難しいさね」
鍛冶士のミルファクがそんなことを言っている。知ってる。知っているよ。さっきもそれを思い出していたところだよ!
「わらわと同じような金属のドレスで良ければ作るのじゃが」
機人の女王はそんなことを言っている。ありがたい、ありがたい申し出だが、それは勘弁して欲しい。ドレス……というか、いかにも女の子らしい格好は抵抗があるんだ。譲れないラインというか、俺の中の男の子の部分が、その一線は越えたら不味いとささやいているんだ。それに、金属製だとなぁ。重くて肩が凝りそうだし……それ以前にさ、地肌に金属は、なぁ。下着無しで金属製の服とか、ヤバい予感しか、ない。
そうだよ、下着だよ。俺は下着が欲しいよ。
下とか無防備じゃん。
こう、風でも吹いて巻き付けた布がぺろんとでもめくれたら丸見えだぜ。俺、羞恥心で死んじゃうぜ。まぁ、俺みたいなちっこい子の肌なんて見てもなんとも思われないのかもしれないけどさ、俺が嫌なんだよ。
……。
俺、今までよく我慢していたよなぁ。
いや、いつかは提案しようと思っていたんだよ。だけどさ、まずはこの名も無き帝国を起動に乗せること、俺の力をつけること、それらを優先したんだよ!
我慢していたんだよ!
それにさ、気付いてくれると思うじゃあないか。
でもさ、一向に提案はないし、そのままだし、さ。コイツら下手に力を持っているから、考え方が普通と違うんだよな。強者だから、強さ意外に無頓着というか……。
これは不味いって思ったんだよ!
そろそろ、俺、わがまま言っても良いよな?
次は『衣』を何とかしよう!
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