1528話 アラナカの暴徒

「終わりやしたぜ。」


「ご苦労。」


さすがに私より手際がいいな。さらっと鎧を脱がせやがった。カドーデラのくせに生意気な。でも気にせず収容しよ。おっと、約束だから剣だけはカドーデラにプレゼントっと。


「ところでお前って剣と刀、どっちが得意なんだ?」


「考えたこともありませんや。前の愛刀はカネサダってぇ刀だったんですがね。その前はカーマインってぇ剣でしたからねぇ。人ぉ斬れれば何でもいいんでさぁ。」


「ふーん。ならこれを使って二刀流でもやってみるか?」


いや、剣刀流か?


「へへっ、面白そうでやすねぇ。いっちょやってみやすか。ありがたくいただきやす!」


剣も刀もムラサキメタリックだからカドーデラにしてみれば荷物が増えるんだよな。でもこの剣ってロングソードだよな? いくらカドーデラでも片手で振り回すのは大変そうだが……まいっか。私が心配することじゃない。


「よし、いったん外に出ようぜ。アレクと合流して軽く打ち合わせするか。あれ、ビレイドは?」


「ああ、あいつならゼリアテの執務室を探ってやす。あの野郎はどうやら留守だったみてぇで。」


「あー、悪いな。ゼリアテなら死んだぞ。そこら辺の打ち合わせもいるな。」


「さすが魔王さん。仕事が早ぇですぜ。」


たまたま居ただけなんだけどね。それにしても胸糞悪い野郎だったな。エチゴヤらしいけど……


事務所内の死体を外に放り投げながら外へと向かう。私達が外へ出るとアレクも上空から降りてきた。


「上から見える範囲では異変なしだったわ。」


「うん、ありがとね。」


アレクを交えて情報交換タイム。





ふーん、なるほどね。ここの奴らは昼間はあまり警戒してなかったのか。言われてみれば真っ昼間から蔓喰つるばみの集団が攻めてきたらすぐ発見できるだろうし、そもそも来るなんて思ってもなかっただろうな。来るなら夜襲と決めつけて、夜間の警備を厳重にしてたのね。終わってみれば笑い話だな。


「とまぁそんなわけでさぁ。青紫烈隊バイオレッタも五人ぐれぇしかいねぇそうですぜ。おっと、残り三人ですかい。しかも深紫ディパープルはいねぇようで。」


「マジで少ないな。こいつら守る気あんのかね。何考えてんだか。」


「ちいっと前まではもう五倍はいたそうなんですがね? ヒイズル本土でゴタゴタがあってそっちに回されたそうですぜ? つまり残ってんのは使えねぇと見なされた奴みてぇでさぁ。」


さっきの奴は正統派剣術使ってたっぽいのに……そんな奴が使えないと見なされたのか? あ、分かった。きっと頑固であんまり上の言うこと聞かないタイプだったんだろ。あの手の剣術を使う奴って頑固そうだもんな。うーん、酷い偏見だぜ。


「へー。ゴタゴタねぇ……」


あ、私達が暴れたからか? オワダなんて全滅させたんだし。実際にはバンダルゴウに行かせたんだが、エチゴヤからすれば全滅と変わらないもんな。


「それより魔王さんこそ、娼館の女主人にローランド人を差し出させるとはいい手を思いついたもんでやすねぇ。」


「もちろん他にも探すけどな。とりあえずこいつの身柄は任せる。生き残ってる青紫烈隊を除けばこいつが数少ない幹部っぽいからな。」


ラセツドリを召喚してやがった奴だ。


「へい! お任せくだせぇ!」


「アレク、そいつを起こしてくれる?」


「ええ、いいわよ。」


『覚醒』


「う……うぅ……」


「じゃあカドーデラ、後は任せる。おっとそうそう、これも使うといい。」


ゼリアテの生首。こんなもんいつまでも魔力庫に入れていたくないからな。拷問の手間が省けるかもね。


「へいっ! ありがとうごぜぇやす!」


大まかな打ち合わせは終わった。次に落ち合うのは夕食時だ。カドーデラ達は今から大忙しだよな。あいつから情報を吐かせて、人足や下っ端の取りまとめなんかもして、あれこれと書類も探らないといけないだろうな。頑張って欲しいものだ。私は絶対手伝わないぞ。


