1852話 神との対話


「もう少しあれこれ聞いてもいいですか?」


「よかろう」


さて、何を聞こうかな。いっぱいあるんだよな……


「そもそもムラサキメタリックって何なんですか? えらく不思議な金属ですよね?」


「ケルニャータ様の恩寵だ。人間どもがオリハルコンを錬成できるようになったことだし新たな進歩を促してやろうとお考えになったらしい」


鍛治と武器の神ケルニャータか。ヒイズルに来てから、やけに神が近いよな。そんな土地柄なんだろうか。ついでに聞けばいいか。


「ケルニャータ様が提供して、迷宮に出現するようになったってことですか?」


「その通りだ。人間どもに扱いきれるかはともかく、機会を与えようとな」


ふーん……気前がいいのか、それとも見下してんのか。よく分からないな……


「なぜヒイズルにはこんなにも神が多いんですか? 神域だって三つ、いや四つあるんですよね?」


「知らぬ。ヒイズルはローランドより大地の恵みが少ないからではないか? そのような『大いなる意志』に関わることなど我のような一介の神に分かるはずもない」


また分からない言葉が……


「大いなる意志って何ですか?」


「知らぬ。天地のことわりと同じくただそこに在り、我々には窺い知れぬ何かだ」


神に知らないって言われたら終わりじゃん。まあ神にもランクがあるんだったな。


「ということは迷宮の役割はヒイズルの人々に試練と恵みを与えるためなんですか?」


「我はそのように解釈している。慌てふためき、足掻く人間を見て楽しむ娯楽だと解釈している神もいるだろうがな」


なるほど……それぞれの解釈があるのか……


「ここの施設が何か分かりますか?」


「知らぬ。欲しくば好きにせよ」


欲しいわけないだろ。いや、せっかくだから言うだけ言ってみよう。


「じゃあ持って帰ろうと思いますので一つの塊にしてもらっていいですか?」


「容易いことだ。む? 中に三人ほど人間がいるな。そやつらごと塊にしてよいのか?」


「え? 人がですか? だめです。そいつらを出してからでお願いします!」


「容易いことだ」


赤兜とは別の人間なんだろうか? なぜこんなところに? しかもわざわざあの妙な施設の中に……?


あ、出てきた。円錐の一部が開き、のたのたと三人の男が?


「お前らそこで何してたんだ?」


うっ、臭っ。


『浄化』


よし。


「次持ってこい」

「さっさとせぇや」

「早ぉせえ」


なんだ? 会話が通じてない。ジュダが死んでるのに魔法が解けてないってことは洗脳魔法ではなく改変の方か?


「神様、こいつら元に戻せますか? まともに会話できるように。」


「ふむ、ちと面倒だがまあよかろう。しばし待て」


「ひょぬっぴぃ」

「そんびゅちぃの」

「ごっぶょいしる」


うわぁ……何か奇声を発してる……動きもカクカクとキモい……


「戻ったぞ」


おお、さすが神。ジュダは自分でも戻せないって言ってたけど、やっぱ神は違うね。


「よう。お前ら具合はどうだ? 腹へってないか?」


「あ……え、ここは……」

「えれぇ寒くねぇか……」

「おれら一体なにを……」


知らねーよ。


「こいつらがここで何してたか分かります?」


「知らぬ。が、見てやろう。しばし待て」


見る? やっぱ神ってすごいな。過去の出来事とかも見れるってことか?


『風壁』


この迷宮内にボロそうなシャツ一枚って。そりゃあ寒いよ。話を聞く間ぐらいは暖かくしといてやるよ。


「こやつらは職人のようだ。ムラサキメタリックに魔法効果を付与していたようだぞ」


マジか! お宝ゲットじゃん!


「なあ、お前らさ。ムラサキメタリックの所有者登録とかできるか?」


「ムラサキメタリック?」

「しょゆうしゃ? とうろく?」

「何の話ぃしとんだ?」


「こやつらジュダに改変魔法をかけられる前まで戻したぞ。つまりそれからジュダに仕込まれた内容は覚えておらぬであろうよ」


なんだそりゃあ! そんなのありかよ!

せっかくのお宝が! 仕方ないけどさ……


「えーと、お前ら職人だよな? 何の職人なんだ?」


「あぁ? ワシらぁ知らんのか!?」

「オイらぁ王都でも有名な魔道具職人三兄弟だぞぉ!?」

「おれらぁ知らんたぁどこのモグリかぁ!」


なるほどね。魔道具職人ならムラサキメタリックに魔法効果を付与することも……難しいに決まってんだろ。魔力と相性の悪い金属なんだからよ。


「分かった。また後で話そう。何か食べながら待っててくれ。」


たぶん長いこと過酷な労働をしてきたはずだし。助けてやるよ。とりあえず水と食い物を出しておこう。


「神様ならあの職人と同じことぐらい簡単にできますよね?」


「知らぬ。具体的に言え」


「あの女の子が纏ってる鎧なんですけど、自由に換装できるようにしてやってくれませんか? ついでに元々付与されてる魔法効果もきっちり発揮するように。おまけにあの子に魔力庫も設定できません?」


「容易いことだ」


おほっ、さすが神。熟練の職人技も神の御業であっさり解決か。これでアーニャはかなり自由に動けるようになったぞ。

ついでだから落ちてた偽勇者の大剣を私と兄上が自由に使えるように設定してもらった。簡単に収納できるようになったし軽量の効果だって発揮できるようになっちゃったよ。なんせ不動と対等に打ち合える大剣だもんね。


質問と言いつつ便宜を図ってもらっちゃった。ラッキー。

これはまだまだいけそうだな。

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