1658話 コーネリアスとの友情再び

受付嬢の後ろを歩いて先ほどのギルド内に戻った。


「それではこちら三千と百万ナラーです。お確かめください」


確かめろと言われてもこの中に偽金が混ざってたら私には分からないけどね。金額だけはきっちりあるけどさ。


「問題ない。」


それにしてもこの姉ちゃん。百万ナラーを一存で立て替えることができるとは、ただの受付嬢ではないな。普通こんな時ギルドは関与しないもんだけどな。あー、さっきのあいつの口座に百万以上入ってるってことか? だから気にせず立て替えることができるわけだな。その気になれば口座の全額没収とかしそうだし。


「ところで魔王様。あれだけの素材をどこで手にお入れになったのでしょう? まさかドロガーさんから譲り受けたわけではありませんよね?」


なんだこいつ? 素直に聞けば教えてやるのにさぁ。


「言うと思うか?」


言わないのが普通だしね。冒険者が自分の食い扶持を誰かにバラすような真似をするはずがない。


「魔王様は懐が大きいと聞いておりますが?」


めんどくせぇなぁー。どうして素直にお願いできないかねぇ。私の情報を短期間でそこまで集めたくせにさぁ。


「だったら頭を下げてお願いすればいいだろ。余計な挑発してんじゃないぞ?」


「さようですか。でしたらお願いいたします。あれだけの素材を手に入れた場所をどうかお教えください」


あらら。素直に頭を下げられてしまった。テーブルに額がつきそうなほどに。なら教えてやろう。私ってチョロい。


「まず、人喰岩だがシューホー大魔洞の上だな。あそこは高い岩山になってるよな? その上にたくさんいたぞ。」


「そうですか。ではイワミミタケは?」


「同じくその岩山の側面、岩壁だな。空を飛べば簡単だろうよ。魔物もほとんど現れなかったしな。」


魔物が現れるかどうかは運次第だろうけどさ。


「分かりました。ありがとうございます」


あんまりありがたくなさそうな表情だけどな。つーかこいつ知ってただろ。何らかの確認をするために質問しただけって感じか?

まあいいや。飲もう飲もう。コーちゃんが待ってるからね。




「おうドロガー。待たせたな。」


「おお来たか! 魔王も飲めやぁ!」


「ピュイピュイ」


へー。これが美味しいの? どれどれ。

コーちゃんの飲みかけを一口。

あ、美味しい。香りは控えめかと思わせて、優しく漂う木の香り。おまけに果実の香りもか。甘味だけでなく旨味って言うのかな。その後に苦味がちょいとやって来る感じかな。難しいことは分からないが美味い。コーちゃんが言うだけあるね。例えるなら和歌山の龍神丸って感じだろうか。前世では数回しか飲んだことがないんだよなぁ。


