2669話 強欲の果て

用心棒どもは武器を抜いてこそないものの剣呑な表情で睨みつけてくる。プレッシャーかけてるつもりか? まったく……少しは真っ当な商人かと思えば。やっぱ悪党は悪党だったか。


「とりあえずこれ、一つやるよ。」


金操きんくり

風操かざくり


私の右側にいた用心棒の口を開け、芥子毒牙虫を放り込んだ。そして口を閉じる。


「きっ、きさっ何を、おおっ、おべっ、うっぐんむむっぶぶっ……」


もういいかな。


『金操解除』


「ぐえええっ! げっほっげほっ、おおっ……ふぅぅ……」

「おっ、おいテルモリ大丈夫か!?」

「咀嚼はしてないようだな?」


「おいおい。せっかくサービスしてやったのに吐くことはないだろ? ここらじゃどう足掻いても手に入らない極上品だぜ?」


ちなみにさっき自然薯を一口食べた男は床でぴくぴくと痙攣してる。小声で奇声をあげつつ両手両脚を後ろにピンと伸ばして顎を前に突き出しながら。その表情はたまらなく幸せそうだ。


「舐めた真似しやがって! 卑薬ってのは売るモンであって服用るもんじゃねえんだよ! 笑わせんじゃねえぞこのガキがあ! あんま調子のってんとショウザさんが言うまでもなくぶちころころして殺してころしてころころころころころころころこらららったるるるふるるるるるるるるねえショウザさあああんんんんんんっつっつっげけけけけけけっひひっひひっひはにっぬぬっびに……」

「て、テルモリ……」

「てめえガキい! テルモリに何しやがったあ!」


見れば分かるだろうに。


「何もしてないぞ? そいつが勝手に口に含んだだけだろ? 芥子毒牙虫ケシドクガモスの燻製をな?」


つまり粘膜で触れてしまったってことだな。吐くのが遅かったねぇ。もっとも、一瞬触れただけで即ナイストリップすると思うけどね。

それを思うと、そんな芥子毒牙虫をおやつ代わりに好んで食べるコーちゃんの凄さが際立つね。


「ピュイピュイ」


あはは。好きなものを食べてるだけって? だよね。


「ほっほっほ。驚きましたねえ。軽くひと舐めしただけであの効き目とはねえ。商品にするには相当に効き目を抑える必要がありますねえ。大事なおきゃく様が壊れては問題だものねえ? これ、テルモリを摘み出しなさいねえ」


「はっ!」


自然薯を食った奴と違って下からかなり漏らしてるもんな。あー臭い臭い。


「お前も欲しいか? あいつの唾が付いてるけどな。」


「ほっほっ、遠慮しておこうねえ。で、改めて聞くけどねえ? それ全部置いていったらどうだねえ? 高く買い取るし今後の面倒も見てあげるよねえ? でもねえー、断ると言うなら少し悲しいねえ。だってボクのところってねえ、ボクの言うことなら何でも聞く者ばかりだからねえ? 窓を開けて眠れる夜が来なくなっても知らないねえ?」


何だそれ。枕を高くしてと同じ意味か?


「一応聞いておくけど、それって俺を殺すって言ってるの?」


確認は大事だからね。


「ほっほっほ。とんでもないねえ。ボクがそんな野蛮なことするわけないよねえ。ただキミの身の上を心配してあげてるだけだねえ。この優しさが分かるかねえ?」


ふーん。変なところで真人間ぶりやがって。全然隠せてないじゃん、てめえのゲスな本性がさ。


「よーく分かった。お前の建前に免じてこの場は大人しく帰ってやるよ。よかったな? もう少しでこの屋敷が更地になるところだったぞ? どこかの騎士団ジャルミニート本部みたいにな。」


「ほっほっほ。気宇壮大な負け惜しみと聞いておこうかねえ。では交渉は決裂だねえ。ほっほほほ、ぐっすり眠れるといいねえ?」


それ交渉じゃないだろ。お前が一方的に寄越せって言ってきただけじゃん。私が売ってやるって言った時は要らないと言っておいてさ。さーて、どうしてくれようかなぁ。


「ピュイピュイ」


あれが欲しいって? だめだよコーちゃん。もったいなくてもあいつの唾が付いててばっちいから。だから後で一級品の方を出してあげるね。


「ピュイッピ」


ふふ、よかった。


「ほほっ、お待ちなさいねえ。よく見れば何と愛らしい蛇ではないですかねえ。ちょうど珍しいペットを欲しがっておられる方がおりましてねえ? その蛇を置いていきなさいねえ。そしたら先ほどの無礼は忘れてあげようねえ?」


「ん? この子を寄越せって言ってんの?」


「ほっほほ、同じことを何度も言わせないで欲しいものだねえ。生きて商都から出たかったらその蛇を置いていくといいんだけどねえ? そうすれば何事もなく安ら『狙撃スナイプ』かい、いい……いいいいいい!? 血ぃいいいい!? 血がああああああ!? ボクのおおおお!? 血ぃいいいいいい!?」


バカかこいつ? 右耳撃ち抜いただけなのに。


『狙撃』


「あぎゃっぎぃいいいいいいい!? またぁ!? 血ぃいいああ!? ああああ血ぃいいいいいいぎいいいい!?」


何なのこいつ……大したダメージじゃないだろうに何を大袈裟に痛がってんだ?


「ショウザ様!? こ、こやつ!? ショウザ様に何をしたぁ『狙撃』あっへっ!?」


あーあ、剣を抜きやがった。だから額に穴が空いちゃったね。それって確か『額でタバコを吸うコツ』って言うんだっけ? 新たな特技に開眼しちゃったね。開いたのは目じゃなくて額だけど。ぷぷっ。


「血ぃいいいいいあぃあぁいい血だぁいいいいい!?」


目の前で部下が死んだのに自分の心配かよ……とことん見下げ果てた奴だな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る