1577話 赤兜を駆逐せよ

ドロガーと手分けして四人の赤兜からムラサキメタリックを脱がせる。これがまた脱がせにくいんだよなぁ……めんどいわぁもー。


「おい……クロミがやけに遅くねぇか?」


「まだ五分も経ってねーよ。大人しく待ってろって。あいつは弱くないんだからさ。」


「そりゃあそうだけどよぉ……でもいくらあいつの魔力がバカ高くてもよぉ……ムラサキにぁ魔法がちっとも効かねぇんだぜ? いや、魔王は別としてよ……」


「心配なら見に行ってもいいぞ? 案外喜ばれるかも知んねーし。」


「そ、そうだよな! ちっと行ってくらぁ!」


ところが残念。


「ニンちゃーん。終わったよー。」


知ってる。クロミほどの魔力があれば簡単に感知できるっての。


「おおクロミ! 大丈夫だったか! 怪我はないのか!」


「もぉーヨッちゃんたらぁ。ウチがあんな人間に負けるわけないし。」


マジでクロミは正体を隠す気ないのか?


「お疲れだったな。赤兜はどうした? 見たところ手ぶらみたいだが。」


ドロガーは気付いてもないし。


「ほらぁ、さっきいくつか落とし穴があったしー? あそこに落ちたよ?」


「落ちた? クロミが落としたんじゃなくて落ちたのか?」


気になる言い回しをするじゃないか。


「そうだよー? だってウチが攻撃しても全然効かないし。人間ってあんなの作らせたらすごいんだねー。あれならマウントイーターにも勝てるくない?」


「勝てるかもな。相性良すぎだよな。で、なぜ赤兜は落とし穴に落ちたんだ? さすがにそんな間抜けには見えなかったが。」


「簡単だよー。穴が開いてるのに開いてないように幻覚を見せただけー。あの鎧を着てたら魔法も使えないんじゃんね? だからウチの幻術も見破れるはずないしー。」


はぁー……なるほどな。こりゃ恐れ入ったわ。確かに幻術は体に攻撃するわけじゃないから本人が自力で看破しないと見破れないわなぁ……

だが、ムラサキメタリックの鎧を纏っている間は魔法が使えない。目と口の部分は空いてるからその気になれば使えるだろうけど、それってかなりの難題だよな。正直なところ私クラスの魔力制御ができないと無理だろ。


「ちなみに落とし穴の下はどうなってた?」


落とし穴はいくつかあったもんな。どれに落ちたんだろう……


「うーん、水しか見えなかったよ?」


「あー、分かった。じゃあもう死んでるな。フタだって閉まっただろ?」


「うん。一応上がってこないか見てたけど、全然だったし。」


そりゃそうだ。とっさに換装で鎧を脱げれば生き残れただろうが、急に、しかも魔法の使いにくい水中でそれができる者が何人いることやら。あーあ可哀想に。ジュダみたいなクソ王に従ったばっかりにねー。騎士らしい生き方もできず、騎士らしい死に方もできなかったね。

あいつの仇は私がとってやるからな。おのれジュダめ。


「さてクロミ。ついでで悪いがこっちの三人を診てくれないか。こいつらにも解呪が効かなかったんだよ。何か原因でもあるもんかな。」


「えー……全然分かんないしー。でもやっぱキモいしー。うーん、上手く言えなーい……」


クロミが分からないものが私に分かるわけないよな。


「うーん、例えばさぁーニンちゃんの魔力って量はめちゃくちゃあるけど流れがめっちゃ美しいのね。透き通っててさー、もう流れてるのか流れてないのかも分からないぐらい。でもこいつらって何と言うか……無理矢理ねじ曲げた感じ? なーんか流れが変でキモいんだよねー。」


おお、嬉しいこと言ってくれるじゃん。やっぱこいつ分かってんな。でもやっぱり分からない。何なんだこの赤兜どもは……

一応他の奴からも話を聞いてみるかな……


「アレク、悪いけど赤い鎧の奴を一人起こしてくれない?」


「いいわよ。」


『覚醒』


「ううっ……何……だぁ……」


「よう、大丈夫か? 酷い目にあったなぁ。ほれ、まあこれでも飲んで落ち着けよ。」


「お、おお……ぷはぁ……悪くねぇな」


「いい飲みっぷりだ。いける口だな。ほれほれ、もっと飲め飲め。」


「お、おお……?」


解呪された上に気絶から覚めたばかりで頭が全然追いついてないな。そこに酒なんか飲ませたら、もう頭など回るまい。


「そういえばさ。聞きたいことがあるんだよな。正直に教えてくれたらあの女がいいことしてくれるぜ? 約束する。どうだい? ほれほれ、もっと飲め。」


「お、おおっあっぽにっ?」


ふふふ。いとも簡単にかけてやった。では質問。


「そこに寝てる三人がいるよな。あいつらって何者?」


「そんなもん隊長に決まってんだろ」


そんなことぐらい分かってんだよ。第何隊隊長とかって言ってたもんな。


「お前らは下っ端だよな? 隊長とは何が違う?」


「何がってそりゃあ生まれも育ちも違うけどよ」


だめだな。肝心の質問がまとまってないからな。


「何か変な儀式とか受けたっぽくなーい? そんなの心当たりないのー?」


おお、やるなクロミ。いい質問だ。


「さ、さあ……俺らは受けた覚えはないが……」


うーん、何を聞こう……


「お前は御目見おめみえか?」


「い、いや、天王陛下にお会いしたことはない」


確かジュダの野郎は会わなくても洗脳魔法をかけられるんだったな。


「隊長たちは?」


「きっと御目見だと思う」


うーん、やっぱり分からん。分からんが、きっとジュダに何かされたんだろう。そういうことにしておいて間違いないよな。私にも解呪できず、ダークエルフにすら発見できない何かを。そうやって警戒しておけば、いざあいつに会った時の用心にいいだろう。


「お前、今から何したい?」


「あ……何……酒が飲みたい……さっさとこんな所から出て、娼館に行きたい」


うん。間違いなくこいつは解呪できてるな。

後は生き残った三人の隊長だが……よし。怨みはないが死んでもらおう。どうせジュダに心酔してそうだから生かしておいても邪魔になるだけと見た。もっとも武器と鎧を奪った上に部下はもう言うことを聞かない。放っておいても死にそうだけどね。

それはそれで可哀想だから『風斬』

首を刎ねた。お前らの仇は私がとる。ジュダに人生を弄ばれたお前らの。


「なっ!? なんで……」


「お前はそんなこと考えなくていいんだよ。仲間と協力して生きてここを出るんだろ?」


「あ、そ、そうだな……」


「じゃあ元気でな。この酒は置いてくから、仲間が起きたら飲ませてやれ。そして外に出たら自由に生きるといい。」


「お、おお、ありがとよ……」


「クロミ、こいつの頭をよしよししてやってくれ。」


「えー……まぁいいけどぉ……」


「なんっ、お、おお……」


はい、いいこと終わり。初めてダークエルフの美女に頭を撫でられたヒイズル人の称号ゲットだぜ。よかったな。おっさんのくせにまんざらでもない顔しやがって。


さてと。ようやくボス部屋が開くようになった。ここのボスは何だろうね。

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