1903話 暖かな光の下へ

「ん……わ、私……ここは……」


「アレク! 大丈夫なの!? 気分はどう!?」


外に出ようとした時にアレクが目を覚ました。体は全て治ってるとは思うけど、心配なのは心配だったんだよな。


「ええ、とてもいい気分よ。この水の魔法は……クロミね。もう解除していいわよ。助かったわ、ありがとうクロミ。」


「はいよー。元気になってよかったしー。」


『換装』


おっ、懐かしい。それ魔法学校時代の制服じゃん。


「カース……アーニャはだめだったのね……」


「え、う、うん……」


まだ何も言ってないのに……私はそんなにもバレバレな悲しい顔をしていたのか?


「クロミの言った通りだったのかしら……」


「概ねそうだね。とっくに手遅れだったみたい……」


「それに、カースがそんな見窄らしい服を着てるなんて……一体何が……いえ、いいわ。想像がつくもの。」


「そうだね。ここの神に全てを捧げたもんでね。でも、何もかも失くしたと思ったけど、実はそんなことないんだよね。」


「そうね。分かってるわ。カースには私がいる。コーちゃんもカムイだっているもの。おまけにクロミもね?」


「ちょっと金ちゃーん? 頼りないニンちゃんを支えたのってうちなんだけどぉー?」


「ええ。分かってるわ。クロミ、いつもありがとう。そうなると……」


アレクは地面に膝をつき、両手を合わせた。ローランド神教会で祈る時の姿勢だ。


「タイショー獄寒洞の神よ。お聞き届けいただけますでしょうか?」


『まだいたのか。何用か』


「私はまだ願いを叶えていただいておりません。ゆえに、よろしいでしょうか?」


『何なりと申すがよい』


そうだった。すっかり忘れてた……

アレクだってその権利はあるんだからさ。


「ありがとうございます。最後に戦った白いドラゴン、その革が欲しゅうございます。二人分の服装一式を仕立てるに足る量を。」


『よかろう。受け取るがよい』


「お待ちください。色は黒、何ものにも染まらぬ黒でお願いいたします。」


『そら。これでよかろう。では、さらばだ』


「ありがとうございます。」


おお……アレクの目の前には大量のドラゴン革。しかも私好みの漆黒。ホワイトドラゴンなのにわざわざ黒で頼んでくれるなんて。

アレクったら私の服装を一目見て状況を把握してくれたんだね。また泣きそう。


「いつもお洒落なカースがそんな服を着てるなんて、よっぽどのことがあったのね。でも、これなら新しい装備が作れるわ。またお揃いで。」


「うん。魔力庫は空っぽになるし丸裸にされるし。詳しくは出てから話そうか。僕らは全員踏破者なんだからさ。祝杯をあげようよ。」


「そうね。私としてはカースが生きていてくれたならそれでいいの。本当に良かったわ。」


今思えば、アレクは死を覚悟してホワイトドラゴンに挑んだわけじゃないんだよな。なんせ私より先に死ねない契約魔法がかかってるんだから。生き残れる確信があったんだろうな。そのあたりも後で追求しないとね。場合によってはお仕置き案件だからな。


お仕置きか……

アレクには悪いがそういう気分になれないことも確かなんだよな。アレクを抱いてない期間はそろそろ二十日を超える気がする。下手すれば一ヶ月以上か……迷宮にどれだけ潜っていたかが分からないからな。

これって普通に考えると浮気されても文句が言えないレベルなんだよな。そりゃあアレクが浮気なんてするわけないけどさ。私以外の男に靡くわけもないし。でも、今の私は……






外だ。えらく眩しい。

いい天気だ。まだ冬のはずなのにやけに暖かく感じる。中がめちゃくちゃ寒かったからか。


「えっ!? ドロガーさん!? それにキサダーニさんも!?」

「マジすか! 今どこから出てきたんすか!」

「ちょ! どうなってんですか!? ま、まさか!?」


「おー、お前ら確かサンタリタのモンか。見ての通りだぁ。俺らぁタイショー獄寒洞を踏破してきたからよぉ!」


おーおー。ドロガーのやつドヤ顔しちゃって。


「え!? ドロガーさん俺らんこと覚えてくれてたんすか! ちょっと前は誰だなんて言われたのに!」

「おめでとうございます! ドロガーさん二つ目っすよね!? マジぱねぇっすよ!」

「キサダーニさんもすげえっす! やっぱ伝説のパーティー『ブラッディロワイヤル』ってすげぇんすね!」


「すげぇのは俺らじゃねぇよ。この魔王がいたからに決まってんだろ……」


「え、まおお? 魔王ってまさかローランドの?」

「皆殺しとか殲滅とかって言うあの?」

「テンモカ豊穣祭で優勝したって……」


おお、こいつらやっぱ冒険者だけあるな。情報が正確じゃん。


「帰るぞ。天都までな。騒ぎたけりゃ天都のギルドでやれ。お前らも帰るんなら運んでやるぞ?」


悪いが会話に付き合う気分ではない。普段なら、どーも魔王でーす。ぐらいは言ったんだろうけどさ。


「お、おいどうする?」

「いやでも、せっかくここまで来たのに」

「ドロガーさんはどうするんすか!?」


「俺らぁ帰るに決まってんだろ? やっと迷宮から出てこれたんだからよぉ? なあダニィ?」

「ああ。天都で少しばかり休養することになるだろうよ。」


そういえばこの二人は次の迷宮を攻略するための祝福を貰ってたもんな。水中で呼吸ができるとか。ただの『水中気』じゃん。


「じゃあ出るぞ。お前らも天都に帰るんなら乗っていいぞ。」


天都に帰ったら……私も飲もうかな。

何もかも忘れて、ひたすら飲んでも……いいよな?

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