235 考察作業

 今日も今日とて日課の草魔法。


 毎日の朝の日課として、草魔法を使って作物を育てている。いや、正確に言えば増やしている。

 今日は猫人の料理人さんが採ってきたトウガラシを増やしている。小麦に関しては充分な数が確保出来たのと、森を切り拓いた畑の方でも育成を始めたのでストップだ。まぁ、トウガラシのようなもの、小麦のようなもの、なので実際は違うのかもしれないけれど、似たような外見で似たような味なら、トウガラシ、小麦と言っても問題はないだろう。


――[エルグロウ]――


 草魔法を使えばあら不思議。辺り一面にトウガラシが!


 俺は気付いてしまった。


 俺の草魔法、凄すぎる。これ、チートだよなぁ。ずるっこい魔法だぜ。


 だってさ、草魔法なら育てる手間が全部省けるんだぜ。土の栄養がーとか、連作障害がーとか、害虫、害獣対策がーとか、受粉作業がーとか、全部、省けてしまえる。これは異常なことだ。農業をやっている人からすればフザケるな! って、言いたくなるような魔法だ。


 まぁ、もちろん何も問題がないワケがない。一見、チートにしか見えない魔法だが、やはり問題は発生している。その一つは……これはまぁ、メリットでもあるのだが、味が均一だということ。どれも同じ味にしかならない。これに関係することだが、品種改良が出来ない。品種改良を行うには普通に育てるしかないのだろう。まぁ、品種改良を行った品種を改めて草魔法で増やせば良いだけなんだけどさ。


 と、もう一つの問題。


 これ、多分、周囲の魔素とやらが減っている。魔素って酸素というか、空気みたいな存在なんだよな。ないと困るもの。

 使った分は補充されているが、あまりにも一気に使うとその場の魔素が一瞬枯渇する。先ほど、空気って例えたけれど、その例えが一番しっくりくる。

 使い過ぎて、完全に枯渇すると不味い。生物は死ぬ。一回、草魔法を馬鹿みたいに連続で使い続けたら、植物が全滅した。そりゃあ、空気と同じようなものだから、すぐに元に戻る。戻るけど、これは本当に不味い。

 何処かに、この魔素とやらを生み出している存在があるのだろうけどさ。元の世界で言うところの二酸化炭素を取り入れて酸素を出している植物みたいな感じか。とにかく、それを越えないようにしないと不味い気がする。


 ちなみに、魔素を生み出しているものだが……この世界の植物は違う。多分、普通に元の世界の植物と同じことをしている。魔素とやらは生み出していない。空気は空気で必要だから、それも重要なんだけどさ。


 まぁ、とにかくまったく問題がないワケではないが、草魔法は便利に使えている。最初に使えない魔法だと思って申し訳ない。


 これ、チートだったよ!


「ふむ。今日はこれを収穫すれば良いのじゃな」

 一緒に来ていた機人の女王が動く。機械的に正確な動作でスパスパとトウガラシの実を収穫し、背負った鉄の籠に入れていく。収穫は一瞬だ。この機人の女王も凄いよなぁ。俺の魔力で動いているから、草魔法以外に機人の女王用の魔力が必要になるけど、それを考えても便利すぎるよ。


 残ったのは実のなくなったトウガラシたち。さて、と。


――[エルシード]――


 トウガラシの実を収穫した後に残った茎と葉っぱ。これが草魔法によってトウガラシの種に変わる。


 ……。


 これ、本当にチートだよなぁ。


 実のなる植物なら、実の収穫後、その残りを種にすることが出来る。どんどん増やせるんだよ。頭がおかしい魔法だ。


 今の俺の日課は朝の草魔法、昼食、午後から鍛冶の練習という感じだ。そのどれもが魔力を消費する。俺は毎日、毎日、魔力を消費している。だが、使えば使うだけ、貯めれば貯めるだけ、徐々にその容量が大きくなっている。増えるのは、本当に誤差のような微量な容量だけど、それでも蓄えられる魔力の容量は増えていく。塵も積もればなんとやらだ。


 そして、魔力に変換する関係上、魔素を多く吸収する。


 そう、魔素だ。


 これさ、もう今更言うことじゃあないのかもしれないけれど、魔素って、RPGゲームで言うところの経験値のようなものだろ。

 これが体にたまり蓄えられたものが、一定のラインを越えるとレベルが上がる。つまり、そういうことだ。魔獣を倒すと、蓄えていた魔素が放出され、近くに居れば取り込むことが出来る。魔獣を食べるとその体に含まれている魔素を吸収出来る。


 それがレベルアップの正体だ。


 魔素が一定ラインまでたまっていると、それを変換してスキルや魔法という形に出来る。そういうことなんだろうな。鍛冶の変成や錬成などを行っていて確信したことだ。まぁ、多分、そうじゃあないだろうかってことは以前にも思ったけどさ。


 海に行った時に天人族のアヴィオールが自分たちのことを魔素生命体だと言っていた。


 ……。


 それ、完全に答えじゃあないか。何故、そこで気付かなかった!


 多分、この世界の生き物、当然、俺も含むけど、魔素で出来ているんだろうな。だから、取り込んで自分のものに出来れば強くなる。


 ……無理に魔獣を倒さなくても強くなれるじゃん。そりゃあ、蓄えていたものを奪った方が、効率は良いのだろうけどさ。


 なんだかなぁ。


 と、そんなことを考えながら食事をしていると、そこに赤髪のアダーラが駆け込んできた。

「姉さま! 開かない扉を発見しました」

 赤髪のアダーラには今も神域の探索を行って貰っている。神域はなかなか広いようで未だに探索は終わっていない。そりゃまぁ、拠点にしようとした場所だしさ、それが何故か魔人族の里がある島の方が拠点になろうとしているワケだけどさ。ほんと、思い通りに行かないよ。


 って、開かない扉?


「料理人、私にはカーレを頼む」

「団長さん、カーレではなくカレーです。それとカレーは材料となるスパイスを使い切ったのでもう無理ですよ」

「なんだと!」


 開かない扉、か。


 よし、行ってみるか。

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