禁じられた出生

折出柏三

プロローグ


 いまや《死》という単語が死語と化している。

 使われなくなった言葉、思考されなくなった概念は、人々の理解の範疇から消え去り、語り得ないものとなる。

 不老不死。

 古代より人々が追い求めてきた禁断の果実は、ゲノム編集技術と再生医療の進展により実を結んだ。その煌々と輝く科学技術の太陽は、地上を生の業火で照らし続けている。

 人々を永遠の若さという牢獄に閉じ込めて。



「わたしたち、これで本当の夫婦だよね」

 リンは恋人に、二人の愛情を確かめるように問いかける。

 こんな世界にも、恋愛は存在していた。しかしそれは、生物本来の生殖機能を否定した同性愛という形が万人に押し付けられ、社会を存続させるための道具に成り下がっていた。

「そう、夫婦。かつて社会というシステムにとって必要不可欠だった労働者を殖やし、コドモを産み育てるための共同体」

 レオナはその長く黒絹のように輝く髪を束ね、ためらいなく切り落とした。

 彼女の断髪は、レオナのリンに対する愛情の強さを示す意味を示すと同時に、このシステムという牢獄に対して刃物を突き立て、錠前をこじ開けるための儀式でもあった。

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