天の微笑

ぴのっ





人というのは、――――


紅の唇から零れた吐息は嘲笑に似て酷薄に、遥かな穹で、微かに浮かんで消えていく。


さら、と髪が艷めく。


真っ赤な花弁がうなじを伝う。


嵐のように、激しく、狂おしく。

薫り立つような雪椿。


紅、と呼んだ遠い彼方の聲をかすかに、耳の奥に聴く。


懐かしささえ憶えるこの聲は、誰のものだったか。


切れ長の眼をつと細める。


碧の海は白く燦に透けた。


憐花は穹の上で、冷めた目で地を見下ろす。



「……愚かよの」


傲慢で、醜く、浅ましい。


何百年も変わらぬぞっとするほどの凄艶な美貌を自覚しているのか否か、彼女は睫毛を伏せると音も立てずに身を返した。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る