2151話 空の散歩
お代わりしたワインがなくなった頃、アレクが戻ってきた。もちろん無事に決まってる。心配なんかしてなかったもんね。
「おかえり。どうだった?」
「お待たせ。枝が根こそぎ奪われていたわ。」
枝なのに根こそぎ……いやいや、そんなこと言ってる場合じゃない。
「それやばいね。せっかく元気になったのに、いや……元気になったから奪われたのかな。舐めた真似しやがってさ。」
「それがね、もしかしたら犯人はガストンかも知れないの。まだ何とも言えないところだけど……」
ガストン? なぜこんなところで名前が出てくるんだ?
「なるほどね。あくまでボルドラが怪しいとすると犯人はガストンぐらいしかいないってことなんだね。」
「あれでも元五等星って話だし。そこらの冒険者では相手にならなくて当然だわ。」
なるほどねぇ。盗賊上がりってことしか意識してなかったけど、元五等星なら手強くても仕方ないよね。同じ五等星でもゴレライアスさんやアステロイドさんほど凄腕とは思えないけどさ。でも、その分悪知恵が働きそうな気もするよな。なんせ全然捕まらずに逃げ回っているわけだしさ。そうなると今回の件だってガストンが直接出向いたとは考えにくいかもね。だいたい素人が枝をゲットしたってろくに増やせないだろ。普通の木じゃないんだし挿し木や株分けなんて簡単にできるとは思えないぞ?
それよりアレクの話を聞いて気になったのが、ガストンの野郎がボルドラの前領主一家を皆殺しにしたって噂だ。実際ガストンが領主的なポジションに収まってやがるわけだから事実無根とも思えない。だからって貴族社会でそんなの通用するかぁ? あー、でもどうせバックにアレクサンドル家が付いてるんだろうし、それならいけるか?
あ……てことは普通に……
「そもそもさ、アレクサンドル家が手を出してるってことはないかな?」
「それもあり得るわね。そのあたりはモーガン様が探りを入れてるでしょうし領都に連行した偽ガストンやアンジェリーヌからも判明しそうだわ。」
そりゃそうだ。
「なら僕らができることはないね。やっぱりのんびりしてようね。」
「それがいいと思うわ。私も気になって様子見に行きはしたけど。何かあれば頼んでくるんじゃないかしら。」
「だよね。じゃあさ、酔い覚ましに空の散歩でもどう?」
「あら、素敵ね。空から夕日を見るのも私好きだわ。」
もう二時間もすれば日没だしね。ならば行こうではないか。板ボードを出してと……
そろそろミスリルボードが欲しいなぁ。
「おでかけですか?」
「ああ。夕食までには戻るよ。」
「かしこまりました! いってらっしゃいませ!」
その嬉しそうな顔を少しは隠せよな……
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
コーちゃんはここで飲み続けたいしカムイはのんびりしたいのね。私もアレクと二人っきりになれるわけだから文句などないとも。
『浮身』
『風操』
板ボードに乗って空へ舞い上がる。あぐらをかいて座る私にぴったりと寄り添うアレク。
「どっちに向かってるの?」
「いや、適当かな? ぐるっと回ってみようかなーって。」
「だったら山側がいいわ。」
「そう? じゃあ行ってみるね。」
セーラムの西側は大河が流れており、東側は山だ。あまり高くないけど山もいいよね。
ん? アレクがやたら下を気にしてるな。よく見ると『遠見』まで使ってない?
「何かあるの?」
「うん……聖木を盗んだ犯人がいないかと思って……」
おお、アレク偉いな。口では何もしなくていいなんて言ってたのに。やっぱお義母さんの実家だし気になるよね。
ならば私も……高度を落として……
『魔力探査』
これで見つかるかどうかは分からないが、犯人はそこそこ凄腕っぽいし魔力が高いってこともあり得るだろう。目視よりは効率いいし。
「カース……ありがとう。」
「ちょっと魔力探査の精度を確認したかっただけだよ。」
「もう、カースったら。空の散歩だなんて言ったのも本当は逃げた犯人を追うためなのよね。ありがとう。」
「はは、そうだね。」
少し違うけどね。メインの目的はもちろん空の散歩だ。そのついでに上から犯人が見つかったらいいなーとは思っていたが。でもアレクがそう思ったのならそのままにしておこう。ふふふ。
「ちなみに山側を選んだのは何か理由があるの?」
「そこまで大きな理由でもないんだけど、普通は逃げやすい西側に逃げるはずだからおじい様達が網を張ってると思って。逆に東側は逃げにくいけど山に入ってしまえば中々見つからないじゃない?」
おおー。さすがアレク。やっぱ考えてるね。確かに東側の山ってムリーマ山脈ほど険しいわけじゃないし歩いて越えられないことはないよね。魔物も少ないみたいだし。
よし、もう少し低めに飛んでみよう。地表までくまなく魔力探査するためにさ「カース!」
むっ、これは!?
「てめぇ
ふーん。生意気にロープを投げて私達を拘束しやがったか。早業だったな。ドロガーみたいな真似しやがって。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます