1890話 目覚める朝

んー……

なんだかいい気分……

風呂で寝転んでいるような……

柔らかな風が吹く草原で昼寝をしてるような……

んートイレ行きたいなー

ここでしてもいいけど……

起きるのだるいし……


ん?

起きる……

あ……


「あっ!」


夢か……


「カース。起きたのね。気分はどう?」


「アレク、おはよ……」


ここは……宿か……?


「かなりお腹すいてるんじゃない?」


腹具合……分からん……何も感じないが……


「もしかして……かなりねてた……?」


だって体が動かないんだもん……全身バキバキじゃん……どんだけ寝てたんだよ……


「ええ、四日ほどね。クロミの予想より一日早起きね。」


「四日!? そんなに!? クロミの予想って……?」


「クロミが倒れたカースに魔法をかけたのよ。よく眠れるようにって。で、クロミの予想だと五日もあればその魔法を破って目が覚めるんじゃないかって。」


「そうなんだ……」


どんな魔法だよ。破らなければ目覚めないってことか? 私の永眠ながのねぶりと似てるな。


「まだ動けないと思うしお風呂でもどうかしら? 寝ている間は私がきれいにしてたから、さほど汚れてはないと思うけど。」


まただ……またアレクに介護してもらっちゃったよ。姉上やマリーに一ヶ月近く介護してもらったこともあるしなぁ。私って無茶しすぎなんだろうか……

まさかあんな風に、電池が切れるように倒れるなんてさ。


「ありがとね。じゃあ頼めるかな。さっきまで風呂っぽい夢を見てた気がするしね。」


「ええ。任せて。」


『浮身』


布団をめくると私は裸だった。恥ずかしいなぁもう。浴室に到着するタイミングでアレクも全裸になってるし。なんて眩しい体なんだろう。ビーナスどころじゃないね。




はぁ……いい湯だった。

風呂場でアレクに襲われることもなく、丁寧に体を洗ってもらっちゃったよ。良し悪し。


「何か飲む?」


これまたいいタイミングで聞いてくるなぁ。アレク最高。ちょうど風呂上がりで喉の渇きを感じてたんだよ。


「冷たいものが飲みたいかな。」


「待ってて。」


私をベッドに戻してアレクは駆けていった。急がなくてもいいのに。かわいいんだからもう。


「お待たせ。」


一分も待ってないよ。


『浮身』


上半身だけを浮かせ、起き上がらせてくれる。丁寧に制御してるね。アレクは偉い。


「さ、ゆっくり飲んでね。」


「ありがと。」


左手で私の首を支え、右手でコップを口元へと。そしてゆっくりと液体が流れ込んできた……


ふうぉ……キンキンってほどではないが心地よい冷たさだ。これはレモン……いや、カツラハ村のリモンの水割りか。それにほんのり甘みがついている。蜂蜜かな? 風呂上がりの火照った体に……やけに沁みるなぁ。リモンの酸味と蜂蜜の甘味がたまらないね。あぁ美味しい……


「ありがとね。美味しかったよ。」


「ええ。クロミを呼んでくるわ。カースは休んでてね。」


「クロミを? うん。」


クロミは私に用でもあるのかな。何だろ……そりゃアーニャのことだろうけどさ。




「ニーンちゃん。起きたんだってー?」


「おはよ。クロミが何か魔法をかけたんだって? めちゃくちゃ寝てたみたいで体がバキバキだわ。」


さっきの風呂でだいぶマシになったけど。


「ニンちゃんは無茶しすぎだしー。ここらでじっくり休んでもらおーと思ってさー。んで、その間にうちらが迷宮を踏破しよーと思ったんだけどねー。」


「そっちの方が無茶しすぎだろ。行かなくて正解だと思うぞ。」


いくらクロミでもなぁ。やっぱみんなで行かないとね。


「金ちゃんにも言われたしー。あ、そうだ。黒ちゃんの体はうちの魔力庫に入れてるから。迷宮入る前に返すね。一緒に行くならニンちゃんの魔力庫の方が安全そうだしねー。」


「アーニャが!? クロミの魔力庫に!?」


はぁ!? 意味分からんぞ……一体どうやって……


「ニンちゃんの魔力がめちゃくちゃ落ちてたからねー。するっと抜いちゃった。あと殴ってごめーんね。ついカッとなっちゃってさー。」


クロミやるなぁ……


「いや、それはもう構わないけど。じゃあ俺の体調が治ったらタイショー獄寒洞に行くってことでいいな?」


「いいよー。ドロガ達も行くってー。」


ドロガーが頼りになるのは分かってるが……問題はシューホーの時のように動けるかってことだよな。キサダーニも頼りになるとは思うが……


「それじゃあ、明日の朝出発でいいよな。悪いが俺は動けるようになるまでは寝とくけど。」


「またカースは無理して……」


「うちはいいよー。ニンちゃんの面倒は金ちゃんが見るしー。なら魔物の面倒はうちが見ればいいしー。」


「じゃあそれで。悪いねアレク。面倒をかけるけど。」


「私は全然構わないけど……カースはそんな体なのに……」


目が覚めたことだし、少しずつ動けるようになると思うけどなぁ。原因は少しずつ溜まった疲労と貧血だろうし。神には元気いっぱいにしてもらったけど、それでも万全とはいかなかったんだろうな。なんせその前が酷すぎたもんなぁ……顔の色んなところから血が流れてたもん。頭も超痛かったし。

そこに左手をぶっ飛ばされて肋骨までやられてさ。この程度で済んでよかったよ。まったく……


「そんじゃニンちゃんまた明日ねー。うち遊びに行くしー。」


「ああ。また明日。」


クロミが部屋から出ていくとアレクと二人きり。コーちゃんとカムイはどこに行ったんだろう?


「じゃあ私は何かスープでも作るわ。何も食べないなんて許さないわよ?」


「ありがとね。それなら飲めそうかな。」


ここは高級宿なんだからいつでも何でも食べたいものを頼めばいい。それなのに手ずから作ってくれるなんて。愛が嬉しいぜ……


それにしても……前もそうだったけど、四日間も目覚めることなく寝込んでいたらかなり危険な状態じゃないか? 普通は。体だって相当衰弱するだろうし。

それをアレクがしっかり面倒見てくれたんだろうなぁ。ポーションを水で薄めて飲ませるとかさ。ありがたいなぁ。泣けてくるよ。

ほんとアレクっていい子だなぁ……

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