指先にキス

「……ヨリ」

「な、なに」

「ヨリ、ヨリヨリヨリヨリ」

「なによっ、怖いんだけど!」


 会社から帰ってきた立花がソファーに横になっていた私に迫ってくる。目が据わっている。怖い。


「あー、ヨリ不足で辛い。慰めて。抱かせて。突っ込ませて。舐めさせて。なかだ」

「ストップ!!!変態臭半端ない!!!」


 少し起き上がった私に鼻息荒くのし掛かってくる立花の目が本当に怖くて、私は慌てて立花を押し退けた。その上とんでもないことを口走るものだから、とりあえずどこかへ避難しようとソファーから降りた。でも腕を掴まれ簡単に引き戻される。


「あー、ヨリの匂い久しぶり。最近ほんと忙しくてさー、こうやってゆっくりできるのも久しぶりじゃん?帰ってきたらヨリ寝てるしさー。ヨリの寝顔見ながら一人でシて顔射すんのも飽きた」

「とんでもないこと口走ってる自覚ある?」

「ヨリ、抱きたい」

「ごめん、生理中」


 いそいそと私の服に手を入れ準備を始めていた立花が固まった。胸に埋めていた顔面が青くなっていく。もう少し申し訳なさそうに言うべきだったかな。でも生理中なのは本当で、それはどうしようもない事実だからさっさと伝えた方がいいかと思ったんだけど。

 しばらく固まっていた立花が突然体を起こして叫んだ。


「ジーザス!!!」


 あ、倒れた。


***


「立花ー、大丈夫?」

「うん……」


 何だか様子がおかしいと思ったら熱があったらしい。あの後後ろにぶっ倒れた立花を何とかベッドまで連れて行き、私は悪戦苦闘しながらもお粥を作った。寝室に入ってみると、立花は真っ赤な顔を布団から出して私を見ている。体調を崩した立花は今までに何度か見たことがあるけれど、いつにも増して子どもみたいだ。ふふっと微笑んで頭を撫でてあげると、立花は気持ちよさそうに目を細めた。


「そのまま下半身を撫でてください」

「何かいつもより変態臭いね。お粥食べれる?」

「んー……」


 怠そうに起き上がり、立花はボーッとしたままお粥を口に運んだ。食欲はないようだけど、少なめによそったから全部食べてすぐ寝転ぶ。ほんとにしんどいんだなこれ。


「はい、薬。明日は熱下がっても会社休んだほうがいいよ」

「ヨリが看病(主に下半身の)してくれるなら休む」

「括弧の中もしっかり聞こえてるけど。するよ、大丈夫。明日も休みだし」

「ヨリ」

「ん?」

「ここにいて」


 口では色々言ってるけど、今回はさすがに弱っているみたいだ。手を握る熱い手を握り返し、私もシーツに潜り込んで立花の胸に顔を埋めた。いつもより高い体温と変わらない立花の匂いに安心する。握ったままの手に、立花は口付けた。


「ヨリ、好きだよ」


 いつもみたいな腹黒さや邪気の全く感じられない甘い声と微笑みにドキッとする。立花はそのまま目を瞑り眠ってしまった。たまにはこんなのもいいかもしれない。ドキドキを持て余して、私は眠れず立花の腕の中で何度も寝返りを繰り返したのだった。

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