Gifts Ungiven

八枝ひいろ

憧憬

 いい子にしていたら雪が降ると、おとうさんが言った。

 見たことのない雪景色を想うと、胸の深いところがお湯でもわかしているみたいにうずうずする。飛びはねたくなるけれど、いい子にしなくちゃだから、あたしはだまってシーツにくるまった。

 木のベッドが、ぎいっと音を立てる。薄いシーツの中はすっかり冷えこんで、かじかんだ足元がむずがゆかった。でも、体の芯は興奮でぽかぽかとして、いつもなら手がとどきそうな夢の世界も、ずっとずっと遠いような気がした。

 がまんできずに、ちらりとまぶたをあげる。ランタンの明かりが、ぼんやりと部屋を照らしだしていた。おとうさんは木肌みたいな顔を炎にうつして、机に向かってペンをにぎっている。背中が大きくて表情は見えなかったけれど、もれだした夕焼け色の光が、寝物語の入り口みたいにゆらめいていた。

 しみいるような寒さが、足先を凍らせる。

 ごくりとつばをのみこんだ。重くたれこめた雲が、のしのしと足音をたててせまってくる。初めて見る雪はどんなだろう。生きものと逆さまのそれはきっと、息をするのも忘れてしまうほどにきれいで、色と音とをうしなって、うっとりするような死をにじませている。

 頭の中に広がる、灰色の世界。そこへ飲みこまれるようにして、眠った。

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