1574話 女騎士キサラと隊長
それからどうにか錯乱を抑えこんだ女騎士と不自然な雑談をしながら湯に浸かること十五分。他の赤兜が目を覚ましたようだ。
「ん? はぁ!? ふ、風呂ですか!?」
「そうだ。風呂だ。お前も入りたければ心を落ち着かせてあるがままを受け入れるといい。」
この女騎士は何言ってんだ? 意味が分からん。だが誘う手間が省けた。私が言うより効果的だろうしね。
「えっ、えっ!? い、いいんですか!? 入っちゃいますよ!?」
「入りたければ入るがいい。こちらの冒険者は気前がいいようだからな。」
「おう。入っていいぞ。」
疲れた体に暖かいお湯はたまらんだろうさ。
「じゃ、じゃあ、遠慮なく……」
『解呪』
信じられないほどチョロい。
「今の魔法は何だ? もしかして先ほど私にも使ったのか?」
さすがに目の前で使えば気づくわな。
「見ての通り『解呪』の魔法だ。お前ら赤兜は大半がジュダに洗脳されてるみたいだからな。親切にも解いてやってんだよ。」
「なっ!? そんなバカな! 天王陛下がなぜそのようなことを!」
「じゃあお前ら何のために迷宮なんか潜ってんだ? それって民を守る誇り高い騎士の仕事か?」
「そ、それは……確かに……なぜだ……」
「理由なんか知らないがね。要はジュダはろくな王じゃないってことだろ。早く何とかしないとヒイズルの命脈が尽きても知らんぞ?」
だいたい他国からの流れ者が真っ当な手段で国王なんかになれるわけないだろ。どうせ洗脳しまくってるんだろうさ。どんだけの魔力なのか気になりはするが、私の敵ではない。少なくとも魔力量的には……
「むぐぅ……ならば貴様は他の者の洗脳も解いてくれると言うのか?」
「いいぞ。何なら寝ている間にさっさと済ませてやろうか?」
「頼めるか……」
そろそろ朝食もできる頃だろうしね。まさしく朝飯前だ。それにしてもこの女騎士って単純でいいなぁ。仲間の寝込みを襲うって言ってるのに、頼むときたもんだ。まあいきなり洗脳が解けたんだし、混乱してないわけないもんな。
「いいぞ。ただしお前には先に行ってテントを開けてもらうぞ?」
「ああ、それぐらいやろう……」
ボロそうなテントだが、罠でもあると面倒だからね。
「あれ? もう上がっちゃうんですかぁ? せっかく先輩と一緒にお風呂に入れたのにぃ……」
こいつはこいつで洗脳明けで頭が動いてないようだな。せいぜいのんびり湯に浸かっておくといい。
「少し出るだけだ。また入る。こっちを見るな!」
「はっ、はひっ! ごめんなさい!」
後輩は辛いね。
『乾燥』
「ほら、これでも羽織ってな。」
「こ、これは……」
サウザンドミヅチのコートだよ。風呂上がりに着るようなもんじゃないけど、バスローブなんて持ってないもんなぁ。あ、バスローブで思い出した。テンモカで浴衣の注文出してなかったっけ? しまったな。すっかり忘れてた。まあいいや。また取りに行こう。
「ほれ、ゆっくり開けな。」
「あ、ああ……」
魔法的な罠はない。物理的な罠も……ないようだな。では遠慮なく……『解呪』
よし、ばっちり効い……ちっ『氷壁』いきなり斬りかかってきやがった。私の氷壁を一撃で斬り裂くとはな……
「どういうつもりだ? 裏切ったのかキサラ! 答えろ!」
こいつは隊長だったか。こいつにだけは解呪が効いていない。なぜだ……
「隊長! 聞いてくれ! 私たちは騙されていたんだ! よりによって天王陛下に!」
洗脳と騙すのは違う気もするが、まあ似たようなもんかな。
「今使った魔法は『解呪』だぞ? 常人に使ったところで何の悪影響もない。呪われている者に使ってこそ意味のある魔法だ。現にお前以外の全員にはきっちり効いたぞ?」
「そのような世迷言を信じると思うか? 怪しげな魔法で我らを誑かしてないとどうして言える! 特にそこのキサラは騙されやすいお人好しだからな!」
それはそうだな。口車がよく効いた気がする。
「ところでお前に解呪が効かなかった理由が知りたい。魔法防御の魔道具で防いだわけでもなかっただろ?」
「言うと思うか? そもそも偉大なる天王陛下が洗脳などと我々騎士の忠誠を疑うような真似をなされるはずがない。故に我らは洗脳などされていない。必然的に解呪など効くはずがないのだ!」
言ってんじゃん。でもなるほど。それは盲点だったな。こいつだけ洗脳されてないってパターンか。いや、違うな。洗脳しようとしたけど効かなかったのか? なぜか忠誠心マックスだったから? たぶん仕事をサボれとか、忠誠を尽くすな、とかなら効いたんだろうな。変な奴もいるもんだなぁ。
「よく分かった。お前がそう思うんならそれでいい。だが他の奴は別だ。民を守るべき騎士がこんな所でお宝探しか? そんなことに付き合わせてんじゃねぇよ。」
「問答無用! 何の魔法を使ったかは知らんが解かぬならば斬り捨てるのみ! さあどうする!」
やだやだ。朝っぱらからムラサキメタリックを相手にするなんて。こいつったら目覚めた瞬間に換装使いやがったし。そりゃあ私の氷壁でも一撃だよな。
「お前こそ大人しくもう一度解呪を受けるなら身の安全は保障するぞ?」
「笑わせるな! いくら傷裂ドロガーのパーティーメンバーだろうが貴様ごときふざけた服装のガキに何ができる!」
風呂上がりなんだからパンツ一丁だ。上半身は裸のまま。この後また風呂に入るつもりなんだからさ。
「キサラもキサラだ! 何だその上等な服装は! 清貧たる騎士の教えはどうした! まさかその程度のことで買収されたとでも言うのっ『紫弾』かっおごっ……」
めちゃくちゃ魔力は食うけど、面倒だから一撃で終わらせた。心臓をぶち抜いたことだし放っておけば死ぬ。
「隊長……まさか……そんな……」
「助けたいんなら鎧を全部脱がせてやれよ。今ならまだ間に合うぞ?」
「ほんとか! 分かった! た、頼む! どうか命だけは!」
この女がお人好しってのは本当か。この隊長が生きてたら邪魔だろうに。
『…………』
「ど、どうだ! 全部脱がせたぞ!」
「いいだろう。それじゃあクロミ、後は頼むわ。」
「はーい。もーニンちゃんたらいきなりなんだからさー。もっと朝らしい起こし方がよかったし!」
朝らしい起こし方って何だよ。
「ポーション出せよ。こいつ治癒魔法の腕はそんなに良くないぞ?」
私は出さないからな。
「あ、ああ! こっ、これを使ってくれ!」
「はいよー。まあ何とかなるんじゃん? あっれぇ? 何こいつ? 魔力の流れが超変だし!」
超変?
「どういうことだ?」
「なんかさー。キモいんだよね。とにかく変!」
そんな説明で理解できるわけないだろ……
「まあいいや。それは後で。治らないなら治らないで構わんから適当にやってくれ。」
「はーい。まあ穴さえ塞げばいいしー。ウチでもギリギリできるかなー。」
「頼む! どうか、どうか隊長を……」
後は任せよっと。私は風呂に戻るからな。
魔力の流れがキモくて変とは……解呪が効かない相手なだけに気になるところだな。せっかく命拾いしたことだし、もう少し詳しく知りたい気もするが……
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