優しい王子様
お昼休み。嫌そうな顔をしつつも私についてきてくれた高原くんは、私のお弁当を食べてくれた。
「お、美味しい?」
「……っ、うん、まぁ」
「まぁ?」
「美味しい……、です」
「いやったあああ!」
中庭でガッツポーズをすると、一気に周りの視線を引いた。高原くんは慌てて「座って!」と言う。
ていうか、見ました?高原くんのあの照れ顔!照れながら「美味しい」って……あああほんと可愛い!
「た、高原くん美味しい?」
「しつこい!」
冷たく言い放ちながらも顔を赤くする高原くんは本当に可愛くて。こうやって、いつも一緒にいられたらいいのになって本当に思う。高原くんにも、私を好きになってもらいたいって。
「ね、ねぇ、高原くん」
「何」
「あ、あのね、きょ、今日とか……」
「……」
「暇だったら、あの、わ、私とで」
「依里ー」
せ、せっかくデートのデまで言えたのに邪魔したの誰だぁぁあ!キッと振り向いたら、そこにいたのは前にナンパされて(私ではなくナナちゃんとズーちゃんが)少しだけ遊んだことのある先輩だ。ボディータッチがすごくて、とにかく距離が近かったから少し、いやかなり苦手。
「この前は楽しかったなー」
「えー、あはは……」
「また遊ぼうな、あの美人の友達二人も」
目的がナナちゃんとズーちゃんならいちいち私に声をかけてこないでください。この人は私には全然だったけど、二人を見る目がものすごくいやらしかったから本当は二人に近付くのもすごく嫌だけど。
「あ、わ、私デート中なのですみません」
「へー、彼氏?」
か、彼氏?その言葉の響きの素晴らしさに一人ヘラヘラしていたら、先輩が高原くんに詰め寄った。ちょ、ちょ、高原くんに何する気?!
「こーんなメガネのどこがいいの」
「な、何言って……!高原くんは超超超超超……カッコいいですから!」
「……恥ずかしいからやめてくんない」
先輩はガタイがよくて、私はよく分からないけど喧嘩も強そうで。高原くんはどちらかと言うと細い方だと思うから、どう見ても二人が喧嘩して勝つのは先輩だ。でも高原くんは至近距離で睨んでくる先輩に負けず冷めた目で見返している。ちょ、何この状況?!
「依里にはこんなモヤシ男合わないだろ」
「古川さんに合わないのはあんただろ」
「あ?」
「え?」
高原くんは先輩から目を逸らして、食べ終えたお弁当を片付けるとごちそうさまと私に返す。そして、また先輩に目を向けた。
「古川さんみたいな純粋な子、あんたといたら汚れる」
「高原くん……」
「行こう、古川さん」
高原くんは立ち上がり、スタスタと歩き始める。私は先輩に礼をして、慌てて追い掛ける。高原くん、高原くん。やっぱり私、高原くんのこと大好きだよ。
「あの人なんかヤバそうだから、もう近付かないほうが……ゲッ!」
「た、高原、く、うわあああん」
振り向いた高原くんは号泣している私を見て後退りした。ドン引きされている。でも、止まらない。
「わ、私見た目派手だから、何か遊ばれてるとか、いっぱい言われて、」
「……はぁ」
「び、ビッチとか、私処女なのに……っ」
「……そういうこと大声で言わないほうがいい」
「だ、だから、高原くんが、分かってくれて、嬉しかったの……っ」
「……うん」
泣きじゃくる私の頭にポンと手を置いて、そして引き寄せる。おでこに高原くんの胸が当たった。わわ、な、何か抱き締められてるみたいな……!
「……分かってる」
「た、たか、」
「……うん、大丈夫だから」
こうやって、私の外見だけでなく、中身を見ようとしてくれるのが嬉しい。やっぱり私は、この人が好きだ。
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