1828話 地下十一階
六階の安全地帯にもジュダの痕跡なしか。それにここに来るまでに赤兜に会ってないのも気になるんだよなぁ。ここには全部で四百人ぐらいいるはずだが。そのうち地上に百人いたとして、三百人ぐらいは迷宮にいる計算だ。
あ、そうか。ここに常駐してる奴らなら五階とか六階なんて楽勝なのか? つまり勝負は十階以降……何なら二十階以降ってことも……
まずいな……
そうだとすると取り逃す、または行き違いになる可能性の方が高い……あいつらは無理に来た道を戻る必要なんかないんだからさ……
うーむ。そろそろ安全地帯で一泊しようかとも思ってたが、そうもいかなくなったな……くそ、まったく面倒な奴らだぜ……
「みんな。ここからは全力で行くよ。大急ぎでね。」
「もちろんいいわよ。でも一番大変なのはカースなんだから無理はしないでね?」
「うん、分かってる。カムイ以外のみんなは周囲の観察を頼むね。ちょっと見にくいとは思うけど。」
カムイはボスの所への案内を頼むぜ。さっきみたいな妙な仕掛けもあるとは思うが。コーちゃんは罠の警戒を頼むね。そもそもこんなだだっ広い草原に罠があるかなんて分からないけどさ。まあボスのところに行くにはどこかの入口を通過する必要があるみたいだけどさ。罠を警戒するのはせいぜいそこを通るときぐらいだろうか。
「ガウガウ」
「ピュイピュイ」
よし。これで布陣は完璧。行くぜ全速力。待ってろよ六階のボス。
到着。サスカッチ。カムイが瞬殺。
そして七階。カムイに頼んだとはいえ、近くに寄らないと発見できないことに変わりない。だから全速力でしらみ潰しに飛んでやる。端まで行くとやはり高い岩山が聳え立っている。たぶんこれって上まで行っても意味ないんだろうな。イグドラシルを飛んで登ろうとしても無意味だったように。
何かありそうな気もするが今は無視だ。ボス部屋か安全地帯を探すのが先だ。
「ガウガウ」
おっ、あれだな。五階と違って普通に分かりやすいじゃないか。六階もそうだったけどさ。
巨木に二メイル程度の穴が空いている。カムイの鼻もあそこがボス部屋だと言っているようだ。行くぜ。
そしてついに十階まで到達した。とうとうここまで赤兜を発見することはなかった。嫌な予感がするな……
そしてボス。瞬殺。
いよいよ十一階へ。ボス部屋から出てみると今度は草原なんてもんじゃない。雪山だ。それも軽く吹雪いている。足跡は……ない。雪のせいか、それとも迷宮の特性のためか。
「アレク、どう思う? 進むべきか戻るべきか。あいつらはどっちを選んでそうだろう……」
「もし……ジュダがここに逃げ込んだことが間違いないとすると……目的はここに入り込んだ赤兜を集めること。それも間違いないと思うわ。ここまで一人も出会わなかったってことはジュダの命令が行き届いているってことかしら。最寄りの十階層から外に出るようにか?」
「そこで少し気になることがあるんだ。ジュダとやらは戦力をどこに集合させようとしているんだろうね? 迷宮の中なのか、それとも入口なのか。僕だったら迷宮内に集めてから一斉に外に出る。戦力を分散させるのは危険だからね。ただ、それは僕が外で近衞騎士団が待ち構えていることを知ってるからだ。中と外で連絡手段がないとすれば、ジュダとやらがそれを知るはずはない……とは思うが。」
うーん、さすが兄上は近衞騎士。いいこと言うね。
どうしよう……ここの赤兜はたぶん全員がムラサキメタリックに換装できるはずだ。そうなるといくらローランド王国が誇る宮廷魔導士に近衞騎士団でもきついだろう……そもそも数が違いすぎる。
「兄上、外を見張ってくれてる皆さんはムラサキメタリックの騎士団を相手に勝てると思う? 数はざっと三百。」
「そうだね。勝つのは難しいかな。でもね、彼らの任務は勝つことじゃない。あそこから誰も逃がさないことだ。だからその点に関しては心配いらない。あそこの地形を作り変えてでも守ってくれるだろう。」
「そうか……そうだよね。分かった。それならこのまま進むことにする。みんな、ますます視界が悪くなったけど頼むね。」
「ええ。大丈夫よ。任せておいて。」
「ウチは別にらくしょーだしー。」
「私は座ってるだけだから……」
「任せとけやぁ!」
「こんな時こそフェルナンド先生なら、心の眼を開けっておっしゃるだろうね。」
確かに……私には無理だが兄上なら。
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
カムイめ……鼻先だけ寒いだって? 普段ならこれしきの寒さでも平気なんだろうけどね。今回は鼻から空気を吸い込みまくってるからかな?
