2404話 激昂

さて、宿を出てメインストリートを進む。来た方と反対方向へ。何があるかなー。




村を出てしまった……馬車が通れそうなほど道幅はあるが宿から三、四百メイルも歩くともう外じゃん。引き返そう。外周を散歩してもいいけど午前中ずっと歩いてたわけだし、景色にさほど変わりはあるまい。

ならばメインストリートから一本奥に入ってみるかな。道細っそ。アレクと二人並んでぎりぎり歩ける程度じゃん。うわ、こんな時に限って前から人が。メインストリートにはあんまり歩いてなかったのに。

仕方ない。アレクを後ろに……っと。


「どけやガキい! おら! お前もさっさと来いや!」


なんだこら? やんのか? お? 私達はちゃんと一人分道を開けただろうが。殺すか……

ん、なんだろうこの感情は……普段だとこの手の粗野なおっさんごときに何を言われようが気にもならないのに。なぜかいきなりムカついたぞ?


「ご、ごめんなさいごめんなさい!」


そんなおっさんの後ろから十歳ぐらいの男の子が何やら荷物を背負って歩いてる……重そう。壁に背を向けて道を譲る。


「ご、ごめんなさいありがとうございます!」


おっさんと違ってよくできた子じゃん。ムカつきが少しおさまった。


「たらたら歩いてんじゃねえ!」


やっぱムカつくな。次に会ったらぶん殴ろう……狭い道なのに大股で歩きやがって。てめぇは手ぶらかよ……


おっ、抜けたか。また広い道に出た。どうやら今のはちょっとした路地ってとこだったのかな。体感だとメインストリートは南北に伸びている。さっきの路地は東西って感じ? で、今出た広い道はまた南北に伸びてるのか。意外と区画整理されてんのね。中心部だけかな? では広い道を歩いてみようか。今度は北に向かって。


「店とかないね。宿か酒場しかないのかな。」


「そうみたいね。さっきの子が持ってた荷物はどこかに卸すみたいだけど。じゃあどこで売ってるのか、よく分からないわね。」


「そうなの? よく見てたね。」


むしろに覆われてたのに。


「見えなかったわ。嗅ぎ慣れない匂いがしたの。香辛料か何かじゃないかしら?」


おお、さすがアレク。私は全然気づかなかったのに。ムカついてたし。


「じゃあここら辺では何か香辛料が採れるのかな。その割にさっき食べた肉は味なしだったけど……」


「それもそうね……あ、分かった。香辛料って高く売れるじゃない? だから現地の人って口にしないんじゃないかしら。」


「あー。なるほど。確かにそうだね。てことはこの村で買おうと思えば買えそうだね。」


胡椒、じゃなくてペプレの実とかいくらあってもいいよなぁ。ローランドで買うとめちゃくちゃ高いんもんね。しかも品薄だし。この村には何があるんだろ。では散歩続行。


なんだ? 小高い台の上に子供が立っている。違う、立ってるんじゃない。直立した太い木に縛られてるんだ。何だよこれ……首に札がかけられてる。『ばつ』って書いてあるのか? もしかして……罰?


『風斬』


ロープを切った。さっきの今だからか、ムカつきが止まらない。この子はどうみても五、六歳だぞ? どんな罰だってんだ。ぐったりしてる……今は夏なんだぞ? 殺す気か……? 外傷こそないが……


『水球』


飲めるか……よし。


『水壁』


とりあえずここに寝かせておいて……


「カースにしては珍しいわね。でも、素敵だわ。」


「なんだかすごくムカついちゃってさ。イライラに任せてやっちゃったよ。今の気分だとこの村丸ごと更地にしてもいいぐらいなんだよね……」


今日の私はどうしたことだろうね。情緒不安定か?

この子が何か悪さをしたんだろうってのは分かる。たぶんだけど。だから部外者が、いや村の者であっても手出しするべきでないのも分かる。だからアレクが珍しいと言っているんだ。私って法や掟は尊重するタイプだからな。

だから分かるよ、分かる。分かるが……ムカつくものはムカつくんだよ……


「カースを怒らせたこの村が悪いんだわ。でもこの子まで死んじゃったら可哀想ね?」


「はは、もちろんそんなことしないって。とりあえずこの子には薄めたポーションでも「てめえら何してやがんだあ!」


うるせぇな……


「うるせぇんだよ。何か文句あんのかよ! 殺すぞてめぇ!」


私は何を言ってるんだ……?


「んだぁこのガキぃ! なぁんも知らねぇくせしやがってよぉ! 殺すだぁこらぁ! やれるもんならやってびょっごぉ!」


なんと珍しい。アレクが杖でぶん殴ったじゃないか……めちゃくちゃ痛そう。


「あなたこの子の父親ね……鼻のあたりがよく似てるわ……なのに、我が子を助けてくれたカースにその口の利き方……私が殺してあげるわ……」


そう言って杖を振り上げるアレク。かっこいい……様になる……おっと、いかんいかん。


「アレク、杖が汚れるからそこまでにしておこうよ。その杖って確かトレント材のいいところを使ってるんだよね。」


『浄化』


汚い血が付いてた。


「ええ、ありがとう。それもそうね。もう鼻のあたりは似てないことだし許してあげるわ。でも、一体どういうことなのかしらね? 親が我が子を殺そうとでもしてるのかしら……」


罰……宿題を忘れて廊下に立たせるのとは訳が違う。第一この村に学校なんてないだろ。いや、そんな話じゃない。

そもそもアレクが殴ったのは私のためだ。「殺してみろ」なんて言われたら私は普通に殺す。それをアレクは止めてくれたんだ。今日の私は何か変な感じだから。あと、この子の父親っぽいからってのもあるかな。


それでも……ムカつきが止まらない……どうなってんだ私は……


「おい、起きろ。起きて説明しろ。起きろや! なぜ自分の子にこんなことさせてんだよ! マジ殺すぞ!?」


起きないと顔を修復不可能にしてやんぞ?

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