さて、さっきのおばさんの店に戻ってみよう。あそこで待ってりゃおばさんもドロガーも戻ってくるだろ。




あら、店の前がごった返しているじゃないか。いや違うな。この店だけじゃない。この歓楽街全体で何やら騒ぎになってるのか。ついさっきまで落ち着いてたかと思えば。


「どけぇーー!」

「殺すぞ! セリカは俺んだぁ!」

「ざけんな! 俺が先だ!」

「邪魔だ! 俺ぁマキナだぁ!」

「どけどけどけぇーー!」


うーん、何事かさっぱり分からん。ただの暴徒か? 分からんが建物が打ち壊されるのは忍びない。ここだって取り返した後は蔓喰の財源になるんだろうからね。


「アレク、消音使っておいてね。」


「いいわよ。」


よし。ではいくぜ。


『黙れ!』


魔力特盛で拡声を使ってやった。至近距離だったら鼓膜なんて簡単に破れるだろうな。


よーし、静かになった。


『建物を傷つけやがったら殺すぞ。何が目的か言え。まずはそこのお前。』


手前の男に指を差す。


「あ? てめぇなんぞに関係な『狙撃』ぃぃきいっ!?」


さすがに殺してはない。肩を撃ち抜いただけ。


『訂正だ。質問に答えなくても殺す。そいつが生きてるのは初回サービスだ。よかったな。ではそっちのお前。何が目的で暴れてるんだ?』


「ひっ、お、俺!?」


『風斬』


頭頂部を軽く切った。河童ハゲのできあがりかな。


『お前しかいねぇだろうが。さっさと言え。』


こんなに大きな声で喋ってるのに。頭の悪い奴だなぁ。


「お、俺はただ、エチゴヤの奴らが片っ端から死んでるから、そ、その、女を……」


『女を助けようとしたのか? 囚われの身である女たちをか?』


「そ、そうだ! 哀れな女を助けてやりたかったんだ!」


『金操』


「あぎゃぎょぎゃああああーーーー!」


『嘘をついても殺すぞ。ちなみに今のは髪の毛を半分ほど抜いただけだがな。だがよく分かった。お前らエチゴヤが潰れそうだってんで女を狙ったな? 今なら好き放題できると思ったな?』


お、全員黙り込んだ。やっぱそうか。何が哀れな女を助けるだバカが。まったくタチの悪い火事場泥棒だな。


『今日からこのアラキ島は蔓喰が仕切る! 文句がある奴ぁ言え! 人斬りカドーデラも来てるからよ! ここの女に手ぇ出したら殺すぞ!? 分かったら消えろ! 十秒以内にな!』


『十』



『九』



『八』



『七』



『六』



『五』


「てめぇが死ねやぁ!」

「舐めんなこらぁ!」

「落ち目のつるばみだぁ!?」

「女ぁよこせやぁ!」

「まじ殺す!」


『散弾』


『四』


「ひっ! ひぃぃぃーー!」

「にげっ、逃げぇぇーー!」

「ば、バカ押すな!」


『三』



『二』



『一』



『狙撃』



よし。これで落ち着いただろう。暴徒の八割はちゃんと逃げたようだ。十秒もあれば余裕で逃げ切れるよな。なのにわざわざ死にに来るとはバカな奴もいたもんだ。

見たところこいつらは普通の労働者って感じか? アラナカの住人ってことはそれなりにいい暮らしをしてるんだろうに。まあどうせエチゴヤと無関係でもないんだろうね。ならず者感がありありだったもんな。

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