虚空言行録
長門拓
はじめに
「西行法師常に来りて物語して云はく、我歌を読むは、遙かに尋常に異なり。 華、
「これは何でしょう?」
「若い頃の明恵が西行と歌について議論したんだけど、その時の西行の言い分だね。西行は歌論のようなものはほとんどのこってないし、これも本当に西行が言ったのか疑わしい所はあるんだけど、まあ大体そんなところ」
「で、何が言いたいんですか?」
「特に何でもないんだけどね。昔、この文を読んだときに、『虚空』って言葉に妙に考えさせられたっていうのかな、そういう経験があったの」
「虚空って『虚無』とはまた違うんですか?」
「西洋流の『ニヒリズム』っていう意味だったら、それとは違うようだね。ノーベル文学賞を受賞した川端康成が、『美しい日本の私』って記念講演をしてるんだけど、その最後の方で、これを引用してたりする。彼流のちょっと真意が捉えにくい、あいまいな文章だけど、興味があるなら読むといい」
「んー。多分読まないと思います」
「はっきり言うね君」
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