「あ、あの、ドロガーさんから聞いたんすけど……エチゴヤ潰したって本当っすか……?」


見知らぬ若者が話しかけてきた。若者と言っても私より歳上だろうけどね。あれ? そう言えば……


「なあドロガー。俺がエチゴヤ潰した話ってしたっけ?」


「お前の口からぁ聞いてねぇがよぉ。ビレイドやカドーデラから散々聞かされたぜぇ? 女神からもよぉ。」


「ああ、そっか。というわけで謎は解けた。オワダのエチゴヤを潰したのは俺だな。ちなみにこっちのコーちゃんも活躍したぞ。ねー、コーちゃん?」


「ピュイピュイ」


コーちゃんがひと噛みすると相手は発狂してしまうんだから怖いよなぁ。


「マジっすか……エチゴヤを……」

「い、いいんすかドロガーさん……エチゴヤに手ぇ出して……」


「俺の知ったこっちゃねぇよ。つーか俺ぁエチゴヤより魔王の方が怖ぇってんだ。だからさっきも言ったがお前ぇら、ぜってぇ魔王と揉めんじゃねぇぞ?」


「は、はい!」

「お、おっす!」


おお。この二人は素直だね。あ、さっきの奴らが帰ってきたよ。


「ドロガーさん! こいつマジに魔王なんですか!」

「リソンジの奴ぁすぐやられちまったんですよ!」

「何かワケ分かんねぇんすけどリソンジの奴てめぇの足ぃ刺しやがったんですぜ!」


「あぁ? リソンジだけかぁ?」


「は、はぁ……」


「もしかしてリソンジぁ生きてんのかぁ?」


「え、ええ……」


あらら、ドロガーが考え込んでるぞ? あ、酒がなくなった。まあいいや。ドロガーの酒も飲んでしまえ。


「おう魔王。お前手加減したんか?」


「いいや。ただ殺す気はなかったけどな。」


「ったく……女神が甘いって言うだけあんぜ……おうお前ら。こいつぁマジで魔王って呼ばれるだけあんだぜ。俺やキサダーニじゃあ相手にもならねぇ。信じるか?」


普通は信じないものだがね。


「ドロガーさんはそう言いますけど……こんな装備で……」

「魔力もほとんど感じないっすし……」

「マジでキサダーニさんもっすか?」

「ぜってぇドロガーさんの方が強ぇっすよ!」


「おう、チュムザぁ。お前はどう思う? 見たんだろ? リソンジがやられるところをよぉ?」


さっきから知らない名前がちょくちょく出てくるな。全然覚えられないぞ。


「え、はい。見ました……何が起こったのか、分からない間にリソンジの奴が、倒れてました……」


「リソンジぁツイてたぜ? なんせ魔王を相手にして生きてたんだからよ。迷宮内じゃあカチあった赤兜どもは皆殺しだったんだぜ? こいつぁ唯一の生き残りだぁ。」


「なっ!? あ、赤兜を……」

「皆殺しって……ドロガーさんがやったんじゃなくて!?」

「あいつらの鎧を相手にどうやって……」

「そ、そいつ赤兜なんすか!?」


いや、基本的には解呪をすることがメインだったよな。あの時はたまたま悪食関係で赤兜どもが暴走してたから私もムカついて全員を押し流してやったんだっけな。


「ドロガー。俺の話よりさ、こいつらはお前が迷宮でどんな活躍をしたのか知りたいんじゃないのか? 話してやれよ。クロミの素性は伏せてな。」


「お、おお、それもそうだなぁ。おし、お前ら! 夜ぁこれからだからよ! ガンガン飲んで俺の武勇伝を聞かせてやっからよぉ!」


「さすがドロガーさん!」

「聞きたいっすよ!」

「ドロガーさんにかんぱーい!」

「迷宮の踏破者ぁー!」


うん、これでいい。せっかく迷宮を踏破したんだから楽しく飲むべきだよな。ドロガーだって当初はそのつもりだったくせに。変に私をイジろうとするんだから。


さあコーちゃん飲もうねー。もー本当に悲しかったんだからね! もうどこにも行かないでよ?


「ピュイピュイ」


え? またオリハルコンの首輪が欲しい? コーちゃんたらオシャレさんなんだから。うーん……私の分をあげてもいいんだけど……

まあ、迷宮に入らなければ同じことは起こらないだろうけどさぁ。


「ピュイピュイ」


あーもー! そんなつぶらなお目目でお願いしないでよー! もぉー! しょうがないなー!

私がつけてるオリハルコンの指輪をあげるよぉー! コーちゃんたら可愛いすぎるんだから!


点火つけび


まずはめちゃくちゃに加熱して……


金操きんくり


内側から力を加えて少しずつ輪を広げていく。くっ、相変わらずオリハルコンは魔力をガンガン食いやがるな……

くっ、残り魔力が少ないってのに……でもコーちゃんのためなら……


よし! このサイズだ!


水滴みなしずく


先に冷やしておくぞ! でも冷え切るのを待たずにコーちゃんたら頭を突っ込んじゃったよ。せっかちなんだから。


「ピュイーピュイー!」


ふふ、コーちゃんが喜んでる。首にきらりと光るオリハルコン。最高に似合ってるよ。コーちゃんが喜んでくれると私も嬉しいなぁ。うーん泣きそう。


ん? えらい静かじゃん。ドロガーはどうした? 武勇伝を話してガンガン盛り上がれよな。

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