1530話 困ってしまったビレイド
アレクとコーちゃん、カムイの四人で晩飯を食べていたらドロガーがやってきた。
「ローランドのモン、五人ほどいたぜ。それより今夜も酒なしかよ?」
「おお、すまんな。助かるわ。酒は明日まで我慢しな。明日で終わるからよ。ちょうどアラニシにはたくさんありそうだしな。」
すでに私の魔力庫にも大量に入ってるけどさ。そういや酒蔵らしい建物を見てないな。原材料の生産から醸造まで全部アラニシでやってんのかな。で、アラナカではそんな酒や人間を右から左に流すことで上がりを抜いてんだろうね。いい商売してるなぁ。いや、いい商売してるのはエチゴヤか。元々何もなかった島を開拓してここまで仕上げたのは蔓喰だもんな。
「まあいいぜ。明日もたっぷり暴れさせてもらうとするぜ。」
「おう。どうよ、おもしれぇ遊びだろ?」
「けっ、違ぇねぇぜ。まったく、魔王は悪い奴だぜ。」
嘘はついてないもんな。
「魔王さぁん……」
おや、カドーデラまでやってきたではないか。
「おう、調子はどうだ?」
「参りやしたぜ……もう少しエチゴヤの奴らぁ生かしておくべきでした……いや、あっしぁいいんですよ。ビレイドの奴がどうにも困ってやしてね……」
「ビレイドが? 何に困ってんだ?」
「いやそれがですね? 何やら帳簿を漁ってたんですが、何ですかね? 裏帳簿が見つからねぇんだそうで。金の流れを追っかけるにゃあどうしても必要なんだそうで。魔王さんのお知恵でどうにか解決しちゃあいただけやせんか?」
裏帳簿? ここの奴らってそんなに頭がまわる奴らか? それにゴンズの例もあるしなぁ。
「そもそも裏帳簿なんて存在すんのか? ゴンズだって契約魔法かけられてたんだし、ここの幹部連中もどうせ契約魔法かけられてたんだろ? だったら裏帳簿なんぞ作って第四番頭を出し抜くような真似はできないんじゃないか?」
「そりゃあそうですが……ここにいるのぁエチゴヤの外道どもですぜ? 絶対抜け道ぃ作って番頭に内緒で金ぇ抜いてるに決まってまさぁ。魔王さんならどうしやす?」
私は外道じゃねーよ!
「知るかよ。契約魔法かけられたんなら破るだけだろ。で、番頭に会う時があるんなら適当にしょぼい契約魔法でもかけてゴマかすんじゃねーの?」
ここの奴らが外道なら第四番頭は腐れ外道だろ。手下どもの動きなんかお見通しだろうよ。
「なるほど……その線はありやすね……」
ねーよ!
「そもそも! 裏帳簿なんてやべぇもんは魔力庫に収納しとくだろ。で、ゼリアテが死んだもんだから中身ごと消滅したんじゃないのか?」
「まあ、普通そうでやしょうねぇ……」
分かってんなら聞くなよ。私ですら分かることなんだからさぁ。
「ここの町長はいないのか? 本部事務所とは別に町長府みたいな建物もあっただろ?」
「いや、それがですね……」
カドーデラの野郎……本部事務所の一室、ゼリアテの執務室にいた偉そうな男を……態度がムカついたから斬ったと。まあそれはいい、いいんだが……ろくに情報も吐かせなかったのね。それが後になって町長と知ったと……
「だめかこりゃ。仕方ないからビレイドに頑張ってもらえ。ないと分かったからには一から作るしかないだろ。とりあえず今ある現金は好きにしていいぞ。もっとも、奴隷でない人足や船乗りに支払う金を忘れるなよ?」
そんなの私が言うことではないけどね。
「あー……ビレイドがどうにかしまさぁ……」
こいつ、頭いいフリして数字が苦手なパターンか! あれこれと物知りな空気を匂わせてやがったくせに! まあ人斬りだもんなぁ……仕方ないか。
「バカばっかじゃねぇか! ちっと行ってくらぁ!」
おお? ドロガーが? こいつは冒険者のくせに数字に強いとでもいうのか? まあどうでもいいけどね。それより私達は腹も膨れたことだし、風呂かな。
「ここの奴らで風呂に入りたい奴がいたら呼んでやりな。後でお前も入っていいぞ。」
「へいっ! ありがたくいただきやす!」
ではマギトレントの湯船をどーん。周囲はすでに暗いけど一応『闇雲』
『換装』で服を脱ぎ、湯船にどぼーん。『無痛狂心』を解除しても、ようやく痛みが薄れてきたんだよな。はぁーいい湯だね。あははん。
「カース、今日もローランドの国民を救出したのね。偉いわ。」
アレクはいつものポジション。私の左側にピタッと寄り添っている。
「へへ、そう?」
「ええ。まさにローランド貴族の鑑よ。本当に素敵。この旅の間中、惚れ直してばかり。カースは本当に凄いわ。」
ぬふぅー! アレクにこう言われると一気に嬉しくなっちゃうね。やっぱ人助けってするもんだよな。私の身分はとっくに平民だが、母上だって言ってたもんな。心まで平民に落ちてはいけないって。地味に酷い言い草じゃない? でも母上が言うことだから正しいに違いない。つまり私の心は貴族なのか? 私って偉いねぇー。
よぉーし、この調子で明日はアラニシを制圧するぜ。あそこに一番たくさんローランド人がいそうだもんな。ゼリアテがくっそムカつくことを言ってたし……
よーし、明日もエチゴヤの奴らを全滅だ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます