1854話 ウリエンの願い

神はズタボロになった偽勇者の死体をじっと見ている。


「確かにヤコビニと関わりはあったようだ。『ヤコビニの子供達』と言われる者どもの初期の世代だな。さて、そろそろ我の力も尽きる。ここからは質問なり願いなりあるならば対価を出すがよかろう」


なんだと!? ヤコビニの子供達!? 偽勇者にそんな過去が……それがいつの間にやらジュダの手駒か。


力?

あー、神の力も無限じゃないってことか。

んー、では最後の質問といこうか。


「偽勇者は次にどこら辺に生まれ変わりますかね? もしくは生まれ変われないよう消滅させるとかってできません?」


「無理だな。我の力はこの迷宮内限定だ。外に影響を及ぼすことなどできぬ。そこに本人なり死体なりあればそれを介して見ることぐらいはできるがな」


あらら。やっぱ下っ端なのかな?


「我ら迷宮の神は下級神だ。デメテーラ様やケルニャータ様とは格が違う」


はは……心をバッチリ読まれてちゃってるよ。

つーか偽勇者……もう二回生まれ変わるのかよ……参ったな。やっぱ殺さず生け捕りにするべきだったな。いやまあ、そんな余裕なかったけどさ。それを言えばジュダだって生け捕りにして契約魔法をガチガチにかけて配下にしたかったけどさ。


「ちなみに次に偽勇者が生まれ変わるのっていつぐらいか分かります?」


「分かるわけなかろう。肉体次第ではないか?」


「あー、なるほど。都合のいい体が見つかるかどうかって感じですか?」


「そんなところだろう。迷宮外のことなど我には分からぬ。それよりそなた、いささか質問しすぎだな。少しばかり魔力をもらうぞ」


「はぁ。あぼっ……ちょっと……少しじゃないんですか……」


ほぼ全部持っていきやがった……


「ほう。よい魔力を持っておるではないか。褒めてやろうぞ。さて、他の者は何かあるか? 何なりと言うがよい。対価次第で叶えてやろうぞ」


「では恐れながら。魔力を増やしていただきたく存じます。対価はこちらに。」


お、アレク。魔力庫大放出じゃん。あ、呪われた斧まで。そりゃあいらんわな。


「よかろう。一割は増えるであろう。そら」


「あっんんっうああぁぁんぁああっーー!」


ぬおう!? アレクそんな! こいつらの前でそんな悩ましい声なんか出して!


「では僕もいいでしょうか。対価はこちらで。」


おっ兄上。へぇー。結構たくさん魔石持ってるんだね。


「言え」


「では恐れながら『胎身籠はらみごもり』をいただけませんでしょうか。」


はらみごもり? 何だそれ?


「無理だな。その程度の対価では到底足りぬ。エルフの嫁でも迎えたか?」


「いえ、妻は人間です。ずっと子供ができないことが悩みなもので。ではこれならばいかがでしょう?」


おおっ!? 今度は原石か。それだけじゃない。普通にカットされた宝石まで。兄上って実は金持ち?


「足りぬ。それがもう十倍あってもだ。そもそも胎身籠は異種間での懐胎に利用するものだ。なぜそのようなものを望む?」


「子供ができないからに決まっております。色々と試した結果、もはや他に手段がないようで……」


ん? まさか兄上、エリザベス姉上との間の話か? 母上からの何か秘薬的なやつを届けたはずなんだけど……それでもだめだったってこと?


「そうか。いずれにせよ対価が足りぬ。諦めよ」


「あのー神様。ここの施設を全部提供しても足りませんか?」


「ふむ……悪くないな。もう少しといったところか。おおそうだ。そなた、よいコートを持っておるな。それを寄越せ。それならばおそらく釣り合うであろう」


あら。神ってこんな趣味悪いコートが好きなの? まあ、性能重視なのかも知れないけどさ。


「いいですよ。ではここの施設全てと、そしてこのコートで。」


「カース、いいのか? 見たところかなり高品質のコートのようだが……」


「いやいや。こんな趣味の悪いコートに未練なんかないって。それより兄上こそ大変みたいだね。エリザベス姉上なんだよね?」


「ああ……エリがな……」


やっぱりか。姉上も苦労してるんだなぁ……荒れ狂ってなければいいけど。


「よかろう。おそらくは足りるであろう。上手くいけば後日、そなたにカーリーティ様より神託が下るであろう。待っておれ」


生と安産の神カーリーティか。二歳参りを思い出すじゃないか。いや違う。二歳参りの時は成長と健康の神ヴィルーダだったっけ? 神が多すぎて全然覚えられないよ……


「あ、ありがとうございます!」


おお……兄上ったら、そんなに嬉しかったのか。地面に片膝ついて祈りのポーズ。


「確定ではないことを忘れるな。全てはカーリーティ様の思し召しだ」


「はい。分かっております……」


私の身体からコートが消え、数々の施設も消えた。するとそこにはぽつんと宝箱だけが残った。

開けたのはドロガー。中身は……籠手こて臑当すねあてか。結構良さそうなやつじゃん。私のエルダーエボニーエントの籠手ほどじゃあないだろうけど。




さて、ここまでかな。少しばかり問題は残ったがジュダは仕留めたことだしオッケーとしようかね。後はエチゴヤの残党をきっちり潰すぐらいだろうか。そっちは私がやらなくても蔓喰つるばみの奴らが張り切ってやりそうだけどな。結局ハンダビラとかどうなったんだろ?


「さて、もうよかろう。そなた達には感謝しておるぞ。もし我の祝福が欲しいならば改めて踏破してくるがよい。このタイショー獄寒洞をな。楽しみに待っておるぞ?」


「その時はよろしくお願いします。」


私は行かない気がするけど、クロミとドロガーは行くんだったな。


「ではさらばだ。そなた達の往く末に大いなる幸があらんことを……」


消えた……


はぁ……ジュダとの戦いからここまで、何だか怒涛の展開だったよなぁ。

体の痛みは消えたけど、結局魔力は空っぽになっちゃったもんな。めっちゃ怠いなぁ……せっかく全快したのに。


さて、帰ろうか。天都イカルガに。








■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

胎身籠について興味があればこちらを参照ください。


『異世界金融外伝 〜深山の蝶は彼岸に舞う〜』


https://ncode.syosetu.com/n3733gp/

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る