1678話 北の街ノルドフロンテ

さて、イカルガを飛び立って西に向かったはいいが、少し困ったことがある。

それはオディ兄から貰った、常にクタナツを指す羅針盤と通常の羅針盤。そのどちらも失くしたことだ。

仕方ないから太陽を頼りにだいたい西に向かっている。たぶん大きく間違ってはいないと思うが……

それにしてもミスリルボードなしで空を飛ぶのって、何だか落ち着かないなぁ。身一つで飛ぶ方が速いことは速いとは思うけどさぁ。




おっ、陸が見えた。どこだろう? 予定ではバンダルゴウに着くはずなんだが……全然違うじゃん。港らしきものが全然見えない。でもまあいっか。陸地を左に見ながら北上すればバンダルゴウに着く、もしすでにバンダルゴウを行き過ぎていたとしてもタティーシャ村なら必ず見つかるはずだ。




見えた! あれは間違いなくタティーシャ村だ。懐かしいなぁ。寄り道したいけど、ここはぐっと我慢だな。ここまで来れば後は楽園までは迷わず行ける。楽園に着けばノルドフロンテにも簡単に行けるしね。




着いた! 楽園の西、ノルドフロンテ。だいたい一年ぶりか。めちゃくちゃ発展してるじゃん。そこまで広くはないけど丈夫そうな城壁ができてるし。半径百メイルぐらいだろうか。その周囲には半径一キロル程度の柵が作られている。その中には様々な建物もできているではないか。さすがに楽園の私んちより立派な建物も城壁もないが、入植からわずか二年でよくここまで仕上げたもんだよな。年寄りが多い街なのにすごいよなぁ。

よし、まずは先王かおじいちゃんを探そうかな。前校長や前組合長にも挨拶しておきたいよなぁ。


まずは城壁上にいきなり着陸。門番はいないが見張りがいるからな。


「ぬっ! 何やつ!?」


「やあこんにちは。魔王ことカース・マーティンです。うちのおじいちゃんか先王様はいる?」


「あ、魔王殿!? ほ、本日は何用で!?」


「用事があるのは実はクワナなんだよね。でもせっかく来たんだから挨拶ぐらいしておこうと思ってさ。」


「そうか。クワナとセキヤ、それからサテュラさんはほんの一ヶ月前ここを出ていった。現国王クレナウッド陛下より直々の手紙が届いたらしくてな」


はぁ!?


「で、どこに行ったかは?」


「分からぬ。あるいは先王様ならばご存知かも知れぬがな」


どっちにしても先王に会うしかないな。つーか国王がクワナに一体どんな用があるってんだ……


「分かった。で、今日は先王様はどちらに?」


「おそらくは北で岩の切り出しをされているはずだ」


「そう、ありがと。ちょっと行ってみるよ。」


北って言われてもなぁ。とりあえず適当に北に向けて飛んでみるけどさあ。まあ岩の切り出しってことは岩山か岩石砂漠を探せばいいんだけどさ。南側なら岩石砂漠はどっさりあるけど、北側にはどうなんだろうね。


よく見ると北側、ノワールフォレストの森がだいぶ切り拓かれてるじゃないか。すごいな。ここら一帯、南のヘルデザ砂漠と北のノワールフォレストの森に挟まれた緩衝地帯『サベージ平原』って東半分は私がゲットしてるからな。なもんだから先王達は北に領土を広げようとしてるってわけか。南は砂漠だしね。

東半分のうちの大半は何もせず遊ばせているだけだが、いずれ私たちの長旅が終われば開発するつもりだしね。私が留守をしてるからって手を出してないのはさすが先王だな。


おっ、あれかな? まあまあ大きな岩山を発見。こりゃあ石切りし放題だね。

おっと先王も発見。降りよう。


「お久しぶりです先王様。お元気そうで何よりです。」


元気すぎだろ。剣で岩を切り出してやがる……総オリハルコンの王剣が泣いてるぞ?


「おお、カースか。しばらく見ぬうちにまた大きくなりおって。しばし待っておれ。もうじき休憩だ。茶でも飲もうぞ。」


「いえ、手伝います。そのサイズで岩を切り出せばいいんですよね?」


「ふふ、相変わらずだな。見せてみるがいい。お前の成長をな。」


見せてやるさ。


水鋸みずのこ


母上みたいに風斬で岩を斬ることはできないけどね。でも、同じサイズに切るならこの魔法が一番なのさ。




「よし。皆の者! 休憩だ!」


石切りをしているのは先王だけではないし、他の者も同じように石切りをしたり、切られた石を運んだりしていた。総勢十五人ぐらいだろうか。


「それにしてもカースよ。どういった風の吹き回しだ?」


「実はですね……」


少し面倒だが、事情を説明しておく。まったく……手紙を届ける約束なんかするんじゃなかったよ。アレクは私の魔力庫を『この世で最も安全』だなんて言ってくれたけどさ。さすがに神には敵わないよなぁ。




「なるほど。お前も難儀な性格をしておるな。そのような約束など知らん顔していればよかろうものを。」


自分でもそう思うけどね。だが、一応は約束したんだから仕方ない。私は約束も守れないクズになんかなりたくないんだ……

そりゃあまあ厳密に言えば約束をしたわけではないけどさ? それでも母親宛の手紙だからな。そりゃあ届けてやりたいさ。


「で、クワナの行き先ですけどご存知ありませんか?」


「いや、知らぬな。クレナウッドからの手紙とは聞いたしクワナの身元も聞いた。何やら重大な事が起きたようではあったが、そのようなことはここノルドフロンテには関係ないことよ。余にできることは快く送り出すのみだ。」


クワナの身元……聞いたのか。


「クワナの身元に関してですけど、実はこっちでは面白いことになってまして。と言いますのが……」


ついでだから土産話がてら私の現状を話しておいた。来週には天王ジュダに会うことだし。




「なるほどな。やはりお前らしく行動しているようだな。迷宮か……一度ぐらい潜ってみたかったものよの。神域……口惜しいものよ。」


「どうも神って性格悪そうですよ。それはそうと、うちのおじいちゃんや校長、組合長は元気にしてますか?」


「うむ。特にドノバンは毎日魔物と戦うことが楽しくて仕方ないようでな。あの歳でますます強くなりおったわ。」


はは……組合長らしいわ。しかし困ったな……クワナは一体どこに行ったんだ……

一ヶ月前にここを出たのなら、あいつらのペースからすれば今頃ローランド王国のどこにいてもおかしくない。

困ったな……どうしよう。


クワナに会えないと手紙を再び書いてもらうことも、約束を断ることもできないじゃないか……

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