しかしカムイの鼻は生命線だからな。どうせじっくりと追い詰めると決めたんだ。ならばどこかで休憩、そして仮眠だな。
よし。やっと見つけた安全地帯。
入ってみれば……いたぁ!
『榴弾』
「だ、だれごょぉ」
「なにもっのぼ」
「よけっろっぎょ」
「まちっやっがご」
「いぎぃゃっ!」
「お前たち!?」
五人はミンチになって即死だ。休憩中だったのだろう。赤い鎧すら脱いでやがったからな。外がうるさいせいで私達の足音にも気付かなかったと見える。不意打ち大成功だ。
「よう。お前は赤兜だな。今からどこに行こうとしてんだ?」
「き、きっさまらぁぁぁ……口上もなしに! いきなり攻撃などと! 騎士の風上にもおけぬ所業! 断じて許さん!」
『狙撃』
いつものように右肩を撃ち抜いた。喋ってないで換装使えばいいだろうに。まあ、もう遅いけど。
『解呪』
『拘禁束縛』
これで身動きは取れないし、魔法も使えない。そして解呪はバッチリ効いた。やっぱ洗脳されてたのね。
「さて、正直に話すなら命は助けてやるが?」
「あ……は?」
洗脳が解けたばかりで頭が回ってないようだな。
「約束するぜ? あれこれ正直に言っちまえ。あの女の子達がいいことしてくれるかも知れんぞ?」
「あっはぅっうぉ!?」
おお、効いた効いた。ちゃんと話が理解できてたようだな。
「さて、お前はここ最近ジュダに会ったか?」
「お会いしてない……」
「ではジュダから何か命令が出てないか?」
「出てる……外に出ろって……」
「それだけか?」
「それだけだ……」
「タイミングの指示もなしか?」
「聞いてない……」
あいつバカだろ。こいつらがバラバラに外に出たって近衞騎士団の餌食になるだけだ。あ、そっか。待ち構えてることを知らないからか。外で合流してイカルガに攻め込もうとか考えてるってことか。迷宮内で合流しようとすると罠や魔物が危ないしな。
さて、もうこいつ用無しだな。どうしよう……
「魔力庫の中身を全部出せよ。ほぉら、あのかわいい子がいいことしてくれるぜ?」
おっ、出た出た。えらく素直じゃん。えーっと、肉が多いな。それから剣が数本に何かの原石か。おっ、金のインゴットまであるじゃん。後は赤い鎧と紫の鎧、それから衣類に小銭ぐらいか。
「こいつは貰っておく。残りは返してやるよ。」
肉と剣と原石とインゴットだけ貰っておいた。それ以外は邪魔にしかならないからな。
「クロミ、こいつを適当に踏んでやって。」
「えー? 踏むのー? 別にいーけどー。」
約束は約束だからな。黒ギャルに踏んでもらうのは一部の業界ではご褒美だ。こいつが喜ぶかどうかは知ったことじゃないけどね。
無反応か。拘禁束縛が効いてるからだな。
「何回踏むのー?」
「ああ、もういいよ。ありがとな。さて、お前はもう自由だ。命を助ける約束でもあったしな。行っていいぞ。」
『拘禁束縛解除』
「あ、ああ……」
ふらふらと安全地帯の外へと出ていった。せっかく残してやったムラサキメタリックを装備しないと死んでしまうぞ? あれって持ち主なら冷暖房完備なんだろうなぁ。
さて、寝るとするかね。
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