2297話 地図と海図と魔導士あるある

朝食が済んだら再び船室へ。ひと眠りしたら船内を探検するのもいいかも。めちゃくちゃ広そうだし。




ひと眠りするつもりが思いのほか寝過ごしたらしい。もう正午を過ぎてるじゃん。では、みんなで船内探検だ。




うーん、面白かったな。途中で出会った宮廷魔導士さんが案内してくれたのも助かった。思ったより部屋数多いんだな。でも一番場所を取ってるのはやはり貨物室だった。ちらっと見せてもらったが内部はコンテナが多かったな。コンテナと呼ぶのかは知らないが。これが以前リキームさんが言ってたやつか。やっぱりたくさんあるもんだな。他には剥き出しの木材なんかもどーんと置いてあったし。


それから操舵室や浴室、チャート室に魔石貯蔵庫。いろいろあった。特に興味深かったのがチャート室だ。木製の地図、いや海図に一時間ごとに現在地を印していくらしい。地図上に細い針のような物が刺されている。昼でも現在地が分かる理由はそういった魔道具のおかげだとか。それってもうGPSじゃん……すげぇな……それでも記録はしっかりとるのね。あ、どのルートを通ってきたかも大事だもんな。

ちなみに現在地はポルトホーン港からだいたい南に二百キロル弱ってところか? もうしばらくは南下を続けるらしい。


広い船内を歩き回っていたらもう夕方。晩飯の時間だ。案内してくれた宮廷魔導士さんと連れ立って食堂へ向かう。


「いやはや魔王殿が海図に興味がおありとは思いませんでしたぞ」


「いやー地図も海図も重要じゃないですか。それなのに僕らのような部外者が見てよかったんですか?」


地図は武器だってのにさ。


「もちろんですとも。陛下からは魔王殿には何も隠さなくてよいとお聞きしております。魔王殿がローランド王国に仇なすことなどあり得ないと。さすが魔王殿ですな。陛下からそこまでの信頼を得るとは」


「なんと。そうでしたか。陛下の信頼ですか……それもう国宝みたいなもんですね。ありがたいことです。」


国王の野郎……じわじわと私を囲い込みやがって。心配しなくても反逆なんかしないっての。これでもローランド王国に対する愛国心はあるんだぜ? そりゃあ国王に対する忠誠心がないのはバレバレだろうけどさ。逆らって勝てるとは思ってないが、あっちだって私を楽に殺せるとは思ってないだろ。だからちょこちょこ首輪付けるような真似するんだよなぁ。


「無理からぬことかと思いますぞ。魔王殿と言えば砂漠の果てに街を築かれノルドフロンテ建設に多大な影響を与えたお方。それどころか妹御ともども魔物の群勢から王都を守り抜いた英傑。おまけに齢十三にして王国一武闘会を制した豪の者。あれからもう五年も経つのですか……今だに語り草になっておりますからな。あの戦いぶり、まさに魔王と呼ぶのに相応しいものでした」


宮廷魔導士ってヨイショの技能も磨くのか? どいつもこいつも持ち上げてくるじゃないか。一人一人が超エリートのはずなのに。


「あの時ご覧になってたんですか? 熟練の魔導士さんに見られていたとはお恥ずかしいですよ。」


これは半分本当。だって私の魔法は基本ごり押しだからな。さすがに今は違うつもりだけどさ。母上のように魔力を極力消費せずにえげつない切れ味、威力を目指してはいるんだぜ?


「いやいや、あの時の我らときたら、それはもう戦々恐々としたものです。聞けば魔女イザベル殿のご子息ではないですか。その上あれほどの絶大な魔力。おまけにあの若さですしな。暴走しないかとひやひやしておりましたぞ?」


「あー、それってあるあるですもんね。でも魔力が高いだけの若造なんて皆さんの敵じゃないでしょう?」


それぞれの故郷で天才だ神童だとか呼ばれる子供って意外と少なくないらしいんだよね。それこそスペチアーレ男爵だって学生時代はそんな感じだったらしいし。で、そんな子供だからこそ増長しまくってケンカ売っちゃあいけない相手に売ってあっさり死ぬ、ってのがあるあるらしいね。一人で魔物と戦ったりなんかしてさ。

ケンカ売った相手がフェルナンド先生とかだったら即死だよなー。先生って生きた人間も死んだ魔物も斬り方は同じとか言ってるし。おー怖い怖い。


「それは確かにその通りではありますな。魔力量などただの一要素にしかすぎんわけですし。ですが魔王殿の場合は違いますぞ? 魔力が少々高いどころではないではないですか。宮廷魔導士長マナドーラ様と比べても何百倍あることか! どうなっておるのですか!」


「あはは、必死に鍛えましたので。やっぱり皆さんも循環阻害の首輪とか使われたんですか?」


懐かしいよなぁ。循環阻害の首輪とか循環阻止の首輪とかさ。私はどっちも効かなくなったから拘束隷属の首輪を使うようになったんだよなぁ。


「ああぁ! そうそう! 懐かしいなぁ……我らも子供時代は無茶してみたくて首に巻いてみたものですなぁ!」

「巻いたはいいが何もできずに倒れてしまってな!」

「それよそれ。そうやって笑われながら首輪を外してもらうまでがお約束、定番の流れよの!」

「うちなぞ父上が厳しくてな! 数十分に渡って放置されてしまったものよ! おぬしはどうだった?」


なんだなんだ? 一気に宮廷魔導士たちのトークが盛り上がってるぞ? 青春時代を思い出す一言だったのか? 循環阻害の首輪が? やっぱ宮廷魔導士になるほどの者って子供時代からハードに過ごしてるってことか。あの首輪ってそれなりに高いもんなぁ。平民宅なら一年分の生活費どころじゃないよな。やはり格差が出るもんだねぇ。

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