1578話 突入! 地下二十三階!

なんだよ。またデュラハンかよ。でも迷宮のボスってこのパターンだよな。序盤はだいたい五階ごとにボスが変わってる気がする。


「ドロガーやるか?」


「いや、もういい。俺の気持ちは晴れたからよ。それに切り札があんま残ってねーんだ。ったく、俺のボーラごと燃やしやがって……」


あら……そうだっけ?


「はは、悪い悪い。」


「はいはーい! ウチがやるー!」


「いいよ。クロミに任せた。」


じゃあ私たちはミスリルボードに乗って端っこに浮いて見物だ。


「よーし。じゃあ行っくよー!」


氷炎乱舞ひょうえんらんぶ


おっ、これはすごい。右手に炎、左手に氷の魔法か。しかも同時に撃つとはな。

首無し馬は足を凍らされ動けなくなり、馬車は燃え上がる。それでもデュラハンは余裕なのか、ゆっくりと馬車から下りてキモい背骨の鞭を取り出した。二十一階のデュラハンのより少し長いか?


「惜しいねー。長けりゃいいってもんじゃないしー。」


へぇー。風の魔法でしっかり防御してやがる。あの鞭を防ぐとはやるじゃん。おっ、しかもそのまま鞭を操ってデュラハンの足に絡めやがった。さてはドロガーのアイデアをパクったな?


「おいクロミ!」


おっ、まさかデュラハンが大剣をぶん投げてくるとはね。でもクロミの防御は抜けなかった。風に煽られてあらぬ方向へ飛んでしまった。ドロガーも心配性だよなぁ。


「惜っしーい。少し判断が遅かったねー。じゃあ終わりだし。」


氷炎響叉ひょうえんきょうさ


足を止められたデュラハンを左右から挟むように氷と炎が襲う。左半身は凍りつき、右半身は鎧すら真っ赤に。すると……へぇー、真ん中から縦に割れるの? こいつの鎧って結構頑丈そうなのに。原理は分からないけどやるじゃん。


『葉斬』


おー、やっぱ油断してないな。デュラハンめ、真上からちゃっかり首だけでクロミに襲いかかろうとしやがった。あっさりバラバラになって終わったけど。私が言うのも何だけど、クロミも反則だよなぁ。高校野球にメジャーリーガーを連れてきた感じだろうか?


やがて胴体も消滅し、後には剣が残された。


「クロミ、いるか?」


「うーん、まあ呪われてはないしー。お土産にいいかもねー。」


こんなでかい剣を誰が使うのかって話だが、まあクライフトさんが溶かして使うかも知れないしね。


「クロミ……すげえんだな……」


「へっへーん。どうどうヨッちゃん。ウチってかっこいい?」


「ああ……すごかったぜ。そんなお前になら弱いって言われても納得だ。ただ魔力が強いだけじゃねぇんだな。」


そりゃあエルフもダークエルフも超危険な山岳地帯で暮らしてるんだもんな。あそこの雑魚がここのボスぐらいなんじゃないの? アースドラゴンなんか出てきたらどうやって勝てばいいのか分からんぞ。


「へっへー。ヨッちゃんもセンスいいしー。がんばってねー!」


「へへっ。おうよ!」


「よし。それじゃあ二十三階だ。今まではここが最高記録だって言うし、気をつけて行くぞ。」


「ガウガウ」


ふふ、カムイもそろそろ見てるだけでは飽きてきたか。次のボスの相手するか?


