1892話 タイショー獄寒洞再突入

タイショー獄寒洞の入り口前。もちろん赤兜が警備しているなんてこともない。その代わりってわけじゃないんだろうけど冒険者の姿がちらほらと見える。

あー、これからは好き勝手に潜り放題だもんな。てことは中にもたくさんいるんだろうね。


「あんじゃあ? このガキぃ。おめぇみてぇな女連れのガキがタイショーに突っ込む気かぁ?」

「やめとけやめとけぇ。どうせ迷宮に入れるようになったからって慌てて来たんだろぉ? ここぁ甘くねぇからよぉ?」

「うっひょおお! この姉ちゃんらぁめちゃくちゃきれーな顔してんぜ……え? あ、あんたもしか……」


チンピラ冒険者あるあるかと思えば、寸前で気付きやがったか。いくら私の後ろにいるからってドロガーもキサダーニも私より少しは背が高いもんな。


「俺の顔ぉ知らねぇざなんざ抜かしやがったらぶち殺してたけどなぁ? 間に合ってよかったなぁ? おお?」

「俺らの前で迷宮の講釈か? お前何等星だ? ん?」


「チーーっす! お、お疲れ様ですドロガーさんキサダーニさん!」

「お、俺らノトの七等星コラテリアルのもんです!」

「ドロガーさんはシューホーに引き続きこっちもっすか! さすがっす! 応援してまっす!」


素早い変わり身。これも冒険者あるあるなのかねぇ。


「知らねぇよ……」

「いいから行くぞ。お前らもあんま調子ん乗ってんじゃないぞ?」


せっかくのおべっかもドロガーには効かないよなぁ。引き続きって言われてもな。ちょっと可哀想になってきちゃった。


さて、懐かしのタイショー獄寒洞一階だ。


「さあ、引き続きこれに乗ってもらおうか。一気に行くからな。」


私が寝ている間にアレクが用意してくれてたんだよね。丈夫な木の板を。イカルガからもこれに乗って来たんだしね。


『浮身』

『風操』


さぁて……ぶっ飛ばすぜ!

待ってろよアーニャ。











ふぅ……

もう三十階か。ここまでかなりの強行軍で来たからな……さすがにみんな疲労の色が濃いな。ここらで安全地帯を見つけて、長めに休むとしよう。


「なっ……何なんだよお前ぇは! こ、ここタイショーだぜ!? シューホーほどヤバかぁねえって話だがよぉ!? どうなってやがる!? 俺ぁここまでのんびり座ってただけだぞ!?」


「ここに来るのは二回目だからな。ついでに言うと前回はお前も一緒だったんだぜ? そんで強敵との戦いをお前の投げ縄ボーラに助けられたりもしたな。期待してるぜドロガー?」


「ちっ、俺の切り札んことまで知ってやがんかよ……まさかダニィ「俺が言うと思うか?」……悪ぃ……」


「知らないもんは仕方ないしー。それより何か食べよーよ。ねー金ちゃん?」


「ええ。暖かいものを作るわ。体をきれいにして待っててね。」


「うん。いつもありがとね。」


では……『浄化』


全員にまとめてかける。本当はのんびり風呂にでも浸かりたいとこだけどね。


「ガウガウ」


例によってカムイが手洗いしろと催促するが……

食べた後でな。今さすがにそんな元気ないんだよ……


「なっ、なんだぁこりゃよぉ……めちゃスッキリしてやがる……」

「やっぱ魔王はとんでもないな……」


こういう基礎的な魔法にこそ腕や魔力の違いってのは出るもんだからな。あいつらにそう言われると素直に嬉しい。


「この狼は狼で目で追えねぇ速さでボスを仕留めやがるしよ……こいつらどうなってやがる……」

「それが大国ローランドに名を轟かせる水準なんだろ。だがよ? こっから先は魔王だって知らないそうだ。つまり、俺らの経験だってバカにならないってことだ。気を引き締めていくぞ?」


「おおよ! ヒロナん仇ぁともかく迷宮ってのぁ生きて帰ってなんぼだからぁ!」

「分かってるならいい。戦力で役に立てるとは思えないからな。」




「できたわよ。見張り以外集まって。」


ちなみに見張りはキサダーニだったりする。







翌朝。いや、朝かどうかは分からないんだけどさ。陰陽計はアーニャの魔力庫の中だもんな……


「おはようカース。気分はどう?」


「おはよ。すごくよく寝た後って感じかな。スッキリしてるよ。」


「よかったわ。じゃあ朝食にするわね。」


寝起きに冷たい水を一杯。くぅー、ますますシャキッとするね。

アレクの料理は旨いし体調は万全だし。こりゃあ踏破も楽勝か?


……そんなわけないだろ……

ここからは次の階しか分からない。その三十一階にしてもボス部屋までのルートを知ってるわけじゃないんだからさ。

かなり慎重に進むに決まってる。


食料はたっぷり手に入れたし全員の装備だって充実している。ジュダの部屋では着替えだけじゃなくコートもいただいたからな。さすがに前回の反則コートほどではないが、そこそこ暖かい。魔力の無駄遣いを防いでくれるってわけだ。

おまけに手袋や帽子もゲットした。私好みのボルサリーノ風中折れ帽はなかったが、同じく中折れのウエスタン風帽子はあった。色は茶色。黒がよかったんだけどなぁ。鍔の広さが左右非対称なのはかっこいいかな。赤茶けた飾り羽根もいかしてるね。


しかも今回は少しでも魔力を節約するべくアレクもクロミも寝具をしっかりと用意しておいてくれたんだよな。アレクによると、私が寝込んでいたんだから準備の時間はいくらでもあったそうだ。ムラサキメタリック以外の武器も念のためあれこれ用意してくれているらしい。やっぱアレクは気が利くね。


よし。そんじゃ三十階のボス部屋目指してかっ飛ぶぜ!

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