1819話 丞相ボガイト・アラカワ

『徹甲弾』

『徹甲連弾』


私が時間を稼いでる間にドロガーは傷ついた冒険者に応急処置をしていく。くっ、何人か死んでるんじゃないか……


とりあえず入り口を確保しておこう。でないとこいつらが出ることもできないからな。


「待てぇい! これ以上の狼藉は許さんぞ!」


誰だ? 聞き覚えのない声だな。ジジイか。


「狼藉は許さんってお前らが天井落としたんだろう? 放っておけば帰ったものを。」


「フルカワ王家に代々伝わる宝物を持ち出しておいてそのまま帰せるわけなかろうが! 賊徒めが! 神妙にせよ!」


「いかに何百年続いた王朝だろうとクズが王になったら簡単に崩れるもんだ。だいたい奥の部屋には手を付けてないんだから大目に見ろよ。」


我ながら盗人猛々しい言い草だわ。まあ私は何もゲットしてないけどさ。


「そなたはローランドの魔王であろう? 国王殿とも御目見おめみえで直属の身分証を持つとも聞く。その上シューホー大魔洞を踏破した英雄ではないか! それがなぜこのような下衆な真似をする!?」


してねぇよ! やってるのは同じ踏破者であるドロガーだっての。


「俺のことを知ってるなら話は早い。ジジイ、お前が誰かは知らんがジュダの行いを知らんとは言わさんぞ? あいつは完全にローランド王国にケンカ売ってやがるからな。うちの陛下がドラゴンに乗って攻めて来ないのが不思議なぐらいだぞ?」


「儂は丞相……ボガイト・アラカワだ! それならそれでしかるべき親書を出すのが筋ではないのか! それをこのような無法の数々! これがローランド王国のやり方かぁ!」


おお。こいつが丞相だったのか。つーか丞相自ら赤兜を率いるって……マジで末期じゃん。こりゃあ終わったな。


「そもそも前提が違う。俺は別に国王陛下から何ら命令を受けちゃいない。ただエチゴヤとジュダが気に入らないから動いているだけだ。つまり、ヒイズルを滅ぼす気はないしフルカワ王家を根絶やしにする気もない。」


「ここまでのことをしておいて! そのような世迷言を信じろと言うのか! ならばその証を見せてみるがいい!」


そんなもんあるわけないだろ……だいたい話に付き合ってやってるだけでもサービスなんだからさ。


あ!


「アスカ・フルカワを保護したぞ。あのばあちゃんがどんな場所に幽閉されてたのか知ってるか? 居るだけで魔力を吸われるんだぞ? しかもそこから出たら娘と孫を殺されると怯えていたぞ? お前はそれでもジュダに忠義を尽くすのか?」


「なっ!? 何だと!? 王太后殿下が!? そ、そんなバカな! 天都は騒がしくて落ち着かないとヤマトゥオ村に移住されたはずなのに……」


「お前はそれを本人の口から聞いたのか?」


「無論だ! そうでなくばどうして王太后殿下をあのような寒村にみすみす行かせるものか!」


「俺の言うことを信じる必要はないが、お前が望むならばあちゃんに合わせてやってもいい。だが条件がある。」


もしかしてこのジジイは洗脳されてないのか? 単に堅物だって話だったが……


「くっ! 条件だと!? 言うだけ言ってみよ!」


「大したことじゃない。今すぐ王妃と子供達を保護しろ。そしたら一緒にばあちゃんの所に連れてってやる。なんせジュダがどんな手で皆殺しにするか分かったもんじゃないからな。」


つーかジュダの野郎……自分の子を人質に使うって……最低すぎるだろ……どこまで外道なんだよ……


「もうとっくに避難していただいておる!」


「それがどこかは知らんがジュダも知ってる場所なんだろ? 俺としてはばあちゃんに悲しんで欲しくないんだけどな。まあいいや。丞相、お前の忠義がアラカワ王家にあると信じてやろう。だから選べ。ジュダごと滅びるか、ジュダにだけ死んでもらうかをな?」


せっかく避難させてもジュダがその場所知ってたら意味ないじゃん。そこまで私が気にすることじゃないけどさ。


「貴様ぁ……どうあっても天王陛下のお命を狙うと申すか! ならば是非もなし! 者ども! 構えよ!」


「待て待て。ばあちゃんは放置してていいのか? 俺が保護したとは言ったが今の居場所を知りたくないのか?」


「くっ……卑怯な! 言え! 王太后殿下はどこにおられる!?」


「じゃあ今から行こうぜ? こっちも怪我人が多いからな。」


「なっ!? まさか……王太后殿下は治療院におられるのか!? ど、どこがお悪いのだ!?」


「その前に。ここまで言ったんだ。通さないってんなら全員殺すぞ? お前も含めてな。どうする? さっきの質問もあるしな。さっさと決めろ。ジュダだけ殺すかジュダごと滅びるか。どっちがいいんだ?」


「くっ……者ども! かかれぇーーい!」


あーあ。それが丞相の決定かよ。天都も終わったな。


『狙撃』

『徹甲弾』

『徹甲連弾』


「おうドロガー。今のうちにさっさと行け。」


「すまねぇ! 先に行くぜ! できれば魔王……あいつらの死体を……頼む!」


「ああ、収納しておいてやるよ。」


略奪に精を出して罠にかかって死ぬ。同情できないけどなぁ。まあ冒険者は皆仲間だし。それぐらいはしてやるさ。


さてこっちは……

丞相ジジイは早々と殺したが、赤兜どもは無傷なんだよな。しかもここって床までムラサキメタリックか何かみたいでアレクの『落穴』が効いてない。面倒な戦いになりそうだ……


「よくも丞相閣下をぉぉ!」

「おのれ魔王! 生きて帰れると思うなぁ!」

「貴様が死ぬまで許さんからなぁ!」


「お前らはジュダと丞相どっちに忠誠を誓ってんだ?」


「ふざけるな! 我ら丞相閣下直属の烈士隊はヒイズルという国に忠義を尽くす存在だ!」

「天道宮をここまで破壊し! 宝物庫を荒らした罪人を許しておけるものか!」

「貴様だけでなく冒険者どもも必ずや正義の撃剣をくらわせてくれようぞ!」


烈士隊? 初耳だよ。その割には赤兜と同じようなムラサキメタリックのフルプレート鎧を着てるじゃん。


「もうムラサキメタリックの弱点はバレてんだよ。それでもいいならかかってこい。一歩でも動いたら皆殺しにしてやるよ。」


『アレク、どうにか身を守っておいて』


伝言つてごとで伝えた。

落穴が使えないとなるとアレクにはかなり不利だからね。カムイはアレクを頼むぞ?


「ガウガウ


「丞相閣下の仇ぃ! いくぞぉ!」

「おおおお!」

「殺せぇ!」


『高波』


弱点その一。水の魔法で顔を覆うことはできないが、無理矢理押し流すことはできる。その時に溺死するかどうかは運だけど。


『身体強化』

『螺旋貫通峰』


弱点その二。いくら無敵の鎧でも所詮は人の業で生み出されたもの。神木イグドラシルでできた棍には敵わない。


弱点その三。いくら無敵の鎧を纏っていても剣の腕まで上がるわけじゃ……うっ、こいつ強い! 私よりかなり! こりゃいかん『徹甲弾』


ふぅ。危なかった。とりあえず吹っ飛ばして仕切り直しだ。

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