君と紡ぐうた

 8ヶ月後。エージさんたちと出会った梅雨の季節も終わり。もうすぐ『EA』のライブだ。


「ハル!」

「莉奈、来てたんだ!」


 高校3年になった私たちは、受験生になった。今は夏休みだけど受験生に夏休みなんてものはなく、今日も私は図書館にいた。


「はかどってる?」

「うん、まぁまぁ」


 莉奈は地元の国立大学を狙ってるみたい。難しいらしいけど莉奈なら行けると思う。私は『EA』のメンバーと同じ大学の、教育学部。エージさんと同じ学部だけど、学科は違う。


「ハルが小学校の先生かぁ。ま、精神年齢変わんないしピッタリの職業なんじゃない?」

「ちょ……!」


 莉奈は相変わらず毒舌。翼さんともうまく行ってるみたい。翼さんは相変わらず舞い上がってる。本当に莉奈が大好きみたいだ。

 楓さんは相変わらず謎の多い人。カフェの女の子に粘り強く告白されてるらしく、うんざり通り越してすごいって言ってた。

 兄は……よくわかんない。たまにフラッと消えてフラッと帰ってくる。もうすぐ就職なんだからしっかりしてほしい。

 エージさんは…相変わらず。ボーッとしてバイトに行って、ボーッとして大学に行って、音楽の時だけシャキッとしてまたボーッとする。変わったことと言えば、髪が少し伸びたぐらい。


「あ、メール」


『着いた』


 エージさんからのメールを見て、私は立ち上がった。


「んじゃあ、私もう行くね」

「はーい」


 次のライブが、最後のライブ。楓さんと兄は就職してからも続けたいって言ってたけど、やっぱり今までとは違うから。全員が大学生でやる、最後のライブ。


「お待たせしました」

「おう」


 図書館の前に止まっていたエージさんの車に乗り込むと、涼しい空気が私を包んだ。流れる音楽は、『EA』の新曲。私とエージさん、二人で作った歌だ。


君が笑えば 僕も笑う

君が泣けば 僕も泣く

ずっと一緒に時を刻もう

周りの全てが変わってしまっても

この気持ちだけは

変わらないから


 最後のライブの、最後の曲。曲の題名は、『君と紡ぐうた』。ずっとずっと、二人で紡いでいくうた。

 少し窓を開けてみれば、夏の空気と共に涼しい風が流れてきて、髪を揺らす。ギュッと私の手を握るエージさんの左手の薬指には、私とお揃いのリングが光っていた。

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