Gifts Ungiven
八枝ひいろ
憧憬
いい子にしていたら雪が降ると、おとうさんが言った。
見たことのない雪景色を想うと、胸の深いところがお湯でもわかしているみたいにうずうずする。飛びはねたくなるけれど、いい子にしなくちゃだから、あたしはだまってシーツにくるまった。
木のベッドが、ぎいっと音を立てる。薄いシーツの中はすっかり冷えこんで、かじかんだ足元がむずがゆかった。でも、体の芯は興奮でぽかぽかとして、いつもなら手がとどきそうな夢の世界も、ずっとずっと遠いような気がした。
がまんできずに、ちらりとまぶたをあげる。ランタンの明かりが、ぼんやりと部屋を照らしだしていた。おとうさんは木肌みたいな顔を炎にうつして、机に向かってペンをにぎっている。背中が大きくて表情は見えなかったけれど、もれだした夕焼け色の光が、寝物語の入り口みたいにゆらめいていた。
しみいるような寒さが、足先を凍らせる。
ごくりとつばをのみこんだ。重くたれこめた雲が、のしのしと足音をたててせまってくる。初めて見る雪はどんなだろう。生きものと逆さまのそれはきっと、息をするのも忘れてしまうほどにきれいで、色と音とをうしなって、うっとりするような死をにじませている。
頭の中に広がる、灰色の世界。そこへ飲みこまれるようにして、眠った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます