026 説明

 木製の硬いベッドに座りながらクロイの説明を受ける。寝落ちする前の続きだ。


 ……。


 ……。


 クロイの説明をまとめるとこうだ。


 まずは、このギルドでの階級分けだ。


 加入してすぐが銅、次に青銅、そして鉄、銀、金、真銀と上がっていくらしい。まぁ、なんとなく分かる感じの上昇具合だ。通貨も同じなのかもしれない。

 鉄までは各地のギルドの試験で上げることが出来、銀や金などのそれ以上のランクになるには王都のギルドに行く必要があるようだ。


 階級を上げると様々な利点があるそうだ。まずは買い取り額など報酬の向上だ。いや、正確に言えば改善だろうか。

 俺が受けた説明だと、例えば報酬が同じ仕事でも銅クラスなら銅貨五枚、青銅クラスなら銅貨六枚、鉄クラスなら銅貨七枚と増えていくらしい。それだけ聞くと確かに報酬の向上だ。だが、俺は騙されないぞ。

 これ、要はギルドの取り分だよな? 階級が上がるごとにギルドの取り分を減らして報酬を増やしてますよってことだよな? 階級が上がれば、それだけ報酬も大きくなるだろうから、ギルドの取り分の割合を減らしても問題ないのだろう。ただ、それだけだ。


 これは利点じゃないッ!


 他には階級が上がると施設内の蔵書が閲覧できるようになるとか、お得な情報を教えて貰えるようになるとか、難易度は高いが報酬の良い依頼が受けられるようになるとか、特定の迷宮への挑戦権が得られるとか、そんな感じらしい。


 これだけ聞くと本当にゲームみたいな世界だな、と思ってしまう。

 討伐依頼や採取依頼、納品依頼、探索依頼などの『依頼』の斡旋もしているらしいし、本当にゲームみたいだ。だけど、だ。ゲームのような設定や仕組みが出てくれば出てくるほど、俺は何かの悪意を感じてしまう。そこに潜む何か、だ。俺は一度死んでいる。だからこそ、その痛みが、ここが現実だと教えてくれた。

 でも、だ。それでもゲーム世界だとしか思えない。そう思わせようとしているとしか思えないものが次々と出てくる。

 ゲームだと思って油断していたら危ないんじゃあないだろうか? いや、まぁ、だから、それでどうにか出来るってワケじゃあないけどさ。でも、ゲームだったらこうだったから、ここでもそうだろう、みたいな考えは捨てるべきだろう。


 それは本当に不味い気がする。


「えーっと、それで迷宮というのは歪み? によって生まれるということですが、遺跡とは違うのでしょうか?」

 リンゴは、あの特別な斧を『遺跡』から手に入れた『遺物』だと言っていた。迷宮とは違うものってことだよな?

「近いが違います。『迷宮』は突然発生するものですが、『遺跡』は、古代魔法帝国時代のものを指すことが殆どです」

 ん?


 また謎の単語だ。古代魔法帝国、か。昔に栄えた、今よりも優れた文明を持った帝国とかそんな感じだろうか。


 あるある。


 こういうのも良くあるよな。


「えーっと、それは……」

「外に塔が見えますよね。今は忘れられた塔なんて言われていますが、あれなどが代表的な遺跡になります。定期的に掃除を行っていますが、盗賊やはぐれなどが住み着く微妙に厄介な場所になっています」

「それは、どういう……?」

 クロイが肩を竦める。

「探索し尽くされ、もうめぼしい『遺物』が残っていないような場所に好んで行くような探求者はいません。そういうことです」

 えーっと、まぁ、うん、そういうことなのか。そういうことだな。


 『遺跡』は、その言葉通り古代帝国の遺跡なのだ、と。で、当たり前の話だが、そこにある財宝――『遺物』には限りがある。ゲームみたいに再配置なんてされる訳がない。そりゃあ、そんな美味しいものが残っていない場所にわざわざ行かないよな。


 そういうこと、だ。


 ああ、そうそう。ギルドに入った利点で良かったこともある。

 なんと! 宿泊が無料だ。

 このギルド施設や各地のギルド施設で無料で泊まれるらしい。ただ、もちろんルールはある。当たり前だが、食事は出ない。それと綺麗に扱うこと、出したゴミは自分で処理すること、とか、そんな感じだ。何というか、当たり前というか、一般常識……だよな?

 まぁ、ベッドは硬い木製だし(もちろん布団や毛布なんてものは、無いッ!)何も無い、ただ寝るだけみたいな部屋だし、お金に余裕があるなら町の宿を利用した方が良いだろう。


 まぁ、俺は野宿でも大丈夫な感じだから、活用させてもらうけどな!


 後は教育を受けられる、だろうか。金貨を一枚払えば王都の養成所で学ぶことが出来るそうだ。そこで共通語や戦い方などの色々なことを学べるらしい。しかも卒業すれば、いきなり鉄ランクなんだそうな。

 金貨なんて見たこともないものを要求されるとか高すぎる、と思ったが、各地のギルドマスターの推薦があれば卒業後の後払いも出来るそうだ。出世払いだな。奨学金制度みたいなものだろう。


 あー、そうだ。お金と言えば、このギルドでお金を借りることも出来るそうだ。ギルド証のランクによって借りられる金額の上限額が違うとか。ただ、期限内に返せなかった時は奴隷落ち強制労働だ。

 そんなもん、俺は絶対に借りないぞ。


 はぁ、分かっていたけど、聞いていたけどさ、当たり前に奴隷制度がある世界なんだよな。怖い、怖いぜ。

 まぁ、とにかく、何かあると奴隷落ち強制労働のワンセットって感じだ。


 縛られてるなぁ。


 とまぁ、大体、そんな感じだ。


「分かりました」

「それで、後はどうしますか? 試験は、これから考え……いえ、後日、通達します。それまで自由にしていてください」

 自由に、か。この感じだと試験は二、三日後くらいだろうか。


 となれば……。


「もう一度、寝ます。無料……何ですよね?」

「え、ええ」

 クロイがちょっとたじろいだような様子で頷く。


 とりあえず寝る。明日の朝まで寝よう。硬いベッドだが野宿よりはマシだ。


 起きたらご飯を食べに行って、その後、武器屋で青銅の短槍の状態を見て貰うって感じかな。


 まぁ、そうだな。後は、リンゴに、ギルドと契約したことを伝えに行っても良いか。俺をこの町まで案内してくれた人だしな。

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