2157話 セーラムとボルドラ

それから間もなくじいちゃん達は出発した。同行の騎士はわずか五名。全員が一人一頭ずつ馬に乗って駆けていった。ちょっと無防備すぎる気がするんだけど……かっこいいじゃん。


仕方ない。少しだけ助け船を出してやろうかな。とりあえず夜までのんびりしてから。




日が暮れた後。私は一人でボルドラに向かっている。セーラムでの出来事をモーガンに知らせるために。


『隠形』


勝手知ったるボルドラの領主邸。モーガンはどこにいるかな。一応は他のメイドさんや警備の奴に会わないよう気をつけないとね。


おっ、高貴な感じの令嬢発見。アレクサンドル公爵家の三女アンジェリーヌ、に化けたロキサーヌだよな。


『隠形解除』


「よう。元気?」


「うわっ、まっ、魔王様!?」


「とりあえずどこかの部屋に入ろうか。情報交換するぞ。」


「そ、そんな、お部屋にだなんて……で、でも魔王様がお望みなら……こ、こちらです」


何やら勘違いしてない?


寝室かよ。別にいいけど。座るところがベッドしかないじゃん。


『水壁』

『消音』


一人用のソファーを作ってみた。


「えぇーこっちに座りましょうよぉー。せっかく声が漏れないようにしてくれたんですからぁー」


消音を使った理由が違うことぐらい分かってるくせに。


「いいから。まずはそっちの話を教えてくれよ。贋金の証拠はあったのか?」


「ふふふぅ。確たる証拠はないんですけど、領都アレクサンドリアのアルケミアル工房が怪しいって情報が入ってます。凄腕の金物職人や魔道具職人だって揃ってるそうですし。どうです? 怪しくないですか?」


「怪しいな。その工房は聞き覚えがある。というのがな……」


せっかくだからセーラム領で起こったことを説明しておこう。




「というわけでセーラムの領主ベゼル男爵は領都に向かったわけだ。贋金は作るわ聖木は奪うわろくなことしないよな。」


「そうだったんですか! 今ちょうどおじいちゃんが領都アレクサンドリアに行ってますよ。おじいちゃんなら魔力鞄の中身も取り出せると思うんですよね!」


「ベゼル男爵と合流できたらな。それより三女と偽ガストンはまだ自白してないのか?」


偽ガストン、名前はレソースだったっけ?

それにしてもモーガンが領都でじいちゃんと合流できる可能性は……分からん。じいちゃんはそれどころじゃないもんな。モーガンから接触しない限り無理っぽいな。


「ええ。その知らせはまだです。たぶん明日か明後日には届くと見てますけどね。距離的に、たぶんですけど……」


惜しい。どうせなら自白も聞きたかったな。フランティアは遠いもんなぁ。


「なるほど。他にこの家で証拠らしきものはなかったのか?」


「それが書類的なのがあんまりないんですよー。こいつら仕事を丸投げしてたみたいで。よくそれで領内が回りますよね? ボルドラって言えばワインの産地としては有名なのに」


丸投げ? だから書類がない? 関係がよく分からないが、ないものはないんだろう。むしろ悪事を働いているわけだから証拠が残らないように気をつけてたって感じなんだろうなぁ。生意気な奴らだわ。


「あっ、あとやばい贋金がありましたよ! 『金貨判定』でも見抜けないやつが!」


「マジかよ。それは参るな。そんなのよく見つけたな。」


「そこはおじいちゃんの『金貨判別』で判明したんですよ。ごろごろとは言いませんが少しだけ出てきたんです。たぶんそのレベルの贋金だけに作る方も大変なんじゃないですかね?」


モーガンすげぇな。アレクの金貨判定をすり抜ける贋金を見抜いたってことだよな? 金貨判別か、初耳だわ。中級魔法と上級魔法の違いだろうか。私の勉強不足がバレてしまうな。


「で、レベルの高い贋金ですけどたくさんの金貨にぽつんと混じってるんですよ。上手くバラしてあるというか、意図的に固まらないようにしてるというか。こうやって徐々に実験しつつ流通させてるんですかねえ?」


「へー。厄介なことしてんのな。とりあえずその贋金何枚か貰っていい?」


フランティア領都への注意喚起と国王へのお土産にちょうどいいだろう。領都には戻らないつもりだったけどアレクの水着があるからな……


「いいですよ。これどうぞ。悪用しちゃだめですよ?」


するかよ。私は金持ちだからね。


「ああ。じゃあ情報交換はこんなところかな。セーラムにはもう数日滞在すると思うからさ、もし何かあったら言ってくるといい。ベゼル男爵邸にいるからさ。」


「えー! もう帰っちゃうんですかぁー!? お風呂ぐらい入っていけばいいじゃないですかー? お背中流しますよぉー?」


「いや、いい。あんまり俺にべたべたすると彼がヤキモチ焼くんじゃないか?」


餅はないのにヤキモチ焼くは通じるんだよな。あ、でもヒイズルに餅はあったよな?


「べっ、べべ、別に! 私そんなフェインとはそんな関係じゃ、そんな、違いますもん!」


あらら。偽ガストンの身代わりとしてここに滞在している騎士団魔法部隊のフェイン。適当に彼って言っただけなのに。そんな関係だったのね。だったら尚さら私に手を出したらだめだろ。

あ、分かった。むしろ妬かせようとしてるんじゃないか? そんなことしてる場合じゃないと思うんだけどねぇ。女の考えることは分からないねぇ。

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