212 扉の先は

 先ほどと同じようにタブレットをかざしながら通路を歩く。


「姉さま、気を付けてください! この先でもゴーレムが待ち構えていました」

 赤髪のアダーラの言葉に頷きを返す。タブレットの力を過信するワケじゃあないが、この鑑定を利用した敵の察知に、アダーラの勘の良さから来ている? 感知能力が加われば敵を見逃すことはないだろう。


 金属質で無機質な通路を進む。ホント、この神域だけSFというか、近未来的だよな。そのうち、良く分からない丸の計器が大量に配置された部屋とか出てくるんじゃあないだろうか。


 そして扉が見えてくる。扉というか、降りているシャッターというか、そういった感じの扉が通路の左右に六個ずつ並んでいる。十二個の扉か。玉座の間に合ったパワードスーツ的なゴーレムの数と同じだな。とすると……もしかして武器庫か? その可能性はあるな。


 一応、タブレットを振り回し、敵が潜んでいないかを確認する。


 敵確認、ヨシッ!


 って、敵が居ないじゃあないか。アダーラの言うことはアテに出来ないなぁ。って、いや、もしかして、ここに配置されていたゴーレムの数が二体だけだったのか? 赤髪のアダーラたちは完全に倒すことは出来なかったようだから、動かなくなった後、回収されて修復して出てきていたって感じなんじゃあないだろうか。あり得るな。


 と、とりあえずシャッターのような扉を開けてみよう。


 って、あ?


 ガツンガツンと大きな音が響く。


 見れば赤髪のアダーラがシャッターのような扉に手に持った槍で何度も突きを放っている。いやいやいや、何をやっているんだよ、コイツは。

 だが、その空気を斬り裂くような重い一撃はシャッターによって簡単に弾かれていた。このシャッター、随分と硬い扉のようだ。


「姉さま! このように弾かれるのです」

 そして、いきなりシャッターに攻撃を加えていたアダーラは何故か得意気だ。このようにじゃあないよな。扉を開ける方法がいきなり攻撃とかさ、ホント、何を考えているんだろうな。うん、何も考えていないんだろうな。脳筋だからな。


「えーっと、とりあえず確認するので周囲を警戒しながら待っていてください」

「姉さま、任せてください」

 返事だけは元気な赤髪のアダーラだ。本当に理解しているのかは謎だ。


 さて、と。


 改めてシャッターのような扉を見る。扉の周りにスイッチのようなものは無い。なんとなく自動ドア的な感じで開きそうだ。んでも、上にガーッと開くのか? あの神域に送られてすぐにあったガラス扉みたいにこちらを検知して開くのか?


 シャッターのような扉に近寄ってみる。


 ……。


 何も起こらない。


 あ、れー?


 入り口のガラス扉の時はこれで開いたんだけどなぁ。


 手をかざしてみる。


 開かない。


 触れてみる。


 開かない。


 扉には手を挟むような隙間も無いし、どうすれば良いのか分からない。


 手を置いて横や上に滑らせようとするが動かない。開かない。


 開かないじゃん!


 あれー? 帝である自分なら開くと思ったんだけどなぁ。自分が特別だと、ちょっと思い上がっていたかなぁ。


 ……。


 赤髪のアダーラの槍による一撃でも――いや、一撃どころか数撃だな。それでも壊れないのだから、俺が攻撃したところで無理だろう。魔力を纏わせれば、少しは違うか? いや、でもなぁ。脳筋な赤髪のアダーラと同じことをやるのは、うん、少し嫌だ。


 となると、どうすれば良い?


 もう一度、シャッターのような扉を見る。


 う、うーん。


 扉、扉、扉……。


 扉のように見えるけど、ただの壁の継ぎ目だったとか。そう思った方が正しいような気がしてきたぞ。


 いや、待て待て待て。


 神域。


 そうだよ、ここは神域だったよな。その神域に入るために塔で何を使った?


 タブレットだ!


 タブレットを手に持ち、シャッターのような扉にかざす。


 ……。


 開かないな。


 触れさせてみる。


 お!


 次の瞬間、扉が上にスライドし始めた。


 開いた!


 タブレットが正解だったのか!


「姉さま! さすがです!」

 赤髪のアダーラはなんでも肯定してくれるなぁ。うん、まぁ、褒められるのは悪い気がしないから、もっと褒めてくれて良いよ!


 で、中は、と。


 ちょっとした車のガレージくらいの広さのその部屋には――何も無かった。


 空っぽだ。


 へ?


 これだけ厳重に閉じられた部屋の中が空っぽ?


 い、いや、まだだ。ここは最初の部屋だ。後、十一個も部屋があるんだ。ここは偶々、空っぽだっただけさ。


 タブレットを使って次の扉を開ける。


 ……。


 空っぽだ。空っぽだった。何も入っていない。


 本当に何も入っていない。


 次の扉を開ける。


 空っぽ。


 次も、次も、次も、全ての扉を開ける。


 だが、中には何も入っていなかった。


 なんだと……。

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