1534話 男の事情

適当な部屋に入ってみる。埃くせえなぁ……『浄化』よし。


「ここならいいだろ。お前の名前、出身はどこだ?」


「ピエモンタン・ド・デルヌモンテ……バンダルゴウ出身だ……」


やっぱりな。こいつローランドの者か。しかも……バンダルゴウの貴族、デルヌモンテ伯爵家かよ。


「デルヌモンテだと? あそこの家には息子がいないって聞いてたが?」


だからエルネスト君を跡取りにしたいって言ってなかったっけ。あそこのおばさん、サリーヌ夫人だったっけな。エルネスト君が毒婦に食い物にされるのが辛いとか言ってたけど。毒婦、イボンヌ・ド・クールセルちゃんか……あの子って上級貴族大好きっ娘だもんなぁ。


「俺は……現当主、プローニュ兄上の末弟だ……」


あー、なるほどね。言われてみれば、あのおばさんの息子にしては歳が上すぎるもんな。


「それがなぜこんな所にいる? わざわざエチゴヤなんて闇ギルドに入ってんだ?」


「…………」


あーもー! 面倒くせぇ奴だなぁ!


「喋りたくないんならいいわ。で、どうすんだ? バンダルゴウには帰りたいのか?」


「まだ、帰れない……」


「だーかーら! それなら事情を言え! 俺はヒイズルにいる全てのローランド人を助けようとしてこんな面倒なことやってんだからよ!」


「なっ! なんだと!? お前はつ、蔓喰のボスじゃないのか!? あの人斬りカドーデラが魔王って呼ぶぐらいなのに……」


あー、なるほど! こいつの中での真人間の条件ってのは蔓喰やエチゴヤのような闇ギルドに協力しないことなのか。面倒くせっ『解呪』


「蔓喰の会長はヨーコちゃんだろうが。もういいから好きに話せ。場合によっては助けてやるよ。」


「あ、ああ……実は……」


はぁ。やっと口が滑らかになった。


十歳ほども歳下の女の子に惚れたのが五年前。でもその子は平民なのに一向に靡いてくれない。心に誓った男がいるとかで。

そんなある日、その子がバンダルゴウから消えた。旅に出る予定なんて聞いてないし、そもそも城門を通過した形跡もない。そのため誘拐を疑って調べを進めたところ、バンダルゴウの闇ギルド経由でエチゴヤに売り払われたことが判明した。それからシーカンバーの船に単身でどうにか乗り込んでヒイズルに渡ってきたが、オワダでエチゴヤと一悶着あって囚われの身となった。

その後、高い魔力があるために契約魔法をかけられてエチゴヤの手先となるも、どうにかその子の行方だけは調べあげた。

かなりの美貌のため最初は天都イカルガに運ばれたそうだが、なぜか南のトツカワムへ。こいつが気付いた時にはアラキ島にまで流されてたと。それがまさかアラナカどころか最底辺のアラニシにまで追いやられているとは予想もできなかったのね。それでも、女を追いかけてアラニシの担当にしてもらうことぐらいはできた。できたが、契約魔法がきっちり効いているため救出の動きをすることができない。その子に会うことぐらいはできるが、もうとっくに正気を失くしていると……


「じゃあその女と一緒にバンダルゴウに帰るか?」


「い、いいのか!? お、俺はあいつのために、エチゴヤなんかに……」


「ああ。ついでにこの島のローランド人全員の引率しろ。バンダルゴウに着いたら解散でいいからさ。」


「す、すまない! 任せてくれ! この礼はバンダルゴウに着いたらきっとする!」


「いや、別にいい。エルネスト君によろしく言っておいてくれ。」


「ん? エルネスト? もしかしてエルネスト・ド・デュボアか? 義姉上が可愛がっている……甥の……」


「ああ、そのエルネスト君だ。クタナツ初等学校の同級生なもんでな。」


「そうか……そんな歳でここまでのことを……すまない、名前を聞かせてもらっていいか?」


そういえば言ってなかったっけ?


「カース・マーティン。聖女イザベルと好色騎士アランの三男……って言って分かるか?」


魔王って言っても知らないだろうしなぁ……


「なんと……そうだったのか……どちらにもお会いしたことなどないが、王国全土に名前は轟いているからな……」


「じゃあ、とりあえずその女がいる所に案内してもらおうか。」


「ああ……頼む……」


頼まれてもなぁ……すでに正気を失ってるんなら高級ポーションでも効かないんだろうしなぁ……


「それよりなぜ天都からここまで流れてきたんだ? エチゴヤなら役に立たない女なんてすぐ殺しそうなもんだが?」


それに契約魔法だって使えばいいだろうに。


「ああ……あいつは殺すには惜しいんだろう。少なくともバンダルゴウの同年代では最も美しかった。それになぜか契約魔法が効かなかったそうだ。魔力は低いんだがな……」


「ふーん……そんなこともあるんだな。」


魔力が低いのに魔法が効かない……

全く意味が分からん。契約魔法ならば先に何らかの契約魔法がかかってれば効かないことはあるが、それをエチゴヤの奴らが気付かないはずがないし……

まあいい。何ならひと思いに殺してやってもいいが……もしくは母上宛に紹介状でも書いてやるか……私には無理でも母上ならどうにかなるかも知れないしね。

まあいいや。見るだけ見てみよう。その頃にはアレクの料理もできているよな。考えたら腹がへってきたよ。

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