7月号 コップの中の漣 1

「日本では、茶柱が立つといいことがあるって言うんだろ?」


初めてのデート。

カフェでの他愛もない会話で彼がそう言った。


「そうよ、昔からあるジンクスね」


青い瞳が優しく笑った。


「僕の国では、コップの中に漣が立つカップルは結ばれるって言うんだ」


「漣?」


「コップを両手で持ってみて」


私はテーブルの上に置かれた水の入ったグラスを両手で包むように持った。

すると、彼も両手で私の両手を包むように持った。


「これで漣が立つの?」


「うん、コップの中をよく見てて」


じっと見つめていると小さな漣が立った。


「えー! すごい! 信じられない!」


「僕達、上手くいきそうだね」





「それからお付き合いを始めて結婚して、あなたが生まれたのよ」


「へぇー! すごい! 本当に漣が立ったの?」


「ええ、本当よ。パパが帰ったら聞いてみて」


「パパ、おかえりなさい!ねぇ、ほんとにコップの中に漣が立ったの?」


「漣? ママに聞いたのかい?」


「うん、私も見てみたい!」


「そうか。じゃあやってみよう」


テーブルにグラスを置いて

娘に両手で持たせて、夫が両手で包む。


「コップの中をよく見てるんだよ」


水面が小さく波立つ。




 はっ!




 青い瞳がいたずらっぽくウインクした。


「わーすごい! ほんとだ!」


「すごいだろ?」


「うん! じゃあ私、パパのお嫁さんになれるね!」


「そうだね」





娘を寝かしつけた後、私は夫に問いただした。


「さっきのアレ、どういうこと?」


「バレちゃったね。そうだよ、あの時もコップの水面にコッソリ息を吹きかけたんだ。」


私を抱き締めて、おでこにキスをした。


「ごめんね。キミを僕のものにしたかったんだ」


私だって、貴方のものになりたかった。


「騙されてあげたのよ」


精一杯の強がりを言った。

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