1659話 ギルドの魔王

シーンと静まり返ったギルドの酒場。揃いも揃ってこっち見てんじゃないよ。気持ち悪いなぁ。


「ま、魔王……何やってんだ?」


「ん? コーちゃんがまた首輪が欲しいって言うから加工してたんだよ。これってオリハルコンなんだぜ。」


「お、おお、知ってる……いや、俺が言いてぇのはめちゃくちゃとんでもねぇ魔力が弾けてんからよぉ……」


あー、そっちね。前回はゼマティス家でやったんだが、あの時も結構驚かれたよな。今回はそれ以上か。人生で経験したことのある魔力量の差だろうね。


「どうよこれ。コーちゃんによく似合うだろ?」


「ピュイピュイ」


コーちゃんはご満悦だ。私も嬉しい。


「お、おお、似合ってんぜ……」


「よし、それじゃあ飲みなおしだな。コーちゃんに乾杯!」


「ピュンピュイ」


「か、かんぱい……」


「おいおいドロガーさぁ。ノリが悪いぞ? それに周りだって。黙ってないでガンガン飲もうぜ? 俺らは迷宮を踏破したんだぜ?」


まったくもう。まるで私が場を盛り下げてしまったみたいじゃないか。コーちゃんが欲しいって言うから仕方ないだろ。まったく。あーおいしい。


「どうよお前ら……これがローランドの魔王だぜ……誰のおかげで迷宮を踏破できたか理解したな?」


「は、はいっす……」

「なんすかあのめちゃくちゃな魔力は……」

「天道魔導士にだっていませんよね……」

「まおう……魔王……」


ようやく会話が再開したようだな。もっと盛り上がっていこうぜ?


「どうしたドロガー? それに赤兜も。ガンガン飲もうぜ?」


「おうよ! 今日ぁもう飲むしかねぇぜぇ!」


「ああ……」


だめだな。騒つくだけで盛り上がる気配がない。人数はさっきより増えてるのに。


「そこのお前。」


「は、 はいっす!」


「歌え。楽しい歌をさ。」


やっぱみんなで盛り上がるには歌だよね。酔いが回ったら私も歌おうっと。ギターが欲しいなぁ。


「う、歌います!」


よしよし。多少パワハラ気味な気もするが冒険者とはそんなもんだ。私は気にしない。指名されたあいつは簡易ステージへと歩き、咳払いをひとつ。




『めでためーでーたーあぁのぉー!

ドロガぁさーまーあぁーよぉー!

ほぉら生きてかえってあーら素敵ぃー!

ほぉれ赤くそまった鎧こてぇー!

あさーて道ゆく女もほほそーめるぅー!

よいやさーあーほーれほーれ!

どどんがどん! たーら どどんがどん!

へーいちょちょいのちょい! やーれ ちょちょいのちょい!』


いいねー! のんびりした民謡って感じだけど、不思議とビートを感じる。ノリがいいね!


「よーし合格! これやる!」


チップは一万ナラー。ちょっとやり過ぎだけど構わない。盛り上がっていきたいからね。


「え!? マジすか! あざす!」


「次ぃ! 赤兜いけ!」


「ふっ、いいだろう……」


おっ、こいつ自信ありげじゃん?


『てめぇら! 今夜はこのテンポザ・ゾエマの歌ぁ聴きによく集まってくれたなぁおい!』


うおっ!? ステージに立ったら急に人格が変わった!? まだ日は暮れてないぞ?


『俺の歌を聴けるてめぇらはツイてるぜ! のってるぜ! 最初の曲いくぜゴーゴー! そこにいるローランドの魔王カースに捧げるぜ! 聴け!』


『魔王』


『三百五十年前 ローランドには魔王がいた

三百五十年前 ヒイズルに魔王はいなかった


三百年前 ローランドは一つにまとまった

三百年前 ヒイズルは東西に分かれてた


二百年前 ヒイズルはついに一つになった


そして今 ヒイズルに魔王が現れた

オワダ ヤチロと練り歩き

テンモカ アラキで大暴れ


カゲキョー迷宮は追い出されても

シューホー大魔洞は踏破した


迷宮内をぶっ飛んで

出会った魔物は皆殺し

お宝などには目もくれず

最奥目指して走り続けて


デュラハン オーガは一捻り

レブナント リッチー相手じゃないぜ


おお魔王 お前の往く先に何がある

ああ魔王 お前の往く先に何が待つ


いえーいえー魔王ぉー!

無限の魔力でやっつけろぉー!

いけーいけー魔王ぉー!

どこまでも果てしなくぅー!

魔王いぇーーーい!』




……せっかくいい曲にいい声、そしてまあまあまともな歌詞だったのに……

最後の変なやつでぶち壊しじゃん……

幻想的ないい曲だったのに……なぜか最後だけ古い戦隊ヒーローみたいになったし……

あ、でも会場が盛り上がってるからいいか。


「いい歌だったぞ。」


チップを一万ナラー。


「ああ……」


ステージを降りたらいつも通りになりやがった。


「しゃあねぇなぁ。このドロガー様の美声を聴かせてやるしかねぇぜ。」


あらあら。他に歌いたそうな顔してる奴がたくさんいるのにドロガーったら。


『いくぜてめぇら! 昔を思い出しながら聴いてくれやぁ!』


『血まみれの栄光 ブラッディロワイヤル』




へー。昔のパーティーの曲か。普通にいい曲じゃん。こんないい曲を一体誰が作ったんだ? とてもドロガーとは思えないな。


おおっ!? めちゃくちゃ盛り上がってる!? 総立ち!?


『我らがリーダー!』「ヒロナ! ヒロナ! ヒロナ!」

『魔法が効かねぇ!』「いえっ! キサダーニ!」

『とにかく臭ぇぞ!』「腐敗のクルマキぃー!」

『治癒までできる力持ち!』「いぇやぁ! ゴーソム!」

『頼れるギルドの兄貴分!』「ひゃっはー! 傷裂ドロガー兄貴ぃぃーー!


おお……コールアンドレスポンスか。てことは結構知られた歌なんだな。

あっ、そうなると作ったのは吟遊詩人か。それならいい歌なのも納得だな。きっとこいつらのパーティーの全盛期に作ったんだろうな。五等星なだけあるよなぁ。


いやー盛り上がったね。これは楽しい。やっぱ冒険者が集まるギルドはこうでないとね。


「ピュイピュイ」


コーちゃんもそう思う? ふふ、楽しいねぇ。あー、急にアレクのバイオリンが聴きたくなったぞ……帰ろうかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る