1813話 ヤマトゥオ村の王太后アスカ・フルカワ

第四番頭クラギ・イトイガから羅針盤を没収してやったからな。ヤマトゥオ村まで迷うことなく到着した。


上空から見るに、この村は……城砦じゃん。どこが村だよ……

小高い山の上、周囲は隙間なく積まれた石垣。どんだけ警戒してんだよ。私には関係ないけどね。


「アレク、一気に行くよ。」


「ええ。アスカ王太后が幽閉されているとするなら一番高いところか地の底が定番。ここの場合だとあの建物の天辺かしら? そこ以外を殲滅するのね?」


「その通り。じゃあアレク、任せていいかな?」


「ええ。」


『ジョトーガ クショウダイ ネイハンダ シンギョウガン シシンニイン 天上より来たれ 氷の脅威よ 大気を震わせ 必至滅土ひっしめつどの災いたれ 降り注ぐ氷塊』


おおーー!

上級魔法『降り注ぐ氷塊』! しかもフル詠唱バージョンか! ゆっくりと丁寧に、その上かなりの高度から落とそうとしている。なんてえげつない!

一般的な村人がいたら悪いけど、どう見てもいるわけない。だからアレクも容赦しないんだよね。


おっ、来た来た! 遥か天空より無数の氷塊が落ちてきた! おっ、さすがに見張りは気付いたな。さあ、どうする?


ほほう、精一杯防御魔法を展開したようだが、どう考えても無意味だったな。全ての城壁が崩れ落ち、頑丈そうな正門もぶっ壊れた。

小さな建物も全て灰塵と化し、残ったのは城砦の中心部にある城のような大きな建物だけだ。


「さすがアレク。見事なコントロールだったね。」


「たっぷり時間を使ったもの。あれだけゆっくり詠唱したんだからこれぐらいできるわよ。」


よし。次は私の出番だ。


『ジュダ! 出てこい! 天都に帰らずこんな僻地に逃げてんじゃねぇぞ! この臆病者が! あのぐらいで俺を殺した気になってんなよ! さっさと出てこい!』


まずは拡声で脅しを一発。生き残った赤兜がわらわらと集まってくる。ジュダはいないのか? それともビビって出てこれないのか?


「アレク、赤兜にガンガン氷塊を当ててやって。」


「分かったわ。」


そして再びゆっくりと詠唱を始めるアレク。人間を一人ずつ狙うとそうそう当たらないけど、避けられても構わないぐらいの気持ちでぶち落とすつもりなんだろうね。そうすれば誰かに当たりそうな気もするし。


『おら! クソザコ赤兜ども! 俺らが怖ぇんならジュダなんぞ守ってないでさっさと逃げてもいいんだぜ! 逃げねぇんなら! ほぉら、次が行くぜ!』


『降り注ぐ氷塊』


タイミングばっちり。まるでイントロの間にコメントを入れるラジオDJのようだ。セリフが終わるタイミングでどどどどっと降り注いだではないか。

赤兜どもはとっさにムラサキメタリックに換装した奴もいるようだが、ほとんどはそのまま氷塊の直撃をくらっている。集まってしまったせいで避けにくくなったもんなぁ。


これでだいぶ減らせただろう。ここには百人近くの赤兜がいるそうだからな。全員がムラサキメタリックを纏って抵抗してきたら厄介だからな。


「よし。じゃああの建物に突入しよっか。」


「そうね。ここまでやってもジュダは出てこないわね。魔力はどう?」


「分からないね。一つだけ強い魔力を感じるけど、これってアスカだろうね。」


「そうね。私もそう思うわ。」


だいたいジュダがもしムラサキメタリックを装備してやがったら反応すらしないんだからさ。不意打ち注意だな。


「とりあえず上の方に行ってみようか。」


あの城って上が天守閣っぽいんだもんな。いきなり行ってみよう。


「アレクは後ろにいてね。」


「ええ。」


もしジュダがいて、いきなり魔石爆弾を使われたら最悪だからな。


ベランダっぽい所に着陸。さて、中に入るには……どこから……

あ、この反応は。


ガタンと扉が開いた。そこにいたのは、老婆だった。


「何者じゃ……」


「こんにちは。ここにアスカ・フルカワが幽閉されてるって聞いて助けに来たんだけど。もしかしてばあちゃんがアスカ・フルカワ?」


魔力的にはこのばあちゃんがそうなんだけど。


「その通り……わらわがアスカ・フルカワである……この中には入らぬ方がよい……」


「中に用はないからいいけど、ジュダに幽閉されてるんだよね? 助けに来たんだけど出ない?」


本当はジュダをぶち殺しに来たんだけどさ。


「ここを動くわけにはいかん……」


「それはまたどうして? ここが気に入ってるってんなら諦めて帰るけど。」


「妾がここから出ると……テンリや孫達が殺される……」


あー……なるほどね……

ジュダらしい手口だわな。


「ね、ねえカース……この建物……危ないわ……どこか変よ……」


「え!? アレク大丈夫!?」


顔色が悪い。真っ青で……


「離れるがよい……ここに近寄るでない……」


何がどうなってるのかは分からないが、一旦離れてみよう。上空へと。


「アレク、大丈夫? 気分は……」


「はぁ。もう大丈夫よ。どうもあの建物は魔力を吸われるみたいだわ。あの人よく生きてられるわね……」


なんと……私は特に違和感を感じることもなかったが……たぶん微々たる量だからかな。


「じゃあアレクはここで待っててくれる? もう少し話してみるよ。」


「ええ、気をつけてね。」


鉄ボードをアレクに任せて、一人で先程のベランダへと戻る。




「たびたびごめんね。今ならジュダが天都にいないよ? こんな気分悪い建物なんか出た方がいいんじゃない?」


「ジュダがいない? どうしたことか……」


とりあえずこちらの身元と目的ぐらい話しておくか。使える身分証がアラカワ領のやつだけど。


「僕はカース・マーティン。こんなの持ってるけどローランド王国から来たんだよ。で、ジュダをぶち殺そうとしてるんだけど、逃げられてさ。天都に戻ってこないからここに来るのかと思ってね。今日はジュダを見てない?」


「まさか……ジュダはローランドまで敵に回したのか……」


「その通り。だからってヒイズルを滅ぼそうとは思ってないよ。ジュダとエチゴヤさえぶち殺せばそれでいいから。だから気にしないで天都に戻らない?」


「そなた……ヒイズルを滅ぼす力があると申すか……これだけ破壊して見せたのは……その力の一端というわけか……」


「まあそんなところかな。ところでテンリに会ったよ。ジュダにイカれてるみたいで何だか変な感じだった。放っておいていいの? クワナだって心配してたよ?」


「クワナ!? クワナを知っておるのか! どこじゃ! クワナはどこにおる!」


うおっ!? いきなり元気になった!? 私の肩を掴んで激しく揺さぶるではないか。ばあちゃん落ち着け。

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