087 服装

「お嬢さん、誰のお使いか分からないが紹介状のない人には売れないよ。戻ってご主人様から紹介状を預かってくるんだね」

 今日は服を買いに来た。ここは王都にある服屋さんだ。


 服屋と言っても既製品は並んでいない。全てオーダーメイドで一から作る服屋さんのようだ。正直、高そうなお店だ。だが、今の俺はお金を持っている。充分、買えるはずだ。


 今、俺が着ている服は学院が用意してくれたものだ。草紋の槍が直って学院を出る時には返さないと駄目なものだ。つまり何時までも着ていられる訳じゃあない。制服を返した後――その時の服が必要だ。そう思って王都の服屋に服を買いに来たのだが……。


 えーっと、うん、アレだ。


 まさか門前払いを受けるとは思わなかった。


 いや、ホント、服が必要なんです。正直、学院の制服がスカートなのもキツいんです。服を売ってくださいよ……。


 この王都にあるお店の何処でもそうだったのだが、どうも自分一人だと奴隷がお使いに来ているような扱いを受けるようで、殆どのお店で門前払いされてしまう。


 いやいや、俺の格好を見てくれよ。どう見ても学院の制服じゃないか。学院の制服を着ているじゃあないか。学院の生徒ぽい存在を、こんな無下に扱って良いのか。良くないと思うんだけどなぁ。


 仕方ないので王都の外に向かうことにした。壁を守っている門番さんに挨拶をして鉄で出来た小さな札を受け取る。また王都の中に戻る時はこの札を見せれば面倒な確認もなく入ることが出来るようだ。


 でもさ、これ、この札を盗まれたらどうするんだ? 不審者を簡単に王都へと入れてしまいそうな気がする。ま、まぁ、俺には分からない何か魔法的な力で判別してくれているのだろう。してくれているんだよな? そうじゃあないと、これ、盗まれたら大変だぞ。そんなものを持っている俺の責任重大だぞ。大丈夫だよな?


「えーっと、これ、盗まれたらどうなります?」

 不安になったので王都側の門番さんに聞いてみる。

「君の身分では重い処罰を受けるだろう」

 うぐ……。


 重いのか。


 いや、それ以前にさ、俺の身分って、俺の身分って何だよ。この門番さんは俺の何を知っているって言うんだよ。どう考えても見た目で――半分の子だから、それだけで判断しているよなあ。もし、俺が半分の子の中でも特別な権限を持つような立場だったらどうするつもりだ?


 ……。


 まぁ、もちろん、そんな訳は無いんだけどさ。


 しかし、そうなると王都の外に出るのは少し躊躇してしまうなぁ。でも、この札無しだと、王都の外に出た後、また王都に戻ることが出来ないかもしれないしなぁ。そうなるとさ、俺が学院に預けている草紋の槍はどうなる? 返して貰えないんじゃあないか。


 ホント、困ったもんだよ。


 王都の外で何か起きたら大変だから、今回、町の中を探索するのは止めよう。サクッと服を買って戻るべきだよな。探索は後だ。草紋の槍を受け取ってからだ。


「えーっと、外で服を売っている場所とか知ってますか?」

「どういった服だね」

 暇なのか門番さんは親切に答えてくれる。ここの門番さんは丁寧で教育が行き届いているって感じだよなぁ。何処かの町の何処かの犬頭とは大違いだ。


「こう、ひらひらしていない服で、あー、えーっと、すーすーもしない服で、旅に適した服をお願いします」

「なるほど。探求士向けの服を探しているのだな」

「あ、はい。えーっと、そうです。そういう感じのをお願いします」

 そうそう、そうなのだ。俺が求めているのはそういう服だ。最初からそういえば良かったのか。俺は、今、探求士だもんな。護衛の旅が長すぎて忘れかけていたよ。


「しかし、それはあまりおすすめしないな。王都の外の、そういうお店には荒くれ者たちが集まる。お使いで行くにしても君一人で行くのはおすすめしない」

 うぐ。がーんだな。いきなり出足を挫かれた。


 うーん。確かに荒くれ者が多い場所は危険かもなぁ。いや、もちろん、普通の時なら困らない。そこらの荒くれ者にも負けないつもりだ。だが、この札が盗まれないだろうかと心配しながらだと、ちょっとなぁ。仕方ない、まずは普段着を買うか。旅用の服を買うのは草紋の槍が直って王都の外に出てからだな。


「あ、えーっと、それでは普段着るような服でお願いします」

「ああ、それなら北通りにある店に行くと良いだろう」

 なるほど。北通りかぁ。


 って、北通りって何処だよ。


「えーっと、詳しい場所を教えて貰っても良いでしょうか」

「仕方ないな、おい」

 門番さんが人を呼ぶ。どういうことだ?


「えーっと……」

「そこまではそれほど遠い訳じゃない。私が案内しよう」

 門番さんが案内してくれるようだ。親切すぎて怖くなる。


「えーっと、良いんでしょうか。門を守る仕事中ですよね」

「子どもがそんなことを心配しなくて良い。それが半分の子でも、だ」

 親切だなぁ。


 まぁ、俺は子どもではない訳だが、外見は小さな女の子だもんな。


 お言葉に甘えることにしよう。

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