1607話 偲び酒

ドロガーも赤兜も、そして私も朝から酒を飲みまくった。これがやけ酒ってやつなのだろうか……こんなことしてる場合じゃないのに……


「ガウガウ」


なんだ、起きてたのか。カムイも飲むか? でもお前そんなに酒好きじゃないだろ。


「ガウガウ」


この酒からコーちゃんの匂いがするって? あー……そりゃそうだ……コーちゃんたらこの樽の中で直接飲んでたもんな。まったく、コーちゃんたら。


「ガウゥ」


無理するなって。飲めない酒を飲むことはないさ。でも、どうしても飲みたいんならこの一杯でやめとけよな。


「ガウガウ」


そうか……お前も悲しいのか。一杯だけ一緒に飲むか……私もこの一杯でやめておくとするよ。


それもそうだな。飲んだくれたからってコーちゃんが帰ってくるわけでもないし……

私もカムイもさんざん殺したんだ。今さら仲間を殺されたからって悲嘆に暮れるわけにはいかないか……


「ガウガウ」


コーちゃんはきっと生きてるって? そんなこと分かってんだよ。コーちゃんが死ぬものかよ……




ならなぜ、お前はそんなにも悲しんでるんだよ……







「カース、おはよう……」


アレクも目を覚ました。疲れが隠しきれない顔をしてるな。


「おはよ。お風呂入らない?」


「入る……でも、手早くね。」


アーニャがいるもんな。これはある意味子育ての予行みたいなもんか?


『闇雲』……は、なくていいか……あいつらは相当酔っ払ってるし。


何も言わず抱きついてくるアレク。言いたいことは分かってるさ。


「カース……うっうう……ふぐぅうあぁん……コーちゃんが……コーちゃんがあぁぁ……」


「アレク……」


いかん、私まで泣きそうになってしまう……

アレクも寝るまでは気を張ってたんだろうな。それが落ち着いた今、とうとう我慢できなくなって……


「大丈夫だって。考えてみてよ。だってコーちゃんだよ? 大地の精霊なんだよ? カムイだってコーちゃんはきっと生きてるって言ってるし。大丈夫だって。案外迷宮から出たら外で待っててくれてるかもよ?」


そうだよ! カムイが生きてるって言ってんだ! あいつの言うことは私の考えよりよっぽど頼りになるんだ! 間違いない! コーちゃんはきっと生きてるさ!


「そ、そうなのかしら……」


「間違いないって。よし、賭けようよ! もしここを出た後ですぐコーちゃんに会えなかったら、アレクの言うこと何でも聞くよ! でも、コーちゃんに会えたら僕の言うこと何でも聞いてもらうからね?」


「ふふ、そうね。それがいいわ。そうする。賭けるわ。ただし、私はコーちゃんに会える方に賭けるわ。」


「えー? アレクずるいー。でも譲るよ。じゃあコーちゃんに会えたらアレクの勝ちね。」


「ええ。カースに何をお願いするか楽しみだわ。」


「ふふふ、そうだね。きっとアレクの勝ちだね!」


アレクと話してたら何だか本当にそんな気がしてきた。この迷宮を出たら、外でコーちゃんが待ってるんじゃないかって。

きっとそうなる。そうに違いない。よし、元気が出てきた!


ならば!


「アレク! 後で飲もうよ。コーちゃんとの再会の前祝いってことで! ね!?」


「それもそうね。きっとまた会えるわ。それなら前祝いしてもおかしくないものね。それなら私も飲もうかしら。」


よし。アレクが元気になった。やはりアレクはこうでないとな。


「ニンちゃん飲むのー?」


うおっ、びっくりしたなぁもう。クロミの奴、いつの間に。しかもちゃんと全裸になってやがる。すらっとしたいいスタイルしてんな。まあ色気ではアレクにとうてい及ばないがな。


「おう。前祝いで飲むことにした。クロミは朝風呂か?」


「まあねー。ニンちゃんたちの声がしたから少ぉーしサービスしてあげよっかなーと思って。」


ん? サービス? あっちのサービスはいらんぞ。しかし、私やアレクの返事を待つことなくクロミは湯船へと入ってきた。


「そんじゃいっくよー。」


『微水細動』


おっ? おっおっ!? こ、これは!?

水が振動している。ぶるぶると震えている。しかも体にほどよい圧力がかかり……心地よいマッサージではないか。私が『水操』の魔法を使えば再現できそうだが、恐ろしく魔力を食ってしまいそうだ。それを涼しい顔をして行使するとは、クロミの奴やるじゃないか。


「ニンちゃんどおー?」


「あぁあぁあぁーー気持ちいいぃいぃいぃ……」


「金ちゃんはぁ?」


「あばばぁばぁぁあぁぁーーみ、妙な感じぃぃいだけど……気持ちいいわよぉおぉおぉ……」


ふふ、アレクも気持ちいいんだね。つーかクロミったらマジでやるなぁ。あーこりゃ本気で気持ちいい。寝そう……うん、寝よう……






「金ちゃん大丈夫?」


「ええ、私は元気よ……」


「ならいいけどー。」


「それにしても助かったわ。クロミがいなかったら私たち全員死んでたわ。本当にありがとう。」


「別にいいけどー。つーかこれぐらいじゃあニンちゃんへの恩返しには全然足んないしー。」


「カースへ……あぁそういえば言ってたわね。マウントイーターだったかしら。想像もつかないわ。」


「マジ最悪だったしー。ウチらダークエルフの魔法が全部吸収されたしー? ニンちゃんの激ヤバ魔法がなかったらマジ全滅だし。」


「恐ろしい魔物なのね。」


「それにニンちゃんには前の村長を苦しみから解放してもらったしねー。インゲボルグナジャヨランダ村長を……禁術の贄からさ。」


「そうだったわね……本当に恐ろしい毒だったわね……」


「だからまあ最悪? ウチの命で足りる程度ならニンちゃんを助けよーっと思って連れてきてもらったんだけどぉー。来てよかったし。金ちゃん的にはイグドラシルに登るんとどっちが大へーん?」


「そうね……悪食がいないのならイグドラシルの方が大変だけど……あれのことを考えると難しいわね。」


「ふーん。それにしてもさぁー、金ちゃんが羨ましいなぁー。ニンちゃんがベタ惚れだし。さっきの見た? ウチの裸見ておいて何の反応もないし! ヨッちゃんなんか目の色変えてギンギンに見てくるのにさー。」


「カースだし……」


「そうよねー。はぁーあ。どっかにニンちゃんみたいなゲロヤバな魔力持った男っていないんかなぁー。」


「いるわけないでしょ……」


「だよねー……フェアウェル村の化け物ハイエルフより上って……意味分かんないしー。」


アレクサンドリーネも、気だるさに身を任せてそのまま眠りたいと思ったが、アーニャのことが気にかかり風呂から出ていった。湯船には深く眠ったカースとクロミの二人だけ。

果たしてこれはアレクサンドリーネの計らいなのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る