1888話 晩餐会の行方
結論が出ないままクロノミーネは医務室を後にした。クロノミーネの心配の種はカースやアーニャだけではないのだから。
アレクサンドリーネは服を脱ぎ、カースの隣へと潜り込んだ。
「カース。ゆっくり休んでね。今はアーニャのことは忘れて……」
「ドロガ、飲んでるー?」
晩餐会の会場に戻ったクロノミーネ。ドロガーは隅寄りのテーブルで飲んでいた。
「飲んでんけどよぉ……」
「けど?」
「ヒイズルぁ終わりなんかぁ……」
「さあ? うち人間の国なんかに興味ないしー。」
「けっ……それにしても信じらんねぇぜ。あのガキぁそんなにやべぇんかよ……」
「ニンちゃん? ニンちゃんの魔力はもうめちゃくちゃだよ? うちらダークエルフと比べても別格だしー。それよりさー。ドロガも行くよねー? 迷宮。」
「そりゃあ行くけどよぉ……」
「えー? ドロガさぁ、うちのことどうでもいいの?」
「い、いや! そんなことねぇぞ! おめぇみたいなめちゃマブな女と俺がいい仲だなんていまいち実感がわかなくてよぉ……」
「信じらんないなら別にいいし。あーあ。そんなら村に帰ろーかなー。」
「待て待て待て! 信じてるって! 俺ぁきっとお前が好きだったに違いねえって! 迷宮でもどこでも行くに決まってんだろぉ!」
「ふーん。そんならいいしー。じゃあうちも飲むしー。ドロガにかんぱーい!」
「お、おおクロミに乾杯だぁ。」
「お前ら俺を無視するなよ……」
キサダーニも一緒にいるらしい。
「失礼。ヒイズルの五等星冒険者
声をかけてきたのは先ほど医務室にいた側近コンフレイドルだった。
「うちはー?」
「クロノミーネハドルライツェン殿もよろしければ是非」
「いいよー。いこドロガ。」
「お、おお……」
「おう……」
クロミは普段通りだが、ドロガーとキサダーニはガチガチに緊張していた。
「よく来てくれた。まあ座れ。」
「あー疲れたー。」
やはりクロノミーネは普段通りだ。
「あ、あの、お招き、あずかり、恐悦しご、あざす……」
ドロガーはわけが分からなくなっているらしい。天王が相手ならばそれなりに対応できるだろうに。ヒイズルを征服した相手とあって緊張が隠しきれないらしい。
「失礼します……」
キサダーニはまだ大丈夫なようだ。
「まあそう緊張せずともよい。お前達はカースと一緒に冒険をしていたそうだな。カースがあの様だからな。せめてお前達から聞かせて欲しいと思ったまでだ。さあ、飲みながら話そうではないか。ちなみにその酒はローランドの名人の酒だ。心して飲むがいい。」
「あっ、ほんと美味しーい。人間もなかなかやるじゃーん。おかわりー。ドロガも飲んだらー?」
「あ、あぁ……」
どうやらドロガーの手は震えているらしい。
「おおそうだ。ジュダやエチゴヤ討伐にはお前達も多大なる貢献をしたそうだな。褒美も用意してあるゆえ忘れずに持ち帰るがいい。」
「へー、ありがとー。」
「あ、ありがたく、ちょ、ちょうだ、ます……」
「ありがとうございます……」
まさに三者三様だろう。
「ふふふ、お前達。どうにも緊張がとれないようだな。ならば余興を兼ねて余と模擬戦でもしてみるか? 余に一撃でも加えることができれば近衞騎士として召し抱えてやってもよいぞ?」
「あ、うちやだー。勝てそうにないしー。」
クロノミーネらしいのだろうか。
「近衞なんぞに興味はないですが……大国の王がどの程度強いのか……やります……」
「俺もやる、ます……」
そんな男三人をクロノミーネは冷めた目で見ていた。
おそらく、こんな旨い酒があるのに何をつまらないことしてるんだ……とでも言いたいのではないだろうか。
客席は何が始まるのかと騒ついている。
『お前達。余興の時間だ。ここにいる傷裂ドロガーと乱魔キサダーニが余と立ち合うことになった。もちろん余興ゆえ刃物は使わぬ。この条件で余に一撃でも加えることができたら近衞騎士として召し抱えることもあり得るだろう。ヒイズルの強者の真価を見せてもらおうではないか!』
注目がステージへと集まる。
「では僭越ながら私が開始の号令をいたします。用意はいいですか?」
「うむ。」
「おう……」
最初はドロガーからやるらしい。
「それでは……始め!」
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