188 茨の槍

 赤毛の少女アダーラの後に着いていこうとして、草紋の槍がなくなっていることに気付く。


 あ、あれ?


 俺の前を歩いている赤髪の少女アダーラを見る。草紋の槍は彼女が変身した巨大な赤狼と戦っていた時に俺の魔力を受けて、その形を茨の絡まった蕾のような姿に変えたはずだ。

 二メートル近い大きさの槍がなくなっているのに気付かなかったなんてさ、それだけこの赤髪の少女のテンションが衝撃的だったのだろうか。うん、衝撃的だったな。顔が引きつりそうなほど衝撃的だったよ!


 にしても、草紋の槍は何処に消えたんだろう?


 右手に魔力を纏わせた後遺症で力が入らなくなって落としてしまったのか?


 赤毛の少女を追いかけながら周囲を見回す。


「帝、ひひひ、どうされたのかね。我も食事が楽しみだよ」

「うん? そうだな。今は食事が先だろう?」

 蟲人のウェイと天人族のアヴィオールはマイペースだな。

「まーう」

 戦いの最中、隠れていたのか姿が見えなかった羽猫ものんきに鳴いている。


「いや、えーっと、槍が消えたな、と」

 そうなんだよなぁ。消えたら困る。


 草紋の槍とは長い付き合いだからなぁ。初めて苦戦した時も、壊れて修理したことも、海で漁をしていた時も、魔人族のプロキオンと戦った時も、蟲人のウェイと戦った時も、天人族のアヴィオールと戦った時も、獣人族のアダーラと戦った時も、常に俺と共にあった。


 俺の相棒だ。


 それが消えたなんて……洒落にならない。


 まさか……あの時は進化したと思ったけどさ、あれは最後の力を使い果たした感じなのか?


「何を言っている? 帝よ、その手にあるのは何だ?」

 天人族のアヴィオールが面倒そうに答える。


 ん?


 俺の手に?


 自分の右手を見る。いつの間にか茨の巻き付いた蕾のような槍が握られていた。


 槍だ。


 まさか草の紋様が刻まれた槍が草そのもので作られた槍に生まれ変わるなんてなぁ……って、そうじゃない、そうじゃない。


 へ?


 どういうことだ?


 蕾のような槍が俺の見ているまえで姿を変える。蕾がしゅるしゅるとほどけるように紐状に変わり、茨と共に俺の腕に巻き付く。


 ん?


 槍が分解……した?


 元の形状には……?


 俺の考えていることを認識したかのように腕に巻き付いた茨が一瞬にして槍の形状に戻る。


 お?


 変形ギミック!


 植物ぽい、というか植物そのままの槍だからこその変形機構か!


 槍形態と茨形態を何度も試す。


 お、お、お、お!?


「姉さま、早く! こちらです!」

 先頭を歩いていた赤髪のアダーラがそんな風に遊んでいた俺を急かす。あ、はい。とりあえず追いかけよう。


 にしても、これは面白いな。ただ、武器として使う時は変形というワンクッション入ってしまうのがデメリットかな。いくら一瞬で変化するといっても一手遅れるのは確かだからなぁ。まぁ、でも気にするほどのデメリットではないか。持ち運びしやすくなったことの方が大きなメリットだな。今の俺って背が低いからさ。どうしても自分の背よりも大きな槍を持っていると邪魔になって……うん。


 赤髪のアダーラを追いかけながらタブレットで腕に巻き付いた茨を鑑定してみる。


 ……。



 名前:蕾の茨槍

 属性:草

 品質:帝威

 神帝の加護によって生まれ変わった槍。時は過去。


 う、うーん?

 属性の項目が増えている。今までなかったよな? 火の力を封じているぽい槍とかでも属性の項目はなかったはずだ。これが、初か? にしても草属性かぁ。そりゃあ、見るからに草だけどさ。草属性って書かれると、なんだか弱い武器みたいな印象を持ってしまうなぁ。

 それと、だ。品質が良く分からないことになっている。高品位の上ってことだろうか? そういえば神域にあった魔石も品質の表示がおかしかったな。えーっと、確か神威だったか。

 後は解説か。相変わらずあっさりというか、何というか……。それにさ、時は過去ってどういう意味だよ。意味が分からない。


「姉さま、こちらです」

 円形に作られた闘技場の控え室のような場所に案内される。


 草属性。草属性か。見るからに草だもんなぁ。何度もで言うけど草だよなぁ。何の蕾か分からないけど、草と茨だよ。草だよ。


 って、うん?


 草?


 草か!


 もしかして草魔法の効果を乗せることが出来るのか?


 これは試してみる価値がありそうだ。


 成長させるグロウ、種に変えるシード、開かせるロゼット――種に変えるシードを使うのは不味いかもしれないが、他は使えそうだ。


 うん、これは面白くなってきたぞ。


 と、その前に食事か。この控え室というか……いや、食堂、か。ここでご飯が出るのかな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る