1680話 ノワールフォレストの森とヘルデザ砂漠

とりあえず行くだけ行ってみよう。見つからなければ夕方まで待てばいい。今日中に帰れなくなってしまうけど……

うーむ、カムイがいるから大丈夫とは思うけど心配なんだよなぁ。だって天都イカルガって敵陣真っ只中みたいなもんなんだからさ。そこに洗脳魔法を使うであろう天王ジュダ。もしアレクが洗脳されたらなんて考えたら気が気じゃないよね。

その上もし、もしも洗脳状態のアレクから「カースなんて大っ嫌い」なんて言われたら……立ち直れなくなりそうだ。


そうだな。やはり予定を曲げるのはよくない。どうしても見つからなければもう帰ろう。安全第一だからな。

それにしても場所的にはこっちの方がイカルガより数百倍は危険なのに、あっちを心配するというのはただの心配性なのだろうか。




そして北西に向けて飛んでいるのだが、やはり見つからない。下は密林だし……

一人でもアレク並みに魔力が高いメンバーでもいればまだどうにかなるのに。


「ピュイピュイ」


やっぱそう? コーちゃんでも分からない? 慣れ親しんだ相手がいるわけでもないんだもんなぁ。


仕方ない。せっかく来たんだから適当に魔物でも狩っていこう。カムイへのお土産にしてもいいし、資金面での足しにもなる。タイムリミットは一時間だけにしとこう。できれば肉がいいよなぁ。いつだったかフェルナンド先生に食べさせてもらったブラックブラッドブルなんかさ。どこにいるんだろうなぁ。こんな密林の一体どこに牛がいるんだか。他にはタラコッドの新芽が採れる台地もいいけどさすがに遠いしな。一時間では帰ってこれないか。


よし、ここらでいいや。魔法を使って誘き寄せてもいいけど、他の人間が森に入っていることを考えると迷惑行為はやめた方がいいな。実際にはマナー違反でも迷惑行為でも何でもないのだが、私が勝手に気を遣っているだけだ。なんせ知った人たちだからね。


普段なら「お前があんだけの魔物を呼び寄せたせいで大怪我した」「お前のせいで獲物を逃した」なんて言われても「知るかよ」で終わりなんだけどね。

ここにはそんな甘えたことを言う者は一人もいないはずだ。だからこそ、こちらもなるべくイレギュラーなことが起きないように気を遣うというものだ。




さて、ここまでにしておこうか。結局校長たちには出会えなかったなぁ。仕方ない。帰ろう。クワナの件は手紙の届け先に直接行って謝ろう。住所や名前はアレクが覚えてくれているはずだし。たまたま立ち寄ったら届ける程度の約束ではあるが、この期に及んでは訪ねるしかあるまい。まったく……契約魔法を使って約束したわけじゃないし、固い口約束をしたわけでもないのにここまでするとは。私のお人好しぶりはどこまで行くのやら。




倉庫まで戻り、獲物を半分ほどプレゼント。なんせノルドフロンテは我が楽園エデンのお隣さんだからね。仲良くしようね、そしてお互い困った時は助け合おうね、というメッセージだ。


おじいちゃんおばあちゃんにも再び会って別れの挨拶。おまけにイカルガで買ったポーションを半分プレゼント。私はまた買えばいいが、ここでは中々手に入らないだろうからな。おじいちゃんならこれをヒントにさらなる高品質のポーションを作ることもできるだろう。

それから……私たちの旅が終わり、クタナツでアレクとの結婚式を挙げるとき、絶対招待するからね。だからそれまで元気でね。といった話をしておいた。もちろん二人とも大喜び。そんなふうに再会を約束した。




さて、イカルガに戻る前に寄るところがもう二ヶ所ある。


まずはヘルデザ砂漠だ。


『鉄塊』


ヒイズルで売るためにキープしておいた大量の鉄が全てなくなってしまったからな。魔力残量も心配だからそんなにたくさんは作れないが……


およそ二時間で一万トンってところだろうか。失った鉄に比べるとめっちゃ少ない。だがまあこんなところにしておこう。それにしても、やはり鉄塊の魔法を使うならヘルデザ砂漠に限るね。効率が全然違うよ。

一万トンあればだいたい十億ナラーはするそうだし、これだけあればそうそう困ることもないだろう。




さて、次の目的地は……オワダ。

面倒だがあの時のおっさんに会って手紙を再び書いてもらおう。元御三家か……本当に返り咲けるとでも思ってんのかねぇ。こっちは契約魔法を使って約束してるもんなぁ。さすがに破るわけにはいかない。あー面倒……あの時はジュダに会ったら渡せばいいや、ぐらいに考えてたが。




到着。さっきローランドに帰ったと思ったらもうヒイズルにとんぼ返りか。私も忙しないなぁ。さて、あのおっさんだが、名前すら忘れてしまった……

こんな時はもちろんあそこで。


着いた。オワダの老舗、オワダ商会だ。店先には見覚えのある丁稚くんがいる。


「よう。元気かい? 番頭さんいる?」


「はいっ! お待ちください!」


うーんきびきび動くね。相変わらず好感が持てる動きだね。




「魔王様! ようこそお越しくださいました! ささ、どうぞこちらに!」


「やあ番頭さんお久しぶり。それ、似合ってるじゃん。」


残ってたエビルパイソンロードの皮を結婚祝いにプレゼントしたんだったな。和服っぽいヒイズル風の服装ではなく、トラウザーズにウエストコート。つまり私によく似た服装を仕立てたってわけか。


「いやぁありがとうございます。いただいた魔物素材で仕立ててみたのです。せっかくですから魔王様のファッションも真似させていただきまして。そうそう、ポリーヌも喜んでおりました。本当にありがとうございます」


おお、そうだったな。あの姉ちゃんと結婚したんだよな。いつぞやは『ムリーマに沈む夕日が見たい』とか言ってたそうだが、帰らなくてよかったんだろうか。もう帰っても復讐する相手がいないから別にいいってとこなんだろうか。この番頭は結婚相手としてはかなり上等だし、ポリーヌのセンサーがばっちり反応したってところなんだろうな。


「今日来たのは、金を払っておこうと思ったのと、聞きたいことがあってな。」


女衒の奴らもローランドの女を集めてくれてるからな。そいつらからは倍額で買い取る約束だ。いちいち私が金を払ってはいられないからオワダ商会に預けておけば上手くやってくれるだろう。


「ええ、お預かりいたします。ぽつぽつとローランドの方も集まってきておりますよ」


「とりあえず三千万ナラー。ちょっと手持ちが少なくてな。足りない分はきっちり記録しておいてくれ。多少は利子をつけても構わんよ?」


「いえいえ、魔王様に利子をつけるなどど。お気になさらないでください。それからお聞きになりたいこととは?」


名前を忘れてしまったんだが、大丈夫だろうか……

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