1816話 マウンティング未遂

あー……よく寝た……今何時だろ……

あら? これは珍しい。左側にアレク、右側にアーニャが寝てるじゃないの。これぞまさしく両手に花。かつて愛した女と現在愛している女。私は本当はアーニャをどうしたいんだろうね。我ながらよく分からない……


『浮身』


二人を起こさないようにベッドから出る。風呂でも入るか……


「ピュイピュイ」


コーちゃんおはよ。起きてたの? あらら、お腹すいてたのね。ごめんごめん。すぐ頼むね。

そうなると風呂は後でいいか。コーちゃんと何か食べてからにしよう。




食事を終えて外を見てみれば、もう夕暮れだ。街の様子は朝と変化がない。てことはジュダの野郎はまだ見つかってないってことか。さすがにもう陸地に戻っていてもおかしくない頃だ。海に沈んでてくれると助かるんだけどな。あー、でもその場合は海中で魔石爆弾が爆発するってことだよな。下手すりゃ地震とか大津波とか起こったりするんだろうか。


何も起きてないってことは、やっぱジュダの野郎生きてるんだろうなぁ……どこへ隠れてやがる。今夜はどう動こうか……


コーちゃんと空を見ながら飲んでいたらアレクが起きてきた。


「カース、起きてたのね。体調はどう?」


「おはよ。大丈夫だよ。魔力も少しは回復したしね。アレクは?」


「私は何もしてないもの。平気に決まってるわ。それより今夜もジュダを捜索するの?」


「うーん、それなんだけど困ってるんだよね。奴にトドメを刺さないことにはこの先安心して眠れないからね。でも手がかりもないし。どうしたもんかな。」


「ありがちなのは誰にも知られてない隠れ家とかかしら? ジュダだって結構ダメージがあるはずだし、ひとまずどこかで身を休めるはずね。それもなるべく海から近い場所で。もっとも、それが分かれば苦労しないわね。」


たぶんだけど、陸地に戻るだけでかなりハードなはずだもんな。


「だよねー。クロミとカムイが戻るのを待とっか。あの二人なら何か掴んでそうな気もするしね。」


「それもそうね。じゃあカース、お風呂に入らない?」


「僕もちょうどそう思ってたところだよ。入ろう入ろう。」


これぞ以心伝心。残った酒はコーちゃん全部飲んでいいよ。あ、コーちゃんごめん! 後でカムイを探してくれない? 僕らがここにいるって伝えておいて。


「ピュイピュイ」


ごめんねコーちゃん。ありがと。

私には分からなくてもコーちゃんならカムイがだいたいどこに居るか分かるんだもんなぁ。すごいもんだ。




はぁ……なんだか久々の風呂のような気がする。やっぱ風呂はいいなぁ……




途中からアーニャも風呂にやってきて、三人仲良く並んで浸かった。アーニャはやけにハイテンションだった。どことなく空元気にも見えるが……




風呂から出た。コーちゃんは戻っていない。まだカムイを見つけてないのか、それとも今帰っている途中なのか。


焦ることはない。のんびりと待っていよう。アレク達は夕食まだだしね。




「ご馳走様。やっぱりここの料理はおいしいわね。」


「おいしいね。アレクさんの料理といい勝負だね。」


「アーニャったら。味付けが違うから簡単には比べられないけど、私はカースが美味しいって言ってくれればそれでいいわ。」


「そうだね。カースって何でも食べるもんね。あれ? そういえばレバーは食べれるの?」


アーニャがアレクと楽しそうに話してると思ったら急に私に話が飛んできた。


「レバーはねぇ……よっぽど旨いやつじゃないと無理だね。具体的にはとれたてのオーガベアのレバーをうちのメイドのマーリンが上手く料理してくれた場合とかさ。」


思い出すなぁ。貧血気味のアレクのために、夜中にカスカジーニ山に狩りに行ったっけなぁ。


「ふーん。食べれるようになったんだ。よかったね。じゃあ辛いのは?」


「クタナツ周辺だとあんまり辛いのってないからそもそも食べないかな。バンダルゴウ辺りだとスパイシーな味付けが多いよね。アーニャはよく食べてたの?」


「無理無理。あんなのお金に余裕がある人しか食べられないって。香辛料って高いもん。たまには激辛カレーなんて食べたいんだけどね。」


カレー! 超食べたい! でもどこにもない!


「アーニャさ、もしかして香辛料があれこれ揃ったらカレー作れる?」


「作れるよ。たぶんね。」


「おおおお! ぜひお願い! すっごく食べたくなっちゃったよ! これもう次の目的地は決まりだね! 南の大陸で香辛料をどっさりゲットしようよ!」


「さすがカースね。あっさり南の大陸行きを決めるなんて。私もそれ食べてみたいわ。あ、でもその前に一度クタナツに帰った方がいいかしら。ギルドのこともあるし。」


「それもそうだね。ここでの出来事をお代官様に知らせてあげてもいいしね。」


そしたら勝手に国王にまで話を通してくれるだろう。後のことは知らん。報復でも植民地化でも好きにやればいいのだ。


「アーニャだって隠してるお金を回収したいんだったわよね。それならやっぱり一度帰るべきね。」


「それがあったね。ついでに冒険者登録もか。結構用事があるもんだね。まあでも慌てなくてもまだヒイズルだって一周してないしね。のんびり行こう。」


でもなるべく早くカレーは食べたいぞ……どの香辛料があればいいのかな?


「それなら近いうちにタマネギを炒めて作るカレーに挑戦してみるね。それなら意外とすぐ作れるかも。」


うっ……心の声が漏れたか……


「ナイスアイデア! それはいいね! 楽しみにしてるよ!」


それって結構長時間炒めないといけないんだったよな。ミスリルフライパンがあれば焦げなんか気にせずに高温でガンガン炒められたんだけどなぁ。


「かれーって言うの? カースの好物なのね。知らなかったわ。私も覚えたいから作る時を楽しみにしてるわね。手伝うわ。そうなるとさっさとジュダを片付けてしまいたいものね。」


結局そうなるんだよなぁ……

カレーも早く食べたいなぁ……

コーちゃん遅いなぁ……

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