1666話 ぬる稽古 カース VS カムイ
さて、わざわざ海岸までやって来たのには理由が二つある。
一つは街中でこんな大量の魔力を垂れ流すわけにはいかなかったからだ。手の内を隠す的な意味で。何か準備してやがる、と警戒されると面白くないからな。
そしてもう一つが……
ふふ、来たな。真夜中だから全然見えないけど、魔力探査に反応がビンビンだ。夜に活性化する魔物もいるもんな。海から魔物がうようよと惹き寄せられている。上陸してくるか?
では、私は宿に帰る。沿岸部がどうなろうと知ったことか。まあここら辺に一般市民なんていないけど。海辺が危ないのはどこの国でも同じだからな。せいぜい赤兜の仕事が増えるってとこか。いざさらば、あでゅー。
あ、ふと気になったが……魔物って肺呼吸かエラ呼吸かの境目がよく分からないんだよな。見た目がいかにも魚っぽい
シーサーペントなんかは蛇っぽいし、深海には棲息してなさそうな気がする。肺呼吸なんだろうか?
そうなると一番気になるのがヒュドラなんだよな。私が知る中で最も手強い海の魔物。
あいつはやっぱり肺呼吸なのかなぁ……でも普段は深海に潜んでそうなイメージもあるんだよなぁ。結局のところ私が『水中気』を使うように魔物も同じことができてもおかしくない、よな?
うーん、魔物は謎だね。
さて、迷わず宿に帰ってこれた。もちろん窓から入る。
「カースおかえり。思ったより早くて嬉しいわ。」
部屋に入ると同時に抱きついてくるアレク。風呂上がりの匂いが堪らないんだよなぁ。スーハースーハー。
「ただいま。疲れたけど上手くいったよ。」
「お疲れ様。それなら明日も大丈夫ね。もう寝る?」
ふふ、アレクったら。ぎらぎらと欲望剥き出しの目で見てくるんだから。このまま寝る気なんか全然ないって顔してるぞ。さっきのあれでは満足できないってか? 明日は大変なことになりそうなのに。悪い子だ。
「いや、まだ寝ないよ。」
「え、カース、あっ……」
素早くアレクの口を塞いだ。どっさり魔力を使ったせいか私だって昂ってるんだからさ。アレクだってケイダスコットンのワンピース一枚で私を待っててくれたんだからな。もちろんその下は一糸纏わぬ白磁。私はもう……止まらないぞ……
〜〜削除しました〜〜
朝か……
いつの間にか寝ていたのかな……
昨夜はすごく燃えた気がする……
隣室ではアーニャが眠っているというのに。
アレクは私の左腕の中でよく眠っている。本当に天使のような寝顔だよな。なんでアレクはこんなにも美しいんだ?
もしもアレクが現代日本に生まれていたなら……国民的美少女なんて器ではおさまらないよな……世界の至宝か。あぁアレク……
「うぅん……」
「おはよ。」
「おはようカース……」
時刻はまだ朝かな。ならば二度寝といきたいが……
ぬっ? アレクが……布団に潜り込み……
〜〜削除しました〜〜
ふぅ……
朝からハッスルしちゃったよ。アレクったら天使みたいな可愛い顔してるくせに……悪い子だぜ。
「カース、今日もかっこいいところを見せてね。」
「うん。任せておいて。赤兜どもの顔色を真っ青にしてやるよ。」
「ふふ、楽しみね。」
「ガウガウ」
おお、カムイ起きたか。何? 終わったらしっかり手洗いしてブラッシングしろって? 心配しなくてもいつものことじゃないか。あ……
そうか……カムイ用のブラシもなくなったのか。
「ガウガウ」
分かったって。終わったら買いに行こうぜ。
くっそぉー、あの神め……あいつにとってはゴミにしかならないであろう物までことごとく奪っていきやがって。
「おっはよー。朝ごはんまだー?」
クロミめ、私たちの部屋にいきなり入ってきやがった。
「おう、おはよ。腹へったのか?」
「おはようクロミ。朝から元気ね。」
「あっ、金ちゃんから幸せの匂いがするし! 朝からずるいしー。それにニンちゃん昨日一緒にお風呂入る約束だったのにー!」
「お前寝てたじゃないかよ。」
私が海から帰ったら自分の部屋に戻って寝てたくせに。部屋割りはドロガーとテンポで一部屋、クロミで一部屋。そしてアーニャを含めた私たち五人で一部屋だ。
「今日のデートは絶対するし!」
「用が終わったらな。それよりドロガーが泣いても知らんぞ?」
カムイのブラシも買いに行くことだし、ちょうどいいかな。
「ふんだ! 別に関係ないし! それよりぃー! ウチお腹すいたし!」
クロミが何を考えてるかさっぱり分からんなー。こりゃあドロガーも苦労するわ。がんばれ。
呼び鈴の魔道具で客室係を呼び、朝食を頼んだ。コーちゃんには朝から酒も頼んである。でも朝からお薬は渡さない。お薬は夜だけにしてもらおう。その方が長く楽しめるだろうからね。いいよねコーちゃん?
「ピュイピュイ」
さて、上品で上質な朝食が済んだ。うまかったわー。朝からハッピー。
迎えが来るのは昼前って話だったから少し体を動かしておこうかな。不動を使って型稽古なんてのもいいな。
「ガウガウ」
おっ、カムイもやるか?
「ガウガウ」
稽古をつけてやるって? お前どこでそんな言葉を覚えたんだよ……
そりゃあ魔法なしだったらお前の圧勝だろうけどさ……
宿の中庭に来てみた。
「いくぞ。」
「ガウ」
まずは型通り。振り下ろし、袈裟、逆袈裟。
突き、斬り上げ、斬り上げからの振り下ろし。
「ガウガウ」
のろすぎるだと? お前が速すぎるんだよ……鼻先にペプレの粉末をぶち込むぞこの野郎。持ってないけど。
「ガウッ」
「くっ、あぶね……」
カムイの頭突きが飛んできた。くらう側からしたらこんなのまるでロケットじゃん……
どうにか不動で防いだが、一メイルは後ずさりさせられてしまった。やばいな……
結局一時間あまり汗を流したのだが、ついにカムイに一撃を入れることすらできなかった。逆にカムイからは何度も頭突きをくらう有様だってのに。まあ牙や爪を使わない程度には手加減されてたんだけどさ。まったく、フェンリル狼ってのは恐ろしい魔物だわ。
あー疲れた。風呂入ろ……
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