「ガウガウ」




そして地下二十三階。当然ながらこれといって変わったところはない。


「ドロガー、何か知ってるか? 今まで二十三階が突破されてない理由。」


「いやぁ知らねぇぜ? つーかそれって迷宮が半封鎖される前、六年以上前の記録だぜ? 今ぁもうちっと行っててもいいんじゃねぇか?」


「なるほど。そんなもんか。言われてみればムラサキメタリックで装備を固めてれば大抵の魔物には勝てるわな。」


デュラハンに負けたバカな奴らもいるけど。


「俺もそう思うぜ。さっきだってボス部屋前にわんさかいやがったじゃねぇか。この迷宮には千人からの赤兜が潜ってるって噂だしよ。最前線はまだまだ奥なんじゃねぇか?」


「それもそうだな。まあ、油断せずにいこうか。」


先頭はクロミが歩いてるから楽だし。


「ニンちゃーん! 先頭変わってー! くさーい!」


あらら……


「分かった。じゃあ適当に周囲の警戒を頼むわ。」


まったく……私だって魔力が結構減ってるのに。あー、ここの魔物はゾンビなのね。スケルトンは全然臭くないけど、ゾンビってかなり臭いんだよなぁ。迷宮の神ってきれい好きじゃないのかよ……自分が汚す分にはいいってか? 納得いかんわぁ……


『火球』


アンデッドは燃やすのが一番。何を落とすか知らんが後続に拾ってもらえばいいさ。私は警戒しつつも先を進むのみだ。つーかクロミみたいにきっちり罠の発見なんかできないし。だからいつも通り氷柱こおりばしらを転がして全ての罠を発動させるのみだ。これはこれで安全なんだよな。一回作動した罠ってしばらく動かないもんな。そこを逆手にとった嫌らしい罠もあるかも知れないが、それはもっと深い階層だろうな。二十台なんてまだまだ浅いはず。そんな所でエゲツない真似はしない……そんな気がしている。


迷宮と言えば宝箱も気になるが、今はそんな時ではない。カムイの指示に従って最短距離でボス部屋を目指すのみだ。おっ、安全地帯発見。ふーん、先客がいるな。赤兜どもが十数人か……無視だな。このまま進もう。安全地帯にいるんならボス部屋の順番待ちに影響はないだろうし。解呪かけてやりたいけど、少しは魔力を温存しないとな。


通り過ぎる私たちをじっと見る赤兜ども。しかし話しかけてはこない。アレクもいるのに意外だな。結局、無事に安全地帯をスルーできてしまった。うーん意外だな。

そろそろ昼食にしたいが……次の安全地帯は……次の階に行かないとないんだろうなぁ。たいてい各階に一ヶ所だもんなぁ……やれやれ。




「ピュイピュイ」


ごめんごめん。お腹すいたんだね。実は私もなんだよな。体感的にはとっくに昼は過ぎてるもんなぁ。さすがの私たちでも安全地帯以外で食事をする気はないぞ。ボス部屋前なら比較的安全だからいいけどさ。あそこだって魔物が出ないわけじゃないしね。

どうしようかな……


よし、決めた。


「みんな集まってー。乗って。一気に行くから。」


「おいおい魔王よぉ。いいんか? と言いたいところだが別に問題ねぇんだろ? さっさと行こうぜ。」


そう。安全を重視してゆっくり進んできたが、罠など全て無視、もしくは防ぎつつ一気に飛ぶ。魔力的には少々きついがその分時間的なメリットは大きい。


「クロミ、周囲に風壁を厚めに頼む。」


「はいはーい。」


私はその内側に自動防御を張っておく。じゃあ行くぜ……


『浮身』

『風操』




ギロチンは、ボードが通り過ぎてから落ちる。

壁から飛び出る槍や矢も同様に全く無意味。

吹き出す毒煙も意味をなしてない。

おまけに落とし穴は、そもそも開きもしない。

神からしてみればこのスピードで迷宮を進む者がいることは想定外だろうな。現れる魔物だってほぼ無視か、せいぜいひき逃げをするぐらいのものだ。赤兜が気付こうが知ったことかと上を飛び越える。こちらを警戒しているようだが、そもそも警戒体制をとる前には過ぎ去ってるっての。無駄無駄。




よし。どうやら無事にボス部屋まで着いたな。ふぅ、気疲れしちゃったよ。迷宮内を飛ぶ時に一番怖いのは、壁に正面衝突することだからな。相変わらず私のボード操作は冴えてるぜ。


さて、ボス待ちは……一組か。

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