234 錬成結果

「ふむ。それではこの金属でやってみるのさね」

 ミルファクが手のひらサイズの金属の塊を持ってくる。さっきの銅とは違うな。これは……多分、鉄かな。


 機人の女王が俺の簡易炉を持ち、それをその金属の塊に近付ける。


 次の瞬間、俺の魔力がごっそりと吸われた。一瞬の出来事に思わず、ふらふらとよろめいてしまう。な、何が起こった?


 そして俺の目の前に精巧な鉄製のナイフが生まれていた。一瞬で、だと。俺がふらふらとしていた一瞬で鉄の塊がナイフに変わった? 本当に魔法みたいな力だな……って、魔法だったか。


 って、もしかして俺の魔力を使って作ったのかよ!


「早い。しかも、初めてでその正確さとは驚きなのさね。どうやら鍛冶の才能を持っているようさね」

 ミルファクが驚きの顔で機人の女王を見る。そうだな。俺には出来なかったことを一瞬で、だからなぁ。まぁ、俺の魔力を使ってなんだけどさ。


「わらわには向いていないのじゃ」

 機人の女王が首を横に振る。俺とは比べものにならない完璧なものを作っていて向いていないだと。それなら、でこぼこのカゴを作った俺はどうなるんだよ。

「わらわはそのレシピにあるものを作っただけなのじゃ。こやつのように何かを新しく創造する力はないのじゃ」

 あ。


 なるほど。


 オリジナリティか。なるほど、機人の女王が憶えた魔力レシピはナイフだったんだろう。その通りに作っただけ、か。独創性はない、と。


 でもさぁ、これだけ作れたら充分じゃあないか。いや、それだけミルファクのレシピが優れているってことなのか。


「これで変成と生成は学んだと思うのさね」

 あ、はい。って、もう次のステップに進むのかよ。俺、まだ魔力レシピを一つも貰っていないんですけど……。


「次は錬成さね」

 あ、どんどん進めるんだね。


「錬成と熟成は炉が必要になるのさね。ちょうど良いさね、そのナイフを使って憶えて貰うのさね」

 ほー、錬成と熟成は炉が必要なのか。逆に変成と生成は窯で溶かして一から作った方が良いって感じなのかな。あー、でも決まった形で作るならやはり炉の方が良いのか。そうなると、炉って、結構、万能だなぁ。


 そんなことを考えている俺を余所にミルファクは机の上に小さな魔石を置く。


 ん? 魔石?


「生成したもの同士を組み合わせて錬成することも出来るが、それはもっと炉が育ってからさね。まずは魔石を使っての錬成を行うのさね」

 魔石を使った錬成?


 小さな赤い魔石だ。中に入っているのは火系統の属性かもしれない。でもサイズが小さいからあまり珍しいものじゃあないんだろうな。


 で、これをどうするんだ?


「先ほどと同じ要領さね。違うのは魔石と素材、両方に魔力を通し、素材に魔石を溶かし込むようにすることさね」

 ふむ。


 似たような感じか。


 なら、やってみるか。


 ……。


 ……。


 ……。

 ……。


「えーっと、ちょっと休憩して良いですか。魔力が少しキツいです」

 そうなんだよな。さっき、そこにいる機人の女王にガッツリと魔力を吸われたからな。さすがに連続はキツい。休憩して魔力を回復させよう。


「ふむ。ならばわらわが試すのじゃ」

 ん?


 って、おい!


 お前が使っている魔力は俺の……がががが。


 ふらふらするう。くらくらするぅ。


 倒れそうだ。


「む。おぬし、どうしたのじゃ?」

 機人の女王が人形のように整った顔をこてんと傾けている。

「お、おまえ、使っているの……俺の、魔力、だろうが」

 ぐわんぐわんする。


「ふむ。そうだったのじゃ。うっかりしていたのじゃ。はぁ、うっかり、うっかり」

 何がうっかりだ。てめぇ、絶対、分かっていてやっただろうが。


 大きく息を吸い込み、吐き出す。魔力吸収ー!


 少し、休憩して魔力を回復させないと本当に死にそうだ。


「おぬし、周囲の魔素を魔力として変換し取り込むなら、もっと効率良くやるのじゃ」

 効率良くとか無茶苦茶言うなぁ。それが出来れば苦労しないってぇの。


 で、だ。


 少し落ち着いたところで完成した鉄製のナイフを見る。


 うっすらと刃先が赤く揺らめいていた。いや、実際に刃が揺らめいているワケじゃあない。魔力が見える俺だから分かるだけだ。


 これは火属性の魔力か。


 ……つまり、魔法武器。


 こんな簡単に作れるのかよ!


「素材によって馴染みやすい魔石は違うことを憶えておくのさね」


 鉄と火は相性が良いってことか?


 なるほど。


 これが錬成か。


 素材の単独強化と言っていたが、属性を持たせて強化するって感じなのか。魔石は燃料みたいな使われ方をしていると思っていたが、こんな使い方もあるのか。


 しかし、これは面白いな。


 魔法がある世界ならでは、だな。どんなものが素材になるのか、どんな形に出来るのか。俺の草属性と相性が良いのがどんな素材か。色々、試してみたくなるな。


 ただまぁ、ちょっと魔力を使いすぎだよなぁ。もしかして、こんな一瞬で製品が完成するような鍛冶の方法なのにミルファクが時間をかけている理由って――魔力を回復させながら進めているからなのか?


 多分、いや、きっとそうだろう。複雑な作業になればなるだけ必要な魔力は増えていく。途中で魔力を回復させなければ到底無理だ。


 なるほどな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る