あきさんの手土産備忘録

あき @COS部/カレー☆らぼらとり

大からから極上七味 西高野街道から/やまつ辻田 大阪堺

年齢を重ねてくると人と会う機会も増えてきたのだが、円滑な人付き合いに一役買うのが手土産であった、とこの歳になってようやく理解できるようになった。

手土産といっても、本来そんなに堅苦しいものでもない筈だ。子どもの頃は、テーマパークのキーホルダーやパーキングエリアで買ってきたクッキーを友だちにもらったり、また買ってあげたりしたものだ。このように、お土産とは誰でもできるちょっとした心遣いのようにおもう。

しかしながら、このやりとりによって心からうれしいとおもったことはあまりないようようにもおもった。それは、記憶から消えてしまうほど、もらってもあげてもどうでもいいものだったからかもしれない。だがしかし、やはりもらってうれしいものもたしかにあった。

例えばこっこ、萩の月。ああいったクリーム系洋菓子は案外店頭には並んでいないようで、たまにいただくとやはりテンションがあがってしまうし、なによりおいしいのでうれしい。自称美食倶楽部の会員のわたしとしては、どこか頭の中では”おいしいは正義”ってところがあるらしい。

そして、お土産にはその人のセンスが出るとおもう。定番のものから、知る人ぞ知る一品まで。送る相手を思いながら自分のセンスとお財布を頼りに選びに選ぶ。こういったことに体裁や自意識などが反映されるため、堅苦しくなるのかもしれない。


そこでだ。

とりあえず、わたしがもらってうれしかったもの、あるいはあげて印象に残ったものをここに残しておこうとおもう。こうして、わたしのセンスを見抜いていただきたい。あるいは、手土産の参考にしていただければ、とおもう。少なくとも、わたしの心には残っているものなので、ハズレではない、と自分ではそう思っている。

手土産、とはいっても近年流通が発達しているので、ネットでもお取り寄せできるものも増えてきた。わたしの記憶によると、店頭になければお取り寄せすればいいじゃない、ってアントワネットも言ってた。きっとそうだ。そうにちがいない。


ここでいう手土産とは、直接人に会うときに渡すもの、というだけではなく、特定の人に届けるプレゼント形式のギフトもこの定義に含まれるものとしておく。さっそく、今回がそうだからである。


さてさて、前置きが長くなってしまったが、そろそろ本題に入るとしよう。



先日久しぶりに実家に帰った際に、見慣れないものが食卓の上に無造作に置いてあった。それはハガキサイズのもので、表面には赤鬼の絵と”暑気沸”の筆文字が描かれていた。裏面を見ると切手を貼るスペースや住所を書くスペースがあるのだが、どうやら袋状になっていてなかには何か入っているようだった。よくよく見ると、裏面の下の方に商品名が書かれたシールが貼ってあった。なんと、七味唐辛子であったのだ。


「それ、持って帰っていいよ。誰も使わないから」と弟がいった。どうやら、弟が会社でもらってきたものらしい。たしかに、実家では七味唐辛子を用いるようなあまり料理はつくらない。七味唐辛子を使う料理といえば、うどんやおでん、豚汁なんかであると思うのだが、基本的にお米が好きな家族なのでお米に合うおかず以外はめったにつくらないのだ。

弟からくれてやる、とはいわれたものの、味のわからないものをもらっても仕方ないのではという気持ちも内心あったのだが、ちょうどそれを試すのに打ってつけの料理がその晩に食卓に並んだ。粕汁である。

弟たちは偏食なので滅多なものは食べないのだが、祖母は珍しく家に帰ってきたわたしのためにわざわざ酒粕を買ってまで作ってくれたようだ。美食倶楽部会員とはいえ、わたしもさすがに粕汁を自分でつくったことはない。ありがとう、ばあちゃん。ということなので、さっとく粕汁でこの七味唐辛子を試してみることにする。


ふくろを開けて中身を出すと、期待されていたものとはちょっと違った。赤くない。むしろ黒いものがわらわら出てきて、白い粕汁に浮かんだ。

まず、香りが、上品なのである。文字通り香辛料なのだが、開けたてということもあって、食欲をそそるような、とはいえ鼻を刺激しない香りが漂う。

粕汁を口に含むと香りがそのまま鼻に抜け、舌にもたしかにピリリと刺激を与えるのだが、かといって粕汁の味を殺さない。



「これ、もらうわ」

わたしは、どうやら魔法の調味料を知ってしまったようだ。








そして先日、ホワイトデーのお返しとして、ケーニヒスクローネの桜フィナンシェとともに、筆ペンでメッセージを書き添えたその七味唐辛子をご近所さんのドアノブに吊るしておいた。ホワイトデーに甘いものだけだと飽きちゃうから、七味唐辛子もあげてもいいよね。この前談となるバレンタインのお話もまたの機会に。



“今後ともよろしくおねがいいたします。